「新型ミラ イースのキーワードはズバリ『安全・安心』」(ダイハツ工業 国内マーケティング部主任 橋本駿太郎氏)
自動運転や電動化、テスラの時価総額がフォードやGMを抜き、アメリカの自動車メーカーの首位になったなど、今、自動車関連のニュースが賑やかだ。自動運転へのIT大手の参入、ライドシェアといった新サービスの登場もあり、新しいプレーヤーが続々と参入している。一方で、「自動車」という産業自体が新たなテクノロジーや価値観を創出している産業であることは揺るがない。
大きな転換期にあるいま、ダイハツ工業は5月9日、主力モデルである「ミラ イース」を6年ぶりにフルモデルチェンジした。新型ミラ イースのキーワードはズバリ「安全・安心」。「日常生活に寄り添う」存在だからこそ、あえて自動車に求められる最も大切な「価値」を前面に出した。そこに込められた意図や思いを国内マーケティング部主任、橋本駿太郎氏が語った。
新型ミラ イースに込めた思い
自動車業界はいま、大きな転換期にありますが、もうひとつ見逃すことのできない流れがあります。「安全・安心」への取り組みです。自動運転や電動化が、未来へ向けての取り組みだとすれば、「安全・安心」への取り組みは、今すぐに取り組むべきもの。ドライバーはもちろん、家族や社会全体にとって最も身近な、そして最も大事にしたい取り組みです。
新型ミラ イースの最大の特長は、低燃費、低価格というこれまでの魅力に加え、「安全・安心」をより身近なものにするために、緊急ブレーキなどの予防安全機能をより強化したこと。もちろん多くの人に手の届きやすい価格を実現しました。
新車販売台数のうち、軽自動車は実に約4割を占めています。「生活の足」として必需品となり、一人一台とまで言われるほど普及している地域も少なくありません。軽自動車の進化は、まさに日本における自動車と、自動車を取り巻く社会の変化と言っても過言ではないと思います。どんなに優れた機能も、多くの人が手にすることができなければ、社会的な意味は小さいまま。軽自動車が担う役割を大きいと考えています。
ユーザーマインドの変化と「スマートアシストIII」
ダイハツ工業は、2006年度から11年連続で軽自動車販売台数トップを守り続けています。その秘密は、徹底したユーザー目線にあります。軽自動車は生活に密着した存在で、地域によっては、もはや「ライフライン」とも言えます。だからこそ、常にドライバー、その家族、そして社会のニーズに応え、ニーズを実現する商品開発を心がけています。
例えば、当社で最も売れているタントは子育てユーザーの声を反映し、子どもが乗り降りしやすいようにスライドドアを採用し、車内で子どもが着替えもできるようにしました。一方、そこまでの室内高は必要ないものの、スライドドアの利便性を求める人にはムーヴ キャンバスが人気となっています。
買い物に行った時、大きなリアハッチを開けなくても、狭い駐車場で気軽にスライドドアを開けて荷物を出し入れしたいといったニーズに応えました。
新型ミラ イースでは「安全・安心」の強化に力を注ぐ。
新型ミラ イースでは、「安全・安心」の強化に力を注ぎました。かつては軽自動車と言えば、経済性、つまり燃費性能や環境性能が注目されていましたが、もはや燃費が良いことは当たり前です。一方で、踏み間違いなどの事故の報道も増え、予防安全機能への関心や社会的注目度が高まっています。
これについては、実際にユーザーの意識の変化もあります。最新の調査によるとこれまで「運転しやすさ」の次に重視されていた「燃費」を、「乗り心地のよさ」「安全性・安心感」が上回っています(※1)。
私たちは、「お客様に一番身近なメーカー」として、すべてのドライバー、同乗者、見送る家族、そして歩行者も含めて、社会全体に対して安全・安心を低価格で提供したいと考えています。
