南極大陸ラーセンC棚氷を走る幅300フィート(約91m)の亀裂、2016年11月撮影
John Sonntag/IceBridge/NASA Goddard Space Flight Center
- 南極大陸最大級の棚氷の一つであるラーセンC(Larsen C)に大きな亀裂ができた。亀裂が進んで氷山が分離されれば、その大きさはロードアイランド州の2倍のサイズに及ぶ可能性がある
- この亀裂は最近2つに分かれ、北に向かって分岐した
- この棚氷が分裂した場合、背部にある氷塊が不安定な状態となり、海に押し出される可能性がある
ロードアイランド州の2倍近い大きさがある氷塊が、南極大陸から分離しようとしている。今回新たに発表された衛星写真から、危機が進行していることが明らかになった。
この巨大な氷塊は南極大陸の先端にあるラーセンC棚氷の一部だ。この棚氷に走る一本の広い亀裂は、2010年以来急速に伸び、現在では約120マイル(約193km)にも及ぶ。
科学者たちによると、亀裂の先端部分に、6マイル(約10km)にわたる分岐が形成されている。また、ここ2カ月以上亀裂の主要な部分は拡大していないように見えるが、新たな分岐が北の南極海方向に伸び、この氷塊が分離する恐れがあるという。
「ラーセンC棚氷から氷塊が分離した場合、その面積は10%超減少し、先端部分の位置が計測史上最も後退することになる」と、英国スワンシー大学の科学者エイドリアン・ラックマン(Adrian Luckman)氏およびマーティン・オライリー(Martin O’Leary)氏はブログに記している。5月1日に公開された記事によると、この氷塊が分離すれば、「南極半島の地形が変わる」という。
別の衛星データによると、氷塊がラーセンC棚氷の残りの部分と比べて速いスピードで南極海の方向に動いており、亀裂が広がっている。
「亀裂の長さはここ数ヶ月間は大きく変わっていないが、亀裂の幅は1日あたり1mを超える速度で着実に広がっている。新たな分岐が生じて以来、幅の広がりは目に見えて進んでいる」と、ラックマン氏およびオライリー氏は指摘している。
ラーセンC棚氷は南極大陸から突き出た半島の沖にあり、海上に浮かんでいるために「棚氷」と呼ばれる。雪が積み重なり、古い氷河の氷を海へと押し出すにつれ、棚氷が巨大な氷山に分かれるのは自然な現象だ。だがこの氷塊の分裂がもたらす影響は、非常に大きくなる恐れがある。
亀裂の拡大
ラーセンC棚氷の位置
Diti Torterat/Wikipedia (CC BY 2.0)
問題になっている氷塊は巨大だ。南極海側先端部分の厚さは少なくとも1100フィート(約335m)。内陸側はさらに厚い。面積は約2000平方マイル(約5180平方キロ)だ。氷塊は急速に不安定になっており、そのプロセスは人類が引き起こした気候変動のせいで加速しているようだ。
これまでに撮影された衛星写真を見ると、ラーセンCの亀裂は2010年頃に発生し、長さは2016年6月時点には数十kmまで伸びた。2016年11月、NASAによる「オペレーション・アイスブリッジ」(Operation Icebridge)というプロジェクトで、科学者たちのチームが亀裂を上空から調査したところ、その規模は少なくとも長さ80マイル(約129km)、幅300フィート(約91m)、深さ3分の1マイル(約536m)であると確認された。
2017年1月にはスワンシー大学のグループによってさらなる調査が行われ、この氷塊全体が全長12マイル(約19.3km)の氷によって支えられていたことが明らかになった。
ラックマン氏は1月6日のプレスリリースで「これが今後数カ月間で分裂しなければ、驚きだ。分裂するのは時間の問題で、避けることはできないと考えている」と述べた。
下の画像は、今年5月1日までの亀裂の進行状況を表している。この画像に使われたデータは、アメリカ地質調査所(US Geological Survey)のランドサット衛星1号(Landsat-1)と、欧州宇宙機関(European Space Agency)のセンチネル1号(Sentinel-1)衛星のものだ。
南極のラーセンC棚氷を走る巨大な亀裂の衛星写真(2017年5月1日現在)
MIDAS/ESA/USGS
