賛否両論のシャラポワ復帰 スポンサー企業にとってのシャラポワブランドの魅力とは?

マリア・シャラポワ選手

15カ月ぶりにコートに帰ってきたマリア・シャラポワ

Julian Finney/Getty Images

15カ月ぶりにコートに帰ってきたマリア・シャラポワ。賛否両論がある復帰の中、明らかになったのは彼女のブランド力の強さだ。スポンサーが支え続けるシャラポワの魅力とは一体、何なのだろうか?

賛否両論の多かったマリア・シャラポワの復帰

どのスポーツにおいても、偽り者はその競技を一生プレーするべきではない。

世界ランク59位、23歳のユージーン・ボーチャードは15カ月の薬物使用による出場停止処分から復帰したマリア・シャラポワに対して声を大にして自らの思いを口にした。

正当にプレーしているアスリートにとっては、彼女と同じ意見を持つ者も少なくないだろう。どれだけ偉大なるスター選手であっても、ファンや対戦相手を長く欺いてきたことが発覚すれば、それを受け入れることに苦しむはずだ。

シャラポワの復帰後初めて開催されるグランドスラムの1つである全仏オープンはある決断に迫られている。シャラポワはポルシェ・テニスグランプリでもワイルドカード(主催者推薦)を得て、出場することとなったが全仏オープンに出場するためにも同様の手が差し伸べられる必要がある。

男子世界ランク1位のアンディ・マレーはグランドスラムの大会は1人の選手の出場がもたらす影響は他の大会に比べ少ないため、連盟は売り上げや観客動員とは違った意味での決断が必要となると指摘している。そして一度失った世界ランキングの順位と主要大会への出場権は、結果を出して再びその舞台に戻るからこそ価値があると、強く主張する。

グランドスラム大会までもがスポンサーや収入源を考慮し、マリア・シャラポワに対して前例を作ってしまえば、今後の方向性を問われるだけでなく、他の参加選手からの不信感が募る可能性も出てくる。

支え続けたスポンサー企業の数々

ではなぜ、これほどマリア・シャラポワという選手に対して手を差し伸べる者が多いのだろうか。

フォーブス誌によると2001年にプロ転向を決断してから彼女が得た競技の賞金、スポンサー契約や出演料を全て合わせると3億ドル(約340億円)と予想している。想像を絶する金額からも彼女がコートだけではなく、色んな場で人々に影響を与えてきたことがうかがえる。

とは言え、禁止薬物の使用でイメージを損ねたシャラポワをスポンサーし続けるのは企業にとってもリスクが伴う。だが、彼女の元を離れたスポンサーは意外に少なかった。ランス・アームストロングやタイガー・ウッズからは多くのスポンサー企業が離れていったが、シャラポワの場合は状況を静観した企業が多かった。

彼女を長らく支え続けてきたスポンサー企業は、復帰後にライバル企業にスポンサーとなる機会を譲ってしまう可能性を恐れた。出場停止処分が発表された直後にラケット製造会社のヘッドやミネラルウォーターブランドのエビアンはスポンサー契約の継続を公表した。そしてナイキとポルシェは状況を静観していたが、後に継続を決断。契約満了後に延長を発表しなかったのは、時計メーカーのタグホイヤーと化粧品の製造販売を行うエイボンだった。

ナイキは、シャラポワが11歳の時から関係を築いてきたため、早い段階での決断は難しかったのだろう。ただし、最近ではブランドイメージを毀損したアスリートとの契約を切るスポンサー企業は多く、そういう意味ではナイキも例外ではない。実際、ランス・アームストロング、エイドリアン・ピーターソン、そしてマニー・パッキャオなど世界を代表するようなアスリートたちとの契約を解除してきた。スポーツウェア業界の競争は熾烈であり、ビジネスに少しでもマイナスとなる要素は排除してきたのだ。それでもナイキは、2010年に7000万(約78億9000万円)ドルの長期契約(8年間)を結んでいたシャラポワとは縁を切ることはしなかった。

進化を続けるシャラポワブランドの価値

禁止薬物使用が発覚しても、女子テニス界はマリア・シャラポワという強力なブランドを必要としている。彼女の復帰の注目度を見ても、それは皆が頷けるだろう。実際、過ちを犯したことをすぐさま謝罪したことで、ブランド力のダメージもコントロールできた。当初は2年間の出場停止処分が言い渡されていたが、ITF(国際テニス連盟)はさらなる審査の結果、その期間を15カ月に軽減していた。

ランス・アームストロングやこれまで薬物使用が発覚してきた多くのメジャーリーガーとは違い、シャラポワは自らの言葉ですぐさまメディアの前で過ちを認めた。もしこの決断が遅れ、ファンやメディアの批判が大きくなっていればスポンサーが継続することもなかったかもしれない。

さらには女子テニスのもう1人のスターであるセリーナ・ウィリアムズが妊娠を発表し、ツアーから離れるというタイミングもシャラポワブランドの必要性を増すこととなった。そのブランド力は出場停止期間中にも増していたのだ。

コートを離れていた15カ月の間、シャラポワは2週間ハーバード大学のビジネススクールに通っていた。そしてNBAやロンドンに拠点を置く広告代理店でインターンとして経験も積んだ。

新たに学んだスキルを活かして、スイーツブランド「SUGARPOVA」(シュガポワ)のビジネス拡大にも成功した。ビジネスウーマンとして、全米に店舗を誇るセブン・イレブンやクローガーにも商品であるグミやチョコレートを置いてもらえるように自ら交渉することもあった。

スイーツブランド「SUGARPOVA」(シュガポワ)とシャラポワ選手

マリア・シャラポワ自身がプロデュースしたスイーツブランド「SUGARPOVA」(シュガポワ)も成功している。

Victor Boyko/Getty Images

出場停止期間中の様子もソーシャルメディアで発信し続けることで、テニス以外で奮闘する彼女の新たな一面が露出された。出場停止処分を受けるアスリートはメディアへの露出やニュースとなる出来事を自粛するケースが特に日本では多い。だが彼女は多くのフォロワーに自らの姿を発信し続けた。日本ではおそらく同様のことをアスリートがすれば、「反省しろ!」とか「もう帰ってくるな!」と炎上することがあるかもしれない。

競技に復帰することを目標とするのであれば、復帰時に反省の色を全面に出すのではなく、何倍も成長した自分を披露することが謹慎期間中も支えてくれた人々への恩返しになるはずだ。例えば、喧嘩をした時、相手にずっと謝られ続けるよりも、行動でその反省を感じ取りたいだろう。

結果が求められるアスリートにとっては全てが批判として跳ね返ってくるリスクはある。処分を受けた理由や事柄の度合いにもよるため、全ての場合に同じことは言えないかもしれないが、復帰のチャンスが与えられるのであればマリア・シャラポワのように、そのブランド力の強さを改めて実感させるような誠意と行動をし続けることも必要なのではないだろうか。

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新川諒:オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンズで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。第4回WBCではMLB広報として侍ジャパンに帯同。

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