総合職フリーランスは「退職後はパート」以外の選択肢になるか

パソコンに向かう母親と隣で遊ぶ子ども

時間と場所が自由になる働き方を望む、子育て中の女性は多い

Caiaimage/Robert Daly/Getty

長時間労働の慣習、共働き経験のない世代の上司、家事育児をめぐる根強い性別分担——。第一子の出産を機に離職する女性がいまだに6割を占めるように、日本では子育てしながら働き続けるのは容易なことではない。会社を辞めて子どもが大きくなればパートや派遣社員で復職するという流れがこれまで一般的だったが、昨今、退社後にフリーランスで働く選択肢をする女性も増えつつある。

小1の壁できしみ出す

「勤められるものならそのまま会社員でいたかったです」

2人の娘を育てながら、都内の機械メーカーに正社員として働いていた橘桃音さん(39)は、2年前に会社を辞めた。長女が小学校1年生、保育園に通う次女が5歳のときのことだ。

10年勤めた会社は、男性が圧倒的に多い職場で、橘さんのいた事業所では社員50人中で正社員の女性は2人だった。育児休業の取得も橘さんが最初の一人で、自ら法律に基づいた制度を会社に提案したくらいだ。

延長保育が可能な保育園時代はなんとか乗り切ったものの、育児と仕事の両立生活がきしみ始めたのが、いわゆる「小1の壁」だ。

小学生が放課後に通う学童保育には、保育園と違い「延長保育」がない。長女も言われるままに預けられる年齢ではなくなり、学童保育を嫌がるようになった。

「この会社に女性は必要ないのか」

誰もいないオフィスに並ぶデスクトップパソコン

会社の対応に心が離れた

AFROG DESIGN UNIT/Getty

完全に心が離れたきっかけは、会社との交渉にあった。

子どもの体調急変による保育園からの呼び出しで、有給休暇は飛ぶようになくなっていた。有給休暇を時間単位で取得できるよう、ほかの事業所も含めて全社員の8割の署名を集めて人事に提出した。ところが、相手にもされずに却下された。

「この会社は、女性は必要ないんじゃないか」

そもそも女性のキャリアプランは一つもない。男性が昇級していく中で、橘さんら女性がどんなにがんばってもあくまでサポート職しか用意されない。何のために「小1の壁」に苦労しているのか。「無理してまで立ち向かうことはやめよう」。チーム仕事も好きだったし、安定した収入に厚生年金加入と、正社員のメリットは確かに大きい。泣く泣く辞める決断をした。

橘さんは現在、フリーライターとして活躍している。実は会社員時代からこつこつと続けていたブログが月間250万ページビューという人気ブログに成長。収益化に成功すると共に、仕事の依頼が舞い込むようになった。

「時間や場所に縛られずに働けることは、子育て中の主婦にとって非常にありがたい」。時短もとらずフルタイム共働きで働き続け、会社との交渉にも全力を投入してきたからこそ、身をもって実感する。

フリーランスへの「転職」が増えている

「フリーランスで働きたいという子育て女性は驚くほど多いです」

そう話すのは、フリーランスの広報として7年間のキャリアをもつ平田麻莉さん(34)だ。自身も2人の保育園児の子育て中で、多くの女性からフリーランスへの「転職」相談を受けてきた。

インターネット上で企業と個人の仕事を仲介するクラウドソーシング大手ランサーズの2016年調査によると、広義のフリーランス人口は前年比17%増の1064万人。そのうち独立したプロフェッショナルを指す「自由業系フリーワーカー」は前年比で13万人増え、その半数は女性だ。

企業で経営企画やマーケティングなど総合職を務めていた女性に対し、週3日勤務や在宅ワークなど柔軟な働き方を条件に、業務委託の形で仕事を紹介するWaris(東京都港区)は13年に創業。初年度で500人弱だった登録者数は、今年4月時点で3600人(前年比約1800人増)と急成長している。