軽自動車は日常生活に寄り添う存在です。安全機能も限られた人だけが購入できるような特別なものではなく、ダイハツのクルマを選んでいただいた方、皆さまに購入していただけるような価格設定を行い、幅広い車種に設定しています。2012年12月から緊急ブレーキを含む予防安全機能『スマートアシスト』を導入、これまでに累計120万台を出荷しました。
新型ミラ イースには、スマートアシストの最新版「スマートアシストIII」を搭載しました。「スマートアシスト」はレーダー、「スマートアシストII」がレーダーに単眼カメラを加えた複合型だったのに対し、最新の「スマートアシストIII」はステレオカメラです。昨年末のタントから導入を開始しました。
新型ミラ イースはタントと比べるとフロントガラスの面積が小さく、角度も寝ているため、大きな設置面積が必要なステレオカメラは設置が難しい。そこで装置の小型化に取り組み、世界最小のステレオカメラを採用しました。車種を問わず搭載できるようになり、より多くの人に安全機能を提供できるようになりました。
求めやすい値段設定の理由
どんなに素晴らしい機能でも、手が出せない高嶺の花では意味がありません。だからこそ当社は価格に厳しい目線を持つ方々に、その機能性に満足し、納得したうえで選んでいただけるよう努力を続けています。
スマートアシストIIIの開発では、事故のデータを分析し、車両相互追突は事故全体の37%。そのうち83%、特に軽自動車では91%が30km/h以下で起きていることに着目しました。事故の多くは高速域で起きているのではなく、低速走行時に起きているのです。機能をこの領域にフォーカスすることで、6万円の追加で選択でき、多くの人に手が届きやすい価格を実現しました。
さらに「スマートアシストIII」では、歩行者を認識、反応する緊急ブレーキ機能も追加しました。わかりやすく説明すると、これまで「片目(単眼カメラ)」で見ていた状態から、「両目(ステレオカメラ)」としたことで、遠近感がより把握できるようになり、この機能を実現することができました。
こうした機能が広がれば、運転をする人だけではなく、家族の方も安心できるし、歩行者も安心して道を歩ける世の中になっていきます。「安全・安心」をドライバーや同乗する人だけではなく、歩行者に対しても広げることで、社会全体に「安全・安心」を提供していきたいと考えています。
緊急ブレーキだけではない安全性、運転しやすさの提供
「安全性能というのは緊急ブレーキだけではありません」(橋本氏)
その他、「スマートアシストIII」では、ブレーキの踏み間違いによる事故を防ぐ急発進抑制機能や車線逸脱警報、先行者発進お知らせ機能、先行車/対向車を発見すると自動的にロービームに切り替えるオートハイビーム機能を実現しました。
さらに軽自動車初となる4隅のコーナーセンサーをスマートアシストIII搭載車には標準装備とし、縦列駐車や車庫入れ時の運転しやすさはもちろん、小さな子どもが死角に入った時も気づきやすくなるなど、より安心して運転できる機能を充実させました。
安全性能というのは緊急ブレーキだけではありません。スマートアシストを全てのお客様に選んでいただきたいのですが、いろいろな考え方があり、まだ100%というわけではありません。しかしダイハツが取り組んでいる安全・安心をお客様にじっくり説明していくことが大切だと考えています。次に軽自動車を購入する時は、必ずつけようと考える人が一人でも増えてほしい。そうすれば安心な世の中につながっていくと考えています。
実際に、車の安全機能の向上にとどまらず、高齢ドライバーによる事故を防ぐために、全国の販売店が地方自治体と協力して「健康安全運転講座」を実施する取り組みを本格的にスタートさせました。今後、より一層、拡大していく予定です。
「安全・安心」を、ドライバーから家庭、そして社会全体へと広げていきたい、それが新型ミラ イースに込めた、我々の思いであり、願いなのです。
※1:自動車に関する実態調査(クロス・マーケティング)
Text:野間恒毅、Photo:渡部幸和