下図のセンチネル1号衛星のデータのうち、白、濃いピンク、赤紫の部分では、氷の表面が最も速く移動しており、氷塊が崩壊する恐れがある。
赤とオレンジの部分では氷が比較速く移動している。最も遅い部分は、黄、緑、青で示されている。
Adrian Luckman/MIDAS/Swansea University; Business Insider
ラックマン氏とオライリー氏によると、現在南極は冬を迎え視界が悪いため、亀裂の進行度合を正確に読み取ることは難しいという。
かつてはNASAの氷・雲・標高観測衛星(ICESat)が、南極の氷を一年中観測し、最新のデータを提供していた。しかしこのミッションは2009年に終了したため、今では調査チームは亀裂の評価判断のために飛行機を使わなければならない。
後継の衛星ICESat-2は、2018年まで打ち上げの予定がない。2016年12月、トランプ大統領の政権移行チームは、こうした地球科学の研究に使われるNASAの予算を削減する可能性をほのめかした。これは、NASAが設立された59年前の状態に戻されることを意味する。ところが、トランプ大統領がNASAの移行認可法案に署名したことにより、このプログラムが続行される可能性も出てきている。
「ここまで大きな亀裂はそう頻繁に生まれるわけではないため、実物を間近で研究する機会もめったにない」
NASAゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)の氷河学・地球物理学者ジョー・マグレガー(Joe MacGregor)氏は、Business Insiderに対し、電子メールで語った。
「こうした亀裂を研究すればするほど、亀裂の変化や氷床および海洋に与える影響をより正確に予測できるようになる」
氷上を飛行機で飛ぶというNASAの計画は、2019年末まで資金提供を受けることになっており、「アイスブリッジ」(IceBridge)という詩的な名前で呼ばれている。
大規模な解氷
蛇行して伸びるラーセンC棚氷の亀裂の様子。アイスブリッジ計画の飛行機から撮影
John Sonntag/IceBridge/NASA Goddard Space Flight Center
この氷塊が崩壊すれば、計測史上3番目に大きな崩壊となる可能性がある。
マグレガー氏は、次のように述べた。
「その場合、氷塊はウェッデル海から南極海へ流れ出し、時計回りにめぐる海流に巻き込まれた後、溶解する。大きさを考えると、少なくとも数カ月はかかるだろう」
一部の研究者によるコンピュータ上のシミュレーション結果に基づくと、巨大なラーセンC棚氷の亀裂は、約1万9300平方マイル(約3万1000平方km、マサチューセッツ州の面積の約2倍)もの大きさの棚氷全体を、一種の連鎖反応により不安定な状態にしてしまう恐れがあるという。
しかしマグレガー氏とラックマン氏は共に、この可能性をそこまで重く見ていない。
「この先数カ月から数年以内に、亀裂がさらに広がり、最終的には氷塊が崩壊するだろうと私たちは予測している。ただしそれを予測するのは難しく、現在よりもさらに不安定な状態になることも考えられる」とラックマン氏は声明で述べた上で、「今すぐに崩壊するということはないだろう」とも付け加えている。
それでも、棚氷が急速に崩壊した前例がなかったわけではない。
2002年、ラーセンB棚氷周辺の氷塊が折れたとき、それから1カ月以内に、その奥にあった1万年前のさらに大きな氷塊が、予測外に崩壊した。ラーセンBの残りの氷塊は、2020年までに分裂するかもしれない。
ラーセンCの亀裂に関する良いニュースがあるとすれば、棚氷が「もう海に浮かんでいるので、すでに同等量の水を押しのけ、結果として少しずつ海面を上昇させてきた」ことだとマクレガー氏はかつて述べた。つまり氷山が分離して溶けたとしても、これ以上海面は上がらない。
悪いニュースとしては、ラーセンC棚氷全体が崩壊することがあれば、海面が年月とともにさらに4インチ(約10cm)上昇する可能性がある。そしてラーセンC棚氷は、気候変動の影響を受けている世界中の氷山や棚氷の中の一つでしかないのだ。
[原文:A huge crack in a 1,000-foot-thick Antarctic ice block has taken an alarming turn]
(翻訳:Conyac)