同社の田中美和代表(39)は「職場の両立支援の環境は整ってきているが、育児期人材は長時間労働に基づく制度や評価の壁にぶち当たることも多い。時間・場所にとらわれず能力発揮できるフリーランスに魅力を感じて、一歩を踏み出す現状がある」とみる。

「労働者」とみなされず法の適用外

ただし、女性がフリーランスで働くスタイルは、日本社会で必ずしも一般的ではないことから、思わぬ困難を伴うのも事実だ。

例えば待機児童問題で争奪戦の様相を帯びる、保育園入園のための活動「保活」。フリーランスへの無理解エピソードは事欠かない。

そもそも自治体によっては、在宅フリーランスは減点対象だ。会社員同様もしくはそれ以上働いていても「保育の必要性」を低く評価されてしまう。

多くの自治体で、入園審査に必要な書類では「直前数カ月の収入」を書く欄がある。フリーランスだと、毎月一定額の収入が振り込まれるわけではない。働いているのに直近の振り込みがないからといって「労働実績がない」とみなされたら、完全に不利だ。

上の子を保育園に預けて出産を迎えたフリーランス女性は、妊娠中毒症を患い、出産後は安静状態だった。ところが産後10日で「いつから働きますか」。役所の担当者から電話がかかってきたという。

会社員なら法律で保障されている「産後休暇」がフリーランスにはないため「仕事の実績がないと退園になる」。プレッシャーをかけられた。

リスクは保活にとどまらない。

会社が作成する「勤務証明書」がなければ入れない学童保育もある。そもそも労働法上の「労働者」に該当しないとみなされるフリーランスは、労働法の対象外。長時間労働規制や最低賃金がないのはもちろん、育児休業給付も、病気やけがをした時の労災保険もない。

「規格外」からの脱出

1月のフリーランス協会立ち上げで、設立メンバーと賛同企業や経産省担当者がの集合写真。

社会保障やネットワークを構築する動きも

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会提供

フリーランスの働く環境をめぐっては新たな動きも生まれている。

フリーランス広報の平田さんは今年1月、フリーランス仲間と「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」を立ち上げた。金融機関で「勤め先がないと信用力ゼロに等しい」と言われたり保活や学童で苦労したりと、数々のエピソードを聞いてきた平田さんが「フリーランスは社会の規格外」と感じた経験がベースにある。平田さんが代表理事を務め、フリーの立場で働くと欠如しがちな社会保障やネットワークの構築など「フリーランスの共助」の仕組みづくりが活動目的だ。

賛助協力企業は4月末時点で50社に増え、メルマガ会員は2200人以上に達した。労働力活性化の面からもパラレルワークやフリーランスに注目する経済産業省とも連携。政策面からの後押しも期待される。

協会は副業や複業の人も対象にするなどオープンで、必ずしもフリーランサーを増やそうとするものでもない。「フリーランスで働く時期のあとにまた会社員で働きたくなることもあるかもしれない。ライフイベントや興味関心によって、自由に選択できるのが理想」(平田さん)。

急激な少子高齢化で人口減少社会を迎える日本。国立社会保障人口問題研究所の推計では、10年には8000万人以上だった生産年齢人口(15〜64歳)は、30年に約6700万人に減少。東京都の人口がまるごと消えるインパクトだ。

市場の人材難が逼迫する中で、クラウドソーシングや総合職フリーランスの人材紹介など、インターネット上のマッチングサービスは急速に成長。やむなく退社に追い込まれる女性の「次の選択肢」が主婦か低賃金の非正規雇用のみという状況は、変わりつつある。

働き方の自由化がもたらすのは、選択肢の多様化だ。会社や行政や法律より先に、当事者である女性たちと市場が、動き出している。



終身雇用、年功序列、長時間労働……日本の大企業を中心に長く続いてきた雇用システムが低成長とグローバル化、テクノロジーの進化により崩壊しつつある。BUSINESS INSIDER JAPANでは、〔働き方シフト〕と題し、働き方自由化の最前線で何が起きているのかを定期的に報告する。今回は子育て中に退職した女性たちの〔キャリア編〕。

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