「ルペンは極右ではない」—— “ルペンに一番近い日本人”が断言する

フランス大統領選挙の決選投票が5月7日に迫った。中道独立系候補のエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相(39)と、日本では「極右」と報道されている国民戦線(FN) のマリーヌ・ルペン前党首(48)の一騎打ちだ。

直近の各種世論調査ではマクロン氏優位を伝えるものが多いが、「私は五分五分と見ています」というのは民族派団体「一水会」の木村三浩代表だ。国民戦線とはマリーヌ氏の父、ジャン=マリー・ルペン党首の時代から親交があり、三女のマリーヌ・ルペン氏とも13年来の付き合いがある。4月25日に日本で出版されたマリーヌ・ルペン氏の演説集『自由なフランスを取りもどす——愛国主義かグローバリズムか』(花伝社)の編者にもなっている。

マリーヌ・ルペン仏大統領候補

フランス南部ニースで、拳をあげて演説する「国民戦線」党首マリーヌ・ルペン氏

Aurelien Meunier/Getty Images

今年2月5日、フランスのリヨンで開かれたルペン氏の出馬決起集会に激励に駆けつけた。久しぶりに再会したルペン氏は以前より貫禄とカリスマ性に磨きがかかっていた。通訳を交えた意見交換をしながら木村氏は、「これは、間違いなく決選投票に残る」と確信したという。

日本でいちばん「ルペンに近い男」を直撃した——。

「隠れルペン」はトランプ以上か

——世論調査ではマクロン氏の優勢が伝えられるなか、木村さんがルペン氏の勝算を五分五分と見る根拠はなんですか?

木村:いろんな予測が出ていますが、だいたい6:4でマクロン氏という結果です。2002年の大統領選ではルペン氏のお父さんのジャン=マリー・ルペン氏がジャック・シラク氏との決選投票になり、シラク氏が「父ルペン」に5倍近い差をつけて圧勝した。それが今回は「6:4」というのだから大接戦です。しかも、これは表面的な数字であって、実際には「隠れルペンファン」が相当数いる。アメリカ大統領選の「隠れトランプ」と似たような現象が起きている。いや、トランプ以上かもしれません。

——極右の泡沫政党と見られていた国民戦線がここまで支持を伸ばした理由はなんでしょう? フランス国民も右傾化が進んでいるということでしょうか。

木村:まず、国民戦線は愛国者の私からみるとまったく「極右」ではありませんね。その話はおいおいしますが、躍進の理由は3つあります。

ひとつは国民のEUに対する反発です。EUができたことでフランス国内の自由主権が損なわれていると感じている人が非常に増えた。統一通貨「ユーロ」になって、グローバルな多国籍企業が国内市場を席巻し、国内資本が衰えてしまった。農業でも何でもEUの基準が押しつけられ、それまでのやり方が通用しなくなった結果、多くの人たちが職を奪われた。

ふたつめは、移民・難民問題です。これもEUの決まりで、義務的な受け入れ人数を割り当てられる。移民の多くは出身国の文化や伝統をそのまま持ち込んでくるから、街の風景が昔とは一変してしまうことがある。国民戦線は「移民排斥」を主張していると誤解されていますが、ルペン氏は「(受け入れ人数枠を)せいぜい1万人程度にしてほしい」と言っているにすぎないんです。

そして、3つ目は頻発するテロでしょう。私が行った2月にもルーブル美術館でテロが起きて、警備をしていたフランス兵がエジプト系の人に刺された。つい先日も、ニースでトラックのテロがあった。ルペン氏は当初から、職業の確保、移民制限、治安強化、そしてフランスの良き伝統を守ることを主要な政策に掲げていました。

——日本にいると、ルペン氏に対して、どうしても「極右」のコワモテの印象が拭えません。新聞には必ず「極右政党『国民戦線』」と書いてありますから。

ルペン氏と一水会の木村三浩代表

ルペン親子と長年親交がある一水会代表の木村三浩氏。今年2月、フランスのリヨンで開かれた出馬決起集会に参加し、ルペン氏と会食した。

提供:木村三浩氏

木村:それは日本のマスコミが実態をよく見ていないからでしょう。ルペン氏が日本では極右扱いされていることを私が伝えると「わかってないわねぇ」という顔をしながら、「でもフランスでは、私たちが主張してきたことが多くの人にちゃんと理解されるようになってきた」と話していました。これは、国民戦線自体のアプローチの仕方が先代のジャン=マリーの時代とは違っているということもあります。

——つまり、「元極右」が軟化したということでしょうか?

