アメリカ株式の「恐怖指数」が示すものは、嵐の前の静けさか?ベテラン・ストラテジストに聞いた

ウェルズ・ファーゴ・ファンズ・マネジメントのジョン・マンリー氏

ウェルズ・ファーゴ・ファンズ・マネジメントのチーフ株式ストラテジスト、ジョン・マンリー氏

Bloomberg TV

株式市場が静かだ。静かすぎる。

その証拠に、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のVIX指標(ボラティリティ・インデックス)を見てほしい。投資家の不安心理の度合いを示す指数とされるVIX指数は5月8日、1993年以来の低水準をつけた。

VIXは「恐怖指数」とも呼ばれ、将来の投資家心理を示す数値として使われている。指数が高ければ、投資家が相場の先行きに対する不透明感が高いとされる。

ウォール街のトレーダーやストラテジストたちは、何週間も前から一様に困惑している。指数と同様に状況は落ち着いているのか、あるいは指数は水面下でくすぶる株価下落の危険性を覆い隠すものなのか、彼らは測りかねている。

2300億ドルを運用するウェルズ・ファーゴ・ファンズ・マネジメントのチーフ株式ストラテジスト、ジョン・マンリー(John Manley)氏は、VIX指標が最低水準になったからといっても、かならずしも警戒感を持つ必要はないと考えている。同氏は、楽観的な見通しが問題になるとしたら、それがあまりにも広まりすぎて警戒感が全くなくなった場合だけだと考えている。

同社の株式部門の重鎮であるマンリー氏に、ボラティリティ(変動性)の低い市場環境や株式の割安・割高感、選挙後の株価の推移、強気の相場が今後どうなっていくかについて聞いた。

BI:VIX指数が低水準であることについてどう思われますか? VIXは正しく機能していないという声もあれば、投資家には市場ショック(下落の危険性)についての危機感がなさすぎるという声もあり、意見が割れています。あなたのお考えは?

マンリー氏:皆、楽観的だと思います。しかしVIX指数は、ほかの指標と同様、現状を評価することはできても、それがどの程度続くのかを判断することはできません。猛烈な下げ相場は、過度の楽観だけで起こることはなく、あらゆる面で楽観が当たり前になってしまった場合に起きます。懐疑的な見方が健全に働いていれば、市場はまだかなり安定していられると思います。

人は絶えず神経を尖らせていることに疲れています。そのため、油断したり、楽観的になったりしているのかもしれません。そうした姿勢が振り払われるには何が必要でしょうか? 5%の調整? それとも10%? その程度の下落については、残念ながら我慢しなくてはなりません。そして、大きく下げたらVIXも反応するでしょう。

BI:現在の強気相場に水を差すものがあるとすれば、それは何でしょうか。ここ最近でもっともそうなるかと思えたのは、2015年に中国が突然、人民元の切り下げを行って急落した時でした。その後にも、後のイギリスのEU離脱やアメリカ大統領選挙(の予想外の結果)といった地政学的リスクが訪れましたが、株は売られるのではなく、誰もが押し目買いしようとしました。

マンリー氏:古くからの言い伝えに、「400ヤード先に見えるトラックにひかれることはない」というものがあります。問題が起きそうだと分かっていれば、人はそれに対処しようとするのです。イギリスのEU離脱は驚きでしたが、一方でそうなる可能性を認識していました。

私の考えでは、2008年の金融危機は、単にリスクが見えていなかったことが原因だと思います。彼らはリスクに手を出しましたが、それをリスクだとは思っていなかった。予防策は万全だと考えていたのです。リスクの認識と、リスクを予期する文化がある限り、現状の勢いは続くでしょう。

では、強気相場に水を差すのは何か。一番は、企業収益が予想を下回ることです。ここ4〜5カ月ほど期待感が高まってきたことは知っていますが、それが後退し始めたらどうなるか。そうなれば相場も下がります。

私は、経済とは、両側がぬかるんでいる幅広い道を進むようなものだと考えています。ぬかるみとは、インフレとデフレです。相場に打撃を与えるのは、私たちが知らぬ間にどちらかのぬかるみに足を踏み入れてしまった時です。

BI:株式市場は過大評価されているのでしょうか? 人々の見方は両極端に分かれています。つまり、これほどの相場はITバブル以来であり、いずれはじけると考える人もいれば、心配無用だという人もいます。どのお考えですか?

