ケネディ宇宙センターの火星探査機
Shanon Parker/Parker Brothers Concepts
- NASAケネディ宇宙センター内の一般客向け見学施設「ビジターコンプレックス」には、6輪の火星探査車(マーズ・ローバー)がひっそりと展示されている。
- この探査車はコンセプトカー会社によって製造され、5月上旬に初公開された。
- 名前のないこの車両のデザインと構造について、ある主要ケーブルテレビ局が番組を制作しているという。
- 教育用のデモカーであるとはいえ、限りなく実用に近い仕上がりとなっている。
2016年後半から、NASAケネディ宇宙センター内のビジター・コンプレックス(民営の一般客向け見学施設)は、ケーブルテレビ局やコンセプトカー製造会社とひそかに協力し、フルサイズの火星探査車を作り上げた。
5月9日、フロリダで公式発表が行われるとまもなく、この名もなき探査車の動画や画像がSNSに登場した。
Instagramでシェアされた動画では、どこか映画『バットマン ビギンズ』のバットモービルを思わせる探査車が、施設前の道路上をゆっくりと動く様子を見ることができる。
Business Insiderが最初にこの探査車を知ったきっかけは、Redditの「何だ、この車!? 」という投稿だった。
果たして、何なのだろうか?
新しい探査車の設計・製造を担当したマーク・パーカー(Marc Parker)氏によると、火星の砂や岩などの障害物を乗り越えていくために「あらゆる工夫を凝らした」6輪の完全電気自動車だ。
ただ、この名もなき探査車が実際に火星を走る予定はない。パーカー氏によると、この火星探査車は、近々NASAが共催するアメリカ国内の巡回展「サマー・オブ・マーズ」の一部として展示されることになっているという。
この巡回展は訪問客を宇宙探査と惑星間旅行に誘うもので、2033年までに火星に人を送り込むことを目指すNASAの計画を中心に構成されている。なお、巡回展を主導するケネディ宇宙センター内にあるビジター・コンプレックスは、民間事業者によって運営されていて、NASAと密接に協力しているものの、アメリカ国民の税金で賄われているわけではない。
マーク・パーカー氏が弟のシャノン・パーカー(Shanon Parker)氏と探査車の製造を開始したのは、2016年11月。2人の会社「Parker Brothers Concepts」が打診を受けた直後のことだ。マーク・パーカー氏によると、この会社は、5年ほど前にテレビ局や映画制作会社の依頼で「一風変わった」乗り物を作るために設立された(「うちに声がかかるのは、よそがみんな『そんなモノは作れない』と断ったときだ」とマーク・パーカー氏いう)。
同氏によると、NASAはこの探査車に出資していない。パーカー氏も費用を賄えないため、プロジェクトに参加している民間企業が資金を提供しているという。
「この探査車の製造過程は、TVのドキュメンタリー番組として撮影している」マーク氏はBusiness Insiderに語った。テレビ局との秘密保持契約のためその局名を明かすことはできないが、「有名ケーブルテレビ局」だとマーク氏はいう(シャノン氏がInstagramで公開している写真には、ディスカバリー・チャンネル『怪しい伝説(Mythbusters)』の番組スタッフが映っている)
火星探査車プロトタイプの内部
Parker Brothers Conceptsは、2016年11月から2017年4月初めまでの短期間で、ゼロからこの探査車を作り上げた。
経営者2人、従業員数名、取引先サプライヤー。全員がこの数カ月間、探査車の製造に注力した。
「みんな、週に平均80~100時間は働いた。1日10~14時間労働、年末以降は週7日出勤だ。探査車の製造にどれだけの時間を費やしたかを考えると、泣きそうになる。本当に時間がかかったんだ」とマーク・パーカー氏は語る。
同氏によれば、探査車の正式発表とテレビ番組の放送は近日中に行われる予定。しかし、同氏とシャノン氏はInstagramで既に一部の画像や動画を公開している。
上の動画は、SeaDek(Parker Brothers Conceptsの探査車製造に協力した船舶用品サプライヤー)のInstagramに投稿されたもの。探査車の内部が映っている。
下の動画では、暗闇で発光する探査車内の様子が確認できる。
関係者たちの投稿から、他の特徴も明らかになっている。
例えば、下の画像では、高さ50インチ(約127 cm)、幅30インチ(約76 cm)のタイヤの様子がよくわかる。マーク氏によると、火星の砂が落ちやすい設計になっているという。
Parker Brothers ConceptsのFacebookアカウントには、製造中のタイヤの画像も。
Parker Brothers Concepts/Facebook
フロントガラスはカーボンファイバー製のアクセント付き。NASAのロゴも入っている。
下は探査車の前面。Parker Brothers Conceptsの製造工場で撮影。
火星探査車は偽物なのか?
