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「アメリカの人は、“アドブロック”を結構使っているんですか?」 と、日本のメディア関係者に頻繁に聞かれる。 私はこう答えている。
「マックにもiPhoneにも入れています。入れてから、もう数年経ちます。友人の若者が、『これを入れたら楽になるよ』とセットアップしてくれました。ニュースをよく読むので、アドブロックを手動で外しているニュースサイトは10ぐらい。でも、アメリカの若者は、アドブロックをいちいち外すくらいなら読まないで、他のサイトから、ニュースや情報を見つけます」
「えー、そうなんですか。日本ではあまりそういう人はいませんよ」
セレブ90人と広告主が対象
アメリカでデジタル広告は、ますます「鬱陶しい」ものになっている。ニュースを読むために検索エンジンでたどり着いたサイトのポップアップ、YouTubeを見る前に流れる広告、ニュース記事の間に繰り返し表れる同じ企業のバナー広告。1本の記事についている広告は複数ではなく、1社のみで「またか」という状況。YouTubeでお気に入りのコンテンツ・プロバイダーを見る際に出てくる広告もほぼ毎回同じ広告主だ。
アドブロックがこれだけ支持されているアメリカで、いかにして「広告」だとわからないように製品を宣伝するか。あの手この手の仕掛けが試されてきたが、それも限界がありそうだ。
米連邦取引委員会(FTC)は5月9日、ヴィクトリア・ベッカムやジェニファー・ロペスなどセレブ(インフルエンサーと呼ばれる)90人に対し、ソーシャルメディア上のネイティブ広告やスポンサードコンテンツについて注意を促す書簡を送っていたことがわかった。シャネル、アディダス、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)など、セレブを利用していた広告主にも「指導」があったという。
主なターゲットはInstagramだ。セレブはInstagramの写真をTwitter、Facebookでもシェアするのが一般化しているため、フォロワーに与える影響力は絶大だ。そこに広告業界が目をつけた。例えば、バスケットボール選手などアスリートとスポーツ製品メーカーが契約し、アスリートに商品の写真や特徴をソーシャルメディアでシェアしてもらうというのが一般的だ。
もちろん、広告主とセレブやスポーツ選手の間には契約と報酬のやりとりがある。しかし、ソーシャルメディアで受け取る消費者には、それが広告とはわからない、というのが、FTCの指導の対象となった。
ヴィクトリアはターゲットとコラボ
FTCのセレブ向け書簡にはこうあるという(ファッションニュース専門サイト「WWD」による)。
「FTCのガイドラインによると、広告主と推奨者(注:セレブなど)の間に何らかの報酬や利益の供与など重要な関係がある場合、消費者の誤解を招かないよう、広告であると明示することを義務づけている。重要な関係とは、ビジネスや家族関係、金銭の授受、商品を無償で提供された場合などを示す。無報酬で、個人的に購入した商品を紹介する分には問題ない」
例えば、ヴィクトリア・ベッカムがInstagramでシェアしたポストを見てみよう。黒地に白いカラーの花がデザインされたパンツスーツをまとってポーズをとったヴィクトリアの写真には、「#VBXTarget」というハッシュタグがある。このハッシュタグを検索すると、「ヴィクトリア・ベッカム・フォー・ターゲット」というサイトにヒットする。米量販店大手ターゲット向けにヴィクトリアが展開している女性・子ども向けブランドだ。しかし、Instagramのポストでは、ターゲットから報酬を受け取って商品を着てポーズをとっているのかどうかは、全く不透明だ。
#VBXTargetをクリックすると、ターゲットではなく、ヴィクトリアのターゲット・ブランドをまとった消費者の写真が表れる。おそらく少なくない消費者が、ヴィクトリアのポストを見てターゲットから購入した可能性は決して否定できない。
ミレニアル世代は広告嫌い
アドブロックの例に見られるように、アメリカでは、特にミレニアル世代を軸に、明らかに「広告」とわかるものを避ける傾向が以下のように増している。
- パソコンやスマホには、アドブロックをインストールする
- CMが鬱陶しいテレビはもはや見ない
- 広告で宣伝される大手企業の製品は、誰もが買うと思い、購入することを避ける。特にファッションなど徹底して自分が気にいるものを、オンラインで探し、オンラインで購入する
こうした若者に囲まれて暮らしている筆者もアドブロックをインストールし、テレビを見るのがつらくなってきた。CNNなどニュース番組を見るのはジャーナリストの仕事上不可欠だが、1時間のうち15分以上あるテレビCMがあるのは、もううんざりだ。パソコンやスマホ上では、広告を避けられるという選択肢を得ただけに、忙しい中で見せられるテレビCMに対する嫌悪感が日々増している。
コンテンツを広告モデルで提供するというビジネスモデルを維持するには、広告主や広告会社はこうした消費者の心理をもっと理解し、不快ではない広告の見せ方を模索するべきだ。しかし、広告だけが優先され、消費者の受け止め方が無視されていないだろうか。デジタル広告は、インターネットが普及して以来20年も経つのに今も変わらずバナーや広義のポップアップ広告が根強く、テレビから離れていった若者がソフトウェアを使ってデジタル広告を避ける行動に走っている。
一方で、広告であることを表立って見せないようにしたセレブとの提携は、FTCの特別措置の対象となった。消費者の違和感をなくすために広告がよりコンテンツ化していく中、広告のあり方が改めて問われている。