あなたは今週末、ヨドバシカメラやビックカメラなど大手家電量販店にいくだろうか。「行く予定」という人はぜひ、5分時間をとってテレビ売り場を覗いてほしい。いくつかの「4K有機ELテレビ」が並んでいるからだ。
この時期に各社ほぼ横並びで有機ELテレビを発表した背景は、前回の西田宗千佳氏の記事「100万円級の有機ELテレビは売れるか?——ソニーら大手3社と韓国LGの生き残り戦略」で詳しく解説したとおり。
有機ELテレビは各社とも「スペシャルな大型テレビ」として位置付けているが、その仕様やアプローチはメーカーの個性が相当に出たものになっている。西田宗千佳氏による、各社の特徴解説は以下のとおり。店頭で見比べる際の参考にどうぞ。(BUSINESS INSIDER JAPAN)
価格とバリエーションで勝負するLGエレクトロニクス
LGエレクトロニクスのフラッグシップ「W7P」。ポスターのように壁に貼れる極薄設計のため、スピーカー/チューナーユニット部が別になっている(パネル下の細長いバーがそれだ)
写真:LGエレクトロニクス
国内大手メーカー各社に有機ELテレビ用のパネルを供給し、有機ELテレビの総本山となったLGエレクトロニクス。同社の製品展開は「デザイン」と「バリエーション」を特徴としている。
最も高価なモデルである「W7P」(実売価格108万円前後)は、ディスプレイ部の厚さがたった3.9mmしかなく、スマートフォンより薄いほどだ。ディスプレイ部の重量も非常に軽く、65型モデルでも約7.6kgにすぎない(単体時)。これは有機ELの特徴である「構造のシンプルさ」を活かしたもので、壁かけテレビにするには非常に有利な構造だ。
LGエレクトロニクスが「Picture on Wall」と呼ぶチューナー/スピーカー部とパネル部を分割した特殊な形状により、デザインで差別化を狙う。また、他社に比べ価格・デザインによるバリエーションが広くなっているのも特徴だ。最も安価な「55C7P」は実売価格で50万円を切っており、もっとも入手しやすい有機ELテレビのひとつだ。
作成:BUSINESS INSIDER JAPAN
デザイン性の高さと"画面スピーカー"で差別化するソニー
正面より。画面自身から音が鳴る特殊な構造のため、側面にも下部にもスピーカーはない。
写真:伊藤有
背面。左右にのびたバーの部分に2基のアクチュエーターがあって、画面を目に見えないレベルで振動させ、音を出す。画面の支えになっている部分にはウーハーを内蔵する。
写真:伊藤有
ソニーもデザインで差別化する。「A1シリーズ」は、卓上スタンドのような形状をしており、スピーカーがどこにもないように見える。実はA1のサウンドは、有機ELパネルのガラス面そのものを左右2つのアクチュエーターで振動させる「アコースティック サーフェス」機能によって生まれている。
液晶とは違って、バックライト不要で構造がシンプルな有機ELだからこそ、このような設計ができた。この仕組みにより、画面の上下左右のベゼルを最小限に薄くし、画面だけが空中に浮き上がったように見える独特なデザインになった。
デザインだけではなくメリットも本質的だ。画面をスピーカーにしてしまうことで、大画面であるほど「音の聞こえる場所」がより自然になるのだ。テレビを見ている時はあまり意識しないかもしれないが、映画館とテレビでは「声が出る場所」が違って聞こえる場合が多い。なぜか?
テレビは本体の下にスピーカーがあることが多く、音の出所がぼんやりとしがちだ。一方、映画館では、スピーカーはスクリーンの後ろに隠れており、映像と音の出る場所が一致する。例えば、俳優が画面の左から右へ歩きながら話していたとすると、その顔の位置に合わせて音が動いていく。一般的な設計のテレビではこれが難しい(そして画面が大きくなるほど、敏感な人には「音の出る位置問題」が顕著になる)。A1では、ディスプレイから音が出る関係上、映画館と同じように「絵と音の位置」が一致するのだ。
A1はあくまでハイエンドモデルで、予想実売価格は86万円前後。LGそして次のパナソニックとは違い、「液晶と勝負する価格帯には降りない」選択をしている。そこで画質だけで勝負するのではなく、デザインや音の出方という付加価値で棲み分ける。
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LG並みの低価格帯モデルも用意、画質と価格の直球勝負するパナソニック
パナソニックのハイエンド有機ELテレビ TH-65EZ1000
写真:パナソニック
一方のパナソニックは、直球勝負で「画質」と「価格」だ。上位モデルの「EZ1000」は、ガラス面の映り込みの色にまでこだわった設計をすることで、下位機種よりもさらに画質を向上させている。パナソニックはプラズマディスプレイ時代から自発光型ディスプレイによるテレビの絵作りのノウハウを持っており、その流れを有機ELでも活かした形だ。
パナソニックのプラズマテレビを過去に買ったユーザーは、映画やスポーツを落ち着いて観たい、という人々が多かった。そういった層に訴求する。同社ではヨーロッパを中心に2016年から有機ELテレビを製品化しており、LGディスプレイ製パネルの使いこなしには一日の長がある。一方で普及価格帯の「EZ950」の55型モデルは予想実売価格で54万円前後。LGと真っ向から勝負する。上と下、両方の価格帯で有機ELに取り組むやり方だ。
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独特のこだわりを持つREGZAユーザーに応える製品づくりの東芝
東芝 REGZA X910
写真:東芝
東芝は、従来から人気の高い全チャンネル自動録画機能「タイムシフトマシン」やゲーム向けの低遅延モードなど、「東芝のREGZA」を強く支持する人々が好む差別化要素をそのまま有機ELでも搭載し、「東芝のREGZAを待っている人のための有機ELテレビ」を作ってきた。他社に先駆けて製品を市場に投入したのも、そうしたユーザーが、テレビという製品に対して感度が高いことを知っているからだ。
一方で、東芝自体が経営上の問題に直面しており、なかなか派手な宣伝戦略や拡販策が採れない状況にあり、盛り上がりに欠けているように見える。素晴らしい製品を作ったスタッフの足を経営が引っ張っているようにしか見えず、非常にもどかしく感じる、というのが筆者の本音である。
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西田宗千佳: フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」、「ソニー復興の劇薬」、「ネットフリックスの時代」、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」など 。