NASAの広報担当者はBusiness Insiderの取材に対し、探査車のプロジェクトは「実際はNASAが関与していないもの」であり、NASAから独立して運営されているケネディ宇宙センター内の施設ビジター・コンプレックスによって進められているものだと回答した(ビジター・コンプレックスからの回答は、すぐには得られなかった)。
しかし、マーク・パーカー氏が述べたところによると、NASAはケネディ宇宙センターで火星有人探査計画に従事しているエンジニアや科学者に、パーカー氏の会社を紹介したという。
同氏によると、NASAは探査車の特徴に関していくつかのパラメーターを与え、さらに「宇宙飛行士4人で、調査、探索、テストサンプル採取を行える程度の小型偵察車」もしくは「完全な研究室」という2つの考え方を示したという。
パーカー氏いわく「火星にガソリンスタンドはないから」、まず電動モーター、ソーラーパネル、700ボルトのバッテリーから着手し、それらを中心として車体を構築した。そして、2つのコンセプトを両方実現することにした。
「2つの目的を両方叶える車を思いついたんだ。中央で区切られていて、後方部分は完全な研究室、前方部分は偵察に出るための操縦室。研究室の部分は切り離すこともでき、そのまま独自に研究を続けられる。そうすれば探査車は軽くなるので、燃料をあまり消費せずに任務を行える。後で戻ってくればいい」とマーク氏は語る。
火星のアイオリス山、通称シャープ山
NASA/JPL-Caltech/MSSS
操縦室にはGPS、空調、ラジオなど「快適な活動に必要な機器」が並ぶ一方で、ボディ全体は航空機並みのアルミ材とカーボンファイバーでできているとパーカー氏は言う。
同氏によると、重量を正式に測ったことはないが、車長28フィート(約8.5m)、車幅13フィート(約4.0m)、車高11フィート(約3.4 m)の探査車は、概算で約5000ポンド(約2267.9 kg)程度だという。
「ホンダのシビックが3500~4000ポンド(約1587.6~1814 .4 kg)。5000ポンドというのはだいたいピックアップ・トラックと同じ重さだ」とパーカー氏は述べ、探査車のコンセプトモデルがサイズと性能のわりにはかなり軽いことを強調した。
探査車の最高時速は60~70マイル(約96~112 km)だが、通常は時速10~15マイル(約16~24 km)かそれ以下で走行するように設計されているという。砂丘、岩場、クレーター、丘などに対応するためだ。ホイールごとにサスペンションを独立させることで、障害物を容易に乗り越えられるようにしている。
これまで兄弟で取り組んだどのプロジェクトよりも、「今回が一番感動した」と語るマーク・パーカー氏。彼らの探査機が、NASA同様、人々が未来の宇宙探査の夢を大きく思い描くきっかけになれば、と願っている。
「映画やテレビもいいけれど、火星に行って宇宙で暮らしたいと子どもたちに思わせるような仕事に携わるのは、格別だ」
[原文:NASA has been quietly working on a Mars rover concept that looks like a Batmobile]
(翻訳:Ito Yasuko)