ライフハッカー[日本版]より転載(2017年5月15日公開の記事)
ライフハッカー[日本版]
NY発のコワーキングスペース、WeWork(ウィワーク)。スタートアップで働いていたりフリーランサーやクリエイターなら、名前を聞いたことがあるかもしれません。
同社は2010年の創業以来、今やその企業価値は約170億ドル(2017年4月末現在、日本円で約1兆9000億円相当*)と言われています。
(*現地メディアの今年2月末の報道によれば、ソフトバンクによるWeWorkへの投資が合計30億ドル以上になるといわれており、これにより同社の企業価値が200億ドル以上に引き上がることが予想されている)
この7年で驚くほどの急成長を遂げ、破竹の勢いで今もなお広がり続けています。全米はもとより世界15カ国に進出し、東アジアでは中国、香港、韓国へ進出ずみですが、肝心の日本進出がまだとなっています。
しかし、4月中旬、LinkedInに日本法人の求人が出ているのが確認されました。「いよいよ日本にも上陸が決まったのか」と、熱い注目が集まり出しています。
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日本進出について公式発表はなし
オープンは本当なのか? いつ頃なのか? ── 噂の真相を確かめるべく、単刀直入にニューヨーク本社に聞いてみました。しかし、日本進出については、現時点で何も発表するものがなく答えることはできないとのこと。
日本進出に関する情報はいっさいつかむことはできなかったものの、今回はせっかくなので、その成功の秘訣を探るべく2兆円規模の企業の様子をレポートします。
WeWork(ウィワーク):ニューヨーク発コワーキングスペース。共同経営者でCEOのアダム・ニューマン氏(Adam Neumann)とCCO(最高創造責任者)のミゲル・マッケルビー氏(Miguel McKelvey)により2010年に創業(第1号はSOHOロケーション)。2017年、世界中のメンバー数は約10万人に達した。全米23都市、世界15カ国44都市に全140カ所オープンしており、本社があるニューヨークエリアだけでも38ロケーションを擁する(日々増え続けており、数字は流動的)。企業理念は「To Create a world where people work to make a life, not just a living」 (ただの生活のためではなく、人生を紡ぐために働く世界の創造)。
2兆円企業のニューヨーク本社の様子
WeWorkが本社を構えるのは、ニューヨークのチェルシー地区。ここはギャラリー街として有名で、古いインダストリアルビルにおしゃれなレストラン、ナイトクラブなどが軒を連ねているものの、ミッドタウンと比べると観光客も少なく落ち着いたエリアです。本社ビル1階の受付で訪問者登録をすませ4階へ。フロアに到着するや否や、ものすごい活気を瞬時に肌で感じました。
実のところ、筆者はニューヨークのダウンタウンにあるWeWorkのコワーキングスペースで1年弱働いた経験があり、WeWorkの雰囲気についてはあらかじめ知っていましたが、本社ビルの活気は自分の記憶の中にあるWeWorkの雰囲気を凌駕する勢いがありました。フロア全体にそのエネルギーが渦巻いており、到着早々「これが本社の空気か」と圧倒されました。
全世界の従業員数は2,000人超え
WeWorkの従業員が働くのは本社の3〜5階で、2階はコワーキングスペースになっています。従業員は全世界で2000人以上で、本社の従業員数は非公表ですが、おそらく何百という単位の人数がここで働いているのではないかと感じました。
WeWork本社4階のオープンスペース。カフェ&バー風のインテリアはかなり広く、モダンで洗練された雰囲気。
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ただ“かっこいいオフィス”だけではない、緻密に計算された完璧なインテリア
CEOのアダム・ニューマン氏が常々『世界を変えたい』と明言している通り、WeWorkのミッションは、“To Create a world where people work to make a life, not just a living” (ただの生活のためではなく、人生を紡ぐために働く世界の創造)。
ここで働くすべての人がここで働く意味を見つけることができるコミュニティーを作り、その文化を促進しているWeWork。ここで何時間働こうが、働いている間は心地よく仕事ができ、刺激を与えられる場所を目指しているとされています。
その企業理念に則って、本社オフィスはもちろん世界中に広がるすべてのWeWorkのインテリアデザインは、すべてインハウスで設計されています。室内は広がりや開放感が出るように、自然光が入りやすい設計で、フロアは木材が使われ自然の色味が保たれています。
建築チームを先導するのがCCOのミゲル・マッケルビー氏。デザインコンセプトを練る段階では、CEOのアダム氏も参加。海外に進出する際は、現地のデザインチームとコラボレートしますが、陣頭指揮をとるのは必ず本社スタッフです。
