DIGIDAY[日本版]より転載(2017年5月12日公開の記事)
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パブリッシャー各社は、テキサス州オースティンで増員を進めている。もちろん、ご当地メニュー「朝タコス(breakfast tacos)」が目当てではない。
メディア企業のあいだでは、かつてないほどデータサイエンティストやソフトウェアエンジニアの需要が高まっているが、供給は不足している。そのため、コンデナスト(Conde Nast)やVox Media、BuzzFeedなどのパブリッシャーは、オースティンにオフィスを新設したり、既存オフィスを拡大したりして、シリコンバレーや西海岸エリアから流入してきた開発者を獲得しようとしている。
こうした動きはまた、最近はじまったものでもない。Vox Mediaは、5年前にオースティンに進出。さらに歴史の長いゲートハウス・メディア(GateHouse Media)なども、この数年間でデザインや開発の業務拠点をオースティンに築いてきた。パブリッシャーはまた、ロサンゼルスやアリゾナ州スコッツデールなど、さまざまな都市で開発部門を設置している。
エンジニアニーズに対応
それでも、パブリッシャーが(ディスプレイ広告のインベントリー販売にとどまらず)多様化に向かう動きのなかで、オースティンのリソース、とりわけエンジニアリングに対するニーズがかつてないほど大きくなってきた。コンデナストは昨年、オースティンのデジタルイノベーションセンターに関する計画を発表。構想では、50人編成のチームが、コンデナストの既存メディア向けだけでなく、メッセージングや音声、さらには将来開発されるメディアも含む、新興プラットフォーム向けのプロダクトも手がけるという。
チームは現在35人体制で、さらに増員を進めている。これまでに開発したのは、ボット、Amazonの音声アシスタントであるAlexa(アレクサ)のスキル、そして、試験運用を間近に控えた「データドリブンの編集プロダクト」だ(具体的にどのようなものか、コンデナストの最高デジタル責任者フレッド・サンターピア氏は説明を避けた)。
こうした開発に求められる技能の組み合わせは、最近までほとんどのパブリッシャーが想像できないものだった。そうした業務をこなせる人材を探すのは困難で、ニューヨークのような従来型メディアの拠点ではなおさらだ。
「まっ先に浮かんだ疑問は、『さまざまな経歴を持つ多様な人材を確保するにはどうしたらいいか?』というものだった」と、サンターピア氏は振り返る。同氏によると、コンデナストはイノベーションセンターの候補地として、コロラド州ボールダー、オレゴン州ポートランド、イリノイ州シカゴといった新興テック都市も検討したという。「我々がニューヨーク市場でおこなっていたのは、いわば『人材のリサイクル』だ。コンデナスト傘下の組織に再入社、再々入社する例も珍しくない」。
テック人材だけが理由ではない
オースティンでは、そうした人材をより容易に、比較的まっとうな費用で確保できる。企業評価サイト「グラスドア(Glassdoor)」によると、オースティンにおける昨年のソフトウェアエンジニアの平均基本年収は9万ドル(約980万円)で、サンフランシスコの平均額を優に3万ドル下回り、シアトル(11万3000ドル:約1200万円)やサンノゼ(12万2000ドル:約1300万円)よりもかなり低い。さらにウィスコンシン州マディソン(9万5000ドル:約1000万円)をも下回り、気候はマディソンよりもはるかに快適だ。
ただし、パブリッシャーにとってオースティンが魅力的に映るのは、テック人材だけが理由ではない。Vox Mediaの最高業務責任者(COO)を務めるトレイ・ブルンドレット氏は、BuzzFeedのオースティン支局長を務めるサマー・アン・バートン氏と同じく、オースティン出身だ。コンデナストのサンターピア氏はまた、オースティンの音楽や映画のシーンに育まれた創造的エネルギーと感性、それにニューヨークやサンフランシスコでは得がたい協力的で気心の知れた雰囲気も挙げる。
「これは単に、オフィスを拡充して『エンジニアを大量雇用』という話ではない」と、ブルンドレット氏は語る。「さまざまな経歴をもつ、多種多様な人材を獲得できる。(共和党が優勢のテキサス州にあって)オースティンが民主党寄りなのは明らかだが、世界観は非常に多様だ。私が思うに、オースティンにはメディアの中心地になる要素がすべてそろっている」。
Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)Image by GettyImage