木村:ちょっと違います。福祉の充実や弱者救済など左派的な政策を取り入れるようになっている部分はありますが、国民戦線の主張自体に大きなブレはありません。国民戦線の軟化というよりも、フランスの国自体が国民戦線の政策を受け入れざるを得ないほど、主権や伝統、独自文化が危機的状況になっているということでしょう。

ルペン支えるエリート集団「ENA」

木村:アプローチの仕方という点で父の時代と決定的に違うのは、ルペン氏のもとに多様な人材が結集しているということでしょう。元社会党や共産党、共和党の議員だった人たちがどんどん合流しています。既存政党の限界を知り、展望を失った人たちです。さらに、ストラスブールにあるフランス随一のエリート官僚養成学校である国立行政学院(ENA)の出身者がルペン氏の応援に集まっている。かつての国民戦線の非エリート主義とは180度の様変わりです。 私が編んだ本の最終章にルペン氏の掲げる144の公約が出ていますが、まとめたのはENA出身で40歳の現役のフランス国防省の職員です。かつて「極右」のレッテルを貼られて危険な存在と見られていた国民戦線が、アイデンティティの危機によって右も左も関係ない「国民政党」のような存在に生まれ変わったというのが正しい。

それを象徴するのが、選挙キャンペーンで「ルペン」という名前をほとんど前面に出さなかったことですね。ポスターやチラシには「マリーヌ」という名前しか書いてない。彼女が大統領選のために一時党首を辞任したのも、フランス国民全体のリーダーたらんという自覚の表れです。

——父親との確執も、その路線のためなのでしょうか?

木村:2年前、マリーヌ氏が父親を党から除名する事件がありました。父のジャン=マリー氏がラジオの番組でホロコーストを否定するかのような発言をしてヨーロッパ中から非難された。マリーヌ氏もその発言を問題視して、父であり党の創設者であるジャン=マリー氏をスパッと切ったんです。マリーヌ氏とすればかつての一部の熱狂的な“信者”を集めた政党から、現実と向き合い、政権を目指すことのできる政党へ生まれ変わる手続きだったと思います。

2月にマリーヌ氏と会う前日に父親のジャン=マリー氏と食事をしたんですよ。ジャン=マリー氏は私に娘の名前は一言も口にしないで、ただ「好機到来だ!」と言ったんです。もちろん私が翌日、マリーヌ氏と会うとは言っていないし、知らなかったと思います。

ルペン氏が口にした「トランプとのこと」

木村:パリ第2大学卒で弁護士出身のマリーヌ氏は私と初めて会ったときから、自分の思ったことをストレートに話し、凛として仕事をこなす印象でした。父親はそんなマリーヌ氏に「わが政治家人生で唯一やり遂げられなかったのは、大統領になれなかったことだ」と言って国民戦線の代表の座を譲りました。いまは喧嘩別れしているけど、心のどこかでは自分が果たせなかった夢を娘がかなえてくれることを望んでいるのだと思いました。

——当のマリーヌ氏は?

木村:同じようなことを言っていましたよ。私と会うなり「トランプ氏がアメリカ大統領になったことは世界的な流れとしていいんじゃないか。私たちにも追い風だ」と。そこはやはり、親娘なんだと思いましたね。それぞれが手応えを感じているのだと思います。決選投票が楽しみです。


山口一臣:ジャーナリスト、情報発信集団「THE POWER NEWS」主宰。元週刊朝日編集長。2016年に独立し、現在デジタルメディア立ち上げのために毎日奔走中。

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