Windows10Sの初採用ノートPCとなるSurface Laptop。タブレット型ではなく通常のクラムシェル型ノートだ。タッチやペン入力にも対応するが、ディスプレイは180度までは開かない。
Drew Angerer/Getty Images
マイクロソフトは5月2日(米国時間)にニューヨークで行った教育向けの記者会見で、Windows10の新しいSKU(バリエーション)である「Windows 10 S」、そしてWindows 10 Sがプリインストールされた初のノートPC製品となる新型Surface「Surface Laptop」を発表した。Windows 10 Sは、Windowsの一部機能を制限し、セキュリティー性と生徒や教職員とのコラボレーション、校内利用時の管理性なども確保した「文教向けOS」として機能するようにしたものだ。
日本ではあまり知られていないが、北アメリカにおけるスクールPCのマーケットでは、GoogleのChromebookに搭載されるChrome OSが非常に大きなシェアを獲得している。
例えば、2017年3月にイギリスの調査会社Futuresource Consultingが発表したレポートによれば、北米のK-12セクター(※)におけるOSシェアは、16年には58%に達している。一方のWindowsは22%に過ぎない。
記者会見で壇上に立つサティア・ナデラCEO。
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ChromeOSがここまでのシェアを獲得しているのは、マイクロソフトにとっては明らかに脅威で、何らかの手を打ちたいと考えるのは極めて自然な判断だ。
Windows 10 Sのターゲットはズバリ、このスクールPC市場。Chrome OSと真っ向対峙して、市場の奪取を狙ったものだ。搭載PCの価格設定も非常に戦略的で、今夏からパートナー企業が発売するWindows10S搭載PCは、Chromebookと同程度である189ドル(約2万1000円)という価格帯から登場すると発表している。
K-12市場におけるOSシェア。アメリカ国内においては、GoogleのChrome OSが圧倒的なシェア58%を獲得している。北米以外の国でのWindowsシェアとでは、逆転の構図がみえる
Futuresource Consulting
※K-12:幼稚園〜高校卒業までの教育期間のこと。K-12の"K"はkindergarten(幼稚園)の"K"に由来
Windows 10 SはHome版ではなくむしろPro版に近い
冒頭に「一部機能を制限」と書いたので誤解した人もいるかもしれないが、実はWindows 10 Sは「機能を制限して安くライセンスする」というような、単なる機能制限版のWindowsではない。 マイクロソフトが発表しているFAQ(なんと、もう日本語化されている)によると、機能としてはむしろ、最上位SKUであるWindows 10 Proに近い。
マイクロソフト公式のWindows 10 Sと、ほかのSKUとの機能比較表。チェックマークの多さから、Windows 10 Sのベースは、Home版よりもむしろPro版の方が近いということがわかる。
Microsoft
通常利用の範囲で「制限」を感じる部分は、インストールできるアプリがWindows用のアプリストア「Windowsストア」アプリに限定されること、そしてブラウザがMicrosoft Edgeになることだ。
アプリをストア経由でのインストールに限ることには、一定のセキュリティ性を担保しつつ、文教向けに不向きなアプリを排除しようという狙いがあると考えられる。Windowsストアはマイクロソフトの認証を通ったアプリが並んでいるため、悪意あるコードや振る舞いをするアプリの排除に一定の効果があるのは確かだ。
すでにデジタルドキュメントの社会インフラとなっているOfficeアプリについては、「Microsoft Store for Education」でWord、Excel、PowerPointを含む文教向けのストア版Office(Office 365 for Education)を6月から配信することが米マイクロソフトのOffice Blogで発表されている。
同ブログによればOffice 365 for Educationは、学生と教員向けに無料で提供するとしている(ちなみに、無料提供されるのはオンライン版のOffice365 for Educationのみ。デスクトップ版のOffifceアプリは学生向け月額6ドル、教職員向け月額8ドルでの有料提供となる)。
Windows 10 Sは日本にも上陸する
とはいうものの、Windowsストアは、アップル(iOS)のAppStoreやAndroidのGoogle Playの充実ぶりからは大きく水をあけられた状況にある。では、10 Sを使っていてWindowsストアにはないアプリが必要だったり、ブラウザにGoogleChromeが使いたい場合は? その回答は、「Windowsストア経由で"手頃な価格で"Windows 10 Proに切り替えられる」というのがマイクロソフトの言い分だ。
このあたりからも、マイクロソフトとしてもWindows 10 Sは文教向けにフォーカスしたOSであって、たとえば「ビジネスマンや家庭用OSとしても十分だ」などと言うつもりはないということがみて取れる。
なお、初のWindows 10 S搭載ノートとなるSurface Laptopは、北アメリカ市場では$999〜(約11万2000円)で6月15日出荷開始予定となっている。また、少なくとも米国で販売されるモデルについては年内はWindows 10 Proへ無償でアップグレードできる仕様になっている。
Windows 10 SのOEMパートナー企業には、DELLやHP、ASUS、Acerといった日本でもなじみのある海外メーカーに加えて、日本国内市場に強みをもつ富士通と東芝が名を連ねている。日本国内向け展開も当然あるという布陣だ。
果たして、国内向けのWindows 10 S搭載ノートがどの程度出てくるのか。そして日本の文教向け市場にどこまで戦略的に食い込ませる意図があるのか?これには、今後のマイクロソフトの国内発表を注視していく必要がある。
Surface Laptopの重さは約1.22kg。13.5インチ(2256 x 1504ドット)の高解像度な液晶ディスプレイ、CPUはCore i5から。$999のエントリーモデルではメモリーが4GBになる。
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Surface Laptopは、タブレット型(2-in-1)Surfaceの意匠を継承して、パームレスト部分に手触りがよく高級感もあるアルカンターラ素材を採用。価格は$999から。
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