グーグルCEOサンダー・ピチャイ氏
カリフォルニア州マウンテンビュー ――親会社Alphabet傘下の グーグルCEOサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏は、現地時間5月17日午前(日本時間18日未明)から始まったグーグルの世界開発者会議「Google I/O」のステージ上で、現在20億台のデバイスが同社の無料OS Androidをベースとして動作していることを公表するとともに、AIに関する同社の新たな取り組みについても明らかにした。
ピチャイ氏はさらに新製品「Googleレンズ」を発表した。この製品は、Android搭載のスマートフォン向け音声AI「Googleアシスタント」と組み合わせることで、さまざまな使用目的のために現実世界の物体を識別することができる。
「この1年は非常に忙しい日々を送ってきました。我々は、世界の情報をまとめあげるという自分たちの使命に重きを置いて取り組んできたのです」とピチャイ氏は語り、さらにAI分野におけるグーグルの取り組みが世界規模の問題を解決していくとも述べた。
ピチャイ氏は一例として、機械学習とAIが医療や科学などの業界で分子やその他のビッグデータ関連問題の分析に使用され始めた実態について取り上げた。グーグルは、こうした取り組みを記録するためにgoogle.aiを開設した。
Googleアシスタントが得た天才的な画像認識
続いて、グーグルのGoogleアシスタント担当副社長スコット・ハフマン(Scott Huffman)氏が、この音声AIの機能強化点について詳しく語った。例えば、今後はキーボードからGoogleアシスタントに質問を入力できるようになる。
新しく発表された新技術「Googleレンズ」(Lens)には、非常に素晴らしい新機能がいくつか備わっている。Androidスマートフォンの内蔵カメラでほとんどすべての物体を認識することができるばかりか、Googleアシスタントにその内容を分析させることもできる。例えば、コンサート会場の写真を撮影すると、アーティストの音楽を聴いたり、チケットを購入したり(!)することなどが可能になる。
さらに注目すべきなのは、GoogleアシスタントがiPhoneでも使用できるようになることだ。もはやAndroid上にとどまっている存在ではなくなったのだ。
Googleアシスタントのアップデート情報を発表するスコット・ハフマン氏。壇上では背後のスクリーンに写っている「たこ焼き」の日本語看板をグーグルアシスタントで認識させるデモを実施。即座に「octopus dumplings(=たこ団子)」であり、「6pieces ¥130」と認識した(!)
グーグルは、同時に、Googleアシスタントに関わるサードパーティーのサポートを拡張していく。以前は、サードパーティーはもっぱらスマートスピーカ―「Google Home」上のみで動作する「アクション」(Google Homeを拡張するプラグインのようなもの)を構築することしかできなかった。今後は、Android搭載スマートフォンやiPhoneを含めて、Googleアシスタントの実行環境にかかわらず、サポートが提供される(注=いよいよ、より広いマーケットに向けた開発ができる)。
Google Homeはついに日本上陸
グーグルのスマートスピーカー「Google Home」にも新しい機能が追加される。Google Homeに搭載されたGoogleアシスタントでは事前通知機能が使えるようになるので、「what’s up?」と尋ねると、音声AIがユーザーのスケジュールに基づいて通知を送ってくれる。例えば、次の会議のために早めにオフィスを出発すべきかもしれないということを知らせてくれるのだ。
だがそれ以上に大きなニュースがある。通話機能がGoogle Homeにも追加されるのだ。これにより、このスマートスピーカーから米国やカナダのあらゆる番号に無料で電話をかけることができる(アマゾンのスマートスピーカ―「Echo」の場合は、他のEchoか音声AI「Alexa」搭載のデバイスにしか電話をかけることができない)。
※注:スマートスピーカー「Google Home」は今後数カ月でついに日本にも上陸するが、音声通話に関しては日本では使えない可能性がある
またグーグルによると、Google Homeは個人の音声を認識することも可能なため、通話に応じる人は適切な発信者情報を得ることができる。スマートスピーカ―Google Homeの通話機能は、今年後半に追加される予定だ。
スマートスピーカー「Google Home」。日本にもついに上陸することが、基調講演の中で明らかになった。登場時期は「今後数カ月」。
グーグルは、同社のオンラインストレージサービス「Googleフォト」に関しても新機能を発表した。顔認識やその他のデータを通じてベストな写真を選び出し、ユーザーが気に入ってシェアしたくなりそうな写真の候補をおすすめすることができるというものだ。Googleフォトには、さらにネットプリントやフォトブック作成を可能にする新機能も追加される。
YouTubeに関しては、グーグルは、動画のライブ配信に新たな双方向性を加えるコメント機能「Super Chat」を強化する。視聴者は料金を支払うことでライブ放送中にアクションを実行でき、配信者はその機能を利用してさらに視聴者と盛り上がることができる。(YouTubeはこの機能の紹介のために大人気YouTuber「The Slow Mo Guys」を例に挙げた。彼らは、500ドル(約5万5000円)もの「投げ銭」を何人もの視聴者から受け取っていた。)
Androidの最新版「Android O」ベータ版は即日ダウンロード開始
グーグルはもちろんAndoirdについても言及した。今年秋に公開されるAndroidの新バージョン「Android O」の一部機能を紹介したのだ(注:アンドロイド オー。Oはコードネームで、いまのところ毎年アルファベットの次の文字の名前をもじった新しい版にアップデートしている。例えば昨年はNで来年はPだ)。
メジャーアップデートではないが、注目に値する新しい機能がいくつかある。例えば、動画の表示領域を画面の端に確保する「ピクチャーインピクチャー」機能により、スマートフォン上で他の動作を行っているあいだも動画の再生やビデオチャットを続けることができる。
Androidの新たなオートフィル機能では、パスワードやログイン情報を記憶することができるようになるため、ユーザーはワンクリックでサインインを行える。また新しいコピーアンドペースト機能では、ユーザーが選択する可能性が高いテキスト(アドレスなど)を、機械学習によって自動的に予測することができるようになる。
ただ全体的に見ると、Andoird Oの強化ポイントは、バッテリー寿命やCPU処理能力の管理などの目立たない部分をサポートしている。そのことにはっきり気が付く人はあまりいないだろう。Android Oのベータ版は、グーグルのスマートフォン「Pixel」で17日水曜日(日本時間18日未明以降)からダウンロード可能になる。
世界が注目する、グーグルの仮想現実(VR)と拡張現実(AR)
グーグルのVRプラットフォーム「Daydream」は、従来のスマートフォンを必要とするタイプのヘッドセットの他に、今後はスマートフォンなしで単体動作するスタンドアロン型のヘッドセットに対応する。HTCおよびLenovoが先陣を切ってDaydream対応のスタンドアロン型ヘッドセットの開発を進めており、今年後半に発表される予定だ。
ARについては、グーグルは、室内環境をマッピングする同社のTangoテクノロジーを、今年中に多くのAndroid搭載スマートフォンに導入していく。Tangoは、例えば、混雑した店内で目的の商品を見つけ出すことに役立つかもしれない。Tangoは環境中の視覚的な特徴を使用してマップを作成するためだ。グーグルはこれを仮想位置認識サービス(Virtual Position Service、VPS)と呼んでいる。
以上。全体的に言って、特大ニュースや予想外の情報はなかったものの、グーグルが次の主要プラットフォームとしてのAIと機械学習をどのように捉えているのかがうかがえる内容だった。
[原文:Here's what happened during Google's biggest event of the year]
(翻訳:原口 昇平)