マンリー氏:株式相場は恐らく、過大評価されている。しかし私としては「評価が高い」という言い方をしたい。「高い評価」の中では低い方です。つまり、何か良からぬ事態が起これば、株価は通常よりも大きく下落するでしょう。しかし、何も起こらなければ、下落することはないでしょう。現状は割安な状況ではありません。

株価上昇につながるファンダメンタルズ、つまり、より良い企業業績、経済活動を抑制しようとしないFed(米国連邦準備銀行経済)の姿勢、弱い規制強化の流れ、そして場合によっては減税。これらが実現すれば、相場はさらに上昇する可能性があります。

1996年には、米連邦準備制度理事会のアラン・グリーンスパン議長(当時)が「根拠なき熱狂」にあるのでは? と疑問を投げかけました。その状態はそれから4年も続きました。私がこの業界に入ったのは1979年でしたが、その直前の5年間、相場は割安で、その状態は4〜5年続きました。相場は上昇を続ける可能性があるのです。

株価をもとに(下落の)タイミングを読むのは難しいことです。相場は市場でのさまざまな取り引きから生まれるものであって、市場を引っ張っていくものではないと思います。

BI:金融や製造業など、トランプ大統領の政策で最も恩恵を受けるとみられる業界が急騰しています。これから先、最も見込みのある分野はどこだとお考えですか?

マンリー氏:テクノロジーは依然として有望な分野だと考えています。現状、割高なのかどうかは分かりませんが、もしかしたらそうかもしれません。今から3〜4年後を考えると、賃上げ圧力があると思いますが、経営側はそれに応じたがらないでしょう。賃金が押し上げられた場合、マネジメント側は価格に転嫁できるとは考えませんから、生産性を向上させざるを得なくなります。つまり、テクノロジーへの投資は増えます。その結果、生産性は向上し、従業員の賃金も上げることができます。

もう1つのテクノロジーはヘルスケアです。病院が好きな人はいないでしょうけど、その一方で、誰もが長生きを望んでいます。今後、ヘルスケア業界には、大きな期待が寄せられるでしょう。新たなテクノロジーや高齢化、人々の寿命を延ばすような商品の登場によって、GDPに占める割合が上昇していくからです。

一方で、ヘルスケア関連企業の株価はほどほどです。トランプ大統領と民主党の双方が、ヘルスケア企業を痛烈に批判しているからです。ヘルスケア企業がアメリカ国内で利益をあげられると考えれば、他の企業も追随するでしょう。結局、我々はヘルスケアにかけるコストに不満を持っても、その上昇を抑えることは難しいでしょう。

BI:最も痛手を受ける業界はどこだと思いますか? つまりS&Pで最も価値のないのはどこでしょうか?

マンリー氏:全く価値がないと思うところはありません。私はまだ市場をかなり前向きにとらえています。金融株でもありません。株価上昇は急に止まりましたが、環境はかなり良くなってきています。市場の評価がファンダメンタルズの改善以上になってしまった場合、たいてい調整局面を迎えます。この場合もあまり悲観的になりたくないのです。可能性はまだありますから。

私が心配しているのは、債権の代わりとなるものです。例えば、不動産投資信託(REIT)やユーティリティ(電気やガスなどの公益企業)、通信企業などの、いわゆる配当金を目当てにした銘柄です。上昇基調にあるのは経済とテクノロジーで、先行きが良くないのは金利です。たとえ下がるとしても、現時点から大幅に下がることはないでしょう。この環境で「普通」というのは「弱い」と同じですから。

BI:経験豊富なお立場から、これから投資を始める投資家にアドバイスをするとしたら?

マンリー氏:柔軟性を持つこと。軌道修正を恐れないこと。間違ったら、考え直すこと。誤った選択をして10〜12%下がったら、15%で損切りする方が、50%でそうするよりましです。何か起きるという予感がしたら、それは未来を予測しているのです。間違っても構いません。失敗するのは、予測が外れて、それにしがみついた場合です。

私の人生最大の過ちは、2000年の第4四半期のことです。9月に、テクノロジー銘柄の比率を引き上げたのです。まったく愚かな行為でした。しかし、最大の過ちとは、そのことではありません。10月にうまくいっていないことに気づいていながら、11月に手じまいをしなかったことです。

柔軟性を持つことは非常に重要です。気が変わってもいいのです。些細なことを気にしてあれこれ心変わりしたくない気持ちはわかります。しかし、最初に投資しようと考えた理由が、現在も引き続き投資し続けるべき理由であるかどうか、自問自答しなくてはなりません。プライドが傷つくだろうし、クライアントに電話しにくいでしょうけど、そうしなくてはならないのです。

source:Bloomberg TV

[原文:The equity chief at one of Wall Street's biggest firms breaks down the hottest story in markets right now

(翻訳:ガリレオ)

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