マネージメント陣はほかに、リチャード・ゴメル氏(プレジデント)、アーティ・ミンソン氏(プレジデントと最高財務責任者)、ジェン・ベレント氏(最高文化責任者と最高法務責任者)らにより、しっかりと脇が固められています。
最高文化責任者職が設けられているのも、WeWorkのメンバー同士がいかにつながりを持ち仕事に生かすことができるか、そのコミュニティー作りを確実にするためであり、WeWork文化を強固なものにするためです。
活気のあるオープンスペースとは一転、おしゃべりや携帯が一切禁止の「クワイエットルーム(静かな個室)」も用意されている(右奥には心地良さそうなハンモックも)。
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4階に設置されたレコーディングスタジオ。WeWorkは「iHeartMedia」と提携しており、ポッドキャスト「Art of the Hustle」をここから配信中。
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会議室もひとつひとつ、壁紙やフロアマット、テーブルやいすなどのデザインが異なる。
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WeWorkではプロダクト開発の際、入念に研究が重ねられます。オフィスでは毎日たくさんの人とすれ違い、時には立ち止まって会話が始まることもあるでしょう。カウンターバーがまっすぐではなく山形にカットされているのは、「そこに立つと双方が自然に立ち話しになる」角度が考えられているからです。
ゴミ箱1つにしても、ただ適当に置かれているのではありません。このビルには何人が働いているからどのくらい必要か、部屋のどこに置くとゴミ回収のときに時間を節約でき効率的なのか、などまで考えられて配置されているのです。
廊下の広さも「計算」によるもの。すれ違うスタッフ同士が「つながり」を毎日感じることができるような幅。ここにも明確な理由がある。
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同じ意図で作られているのが、このステアケース(階段室)です。
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4階と5階をつなぐステアケース(階段室)。中は3フロアに分かれている。
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これも「人々を階段でつなげよう」という意図で設計されています。4階と5階のスタッフが「真ん中のステアケースで会いましょう」と、ミーティングに使うことも多いようです。
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壁紙やネオンサインなどは、インハウスのアートグラフィックチームによるもの。
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4階と5階の、不動産チーム、プロダクトチーム、デジタルチーム、デジタルフォトグラフィーチーム、ブランドチームなども見せてもらった(写真左上のデジタルチームは、スタンディングデスク使用者が多かった)。
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こちらは2階のWeWorkのオープンスペース(従業員用ではなくWeWorkユーザーのためのフロア)。
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WeWorkユーザー用のプライベートオフィス。壁は全面ガラスになっており、開放感がある。
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WeWorkを使った経験も交えて思うこと
前述の通り、私(筆者)はニューヨークにあるWeWorkのオフィススペースを実際に使ったことがあります。2014年11月から2015年8月までのことです。当時ライターとして常駐勤務していたIT企業がニューヨークに進出するにあたり、最初のワークスペースとして選んだのがWeWorkだったのです(入居時は3人のプライベートオフィスからスタートし、その後4人部屋に移った)。
これまでさまざまなコワーキングスペースを取材し、中には「ガヤガヤうるさいから」「もっと安い場所を見つけた」と別のコワーキングスペースに引っ越した利用者の話を聞いたこともあります。しかし私自身は個人的にWeWorkのオフィス環境にはとても満足していました。
気に入っていた理由は、(1)オフィスやミーティングルームが清潔でおしゃれ、(2)駅に近くて便利、(3)無料で提供されるコーヒーなどがハイブランドでおいしい、(4)生ビールが無料で提供&飲み放題(!)、(5)入居や退去が気軽にできる、──など多岐にわたります。それに加えて、ユーザー同士がつながりやすい工夫が随所に感じられたことも特筆しておきたい点です。
「不要なキャビネットあります」といった売ります買います的な内容から、「映像を撮ってほしい」「おすすめの弁護士いない?」「ロンドン出張で現地クリエーターを探している」などの人材募集まで、メンバー同士が情報交換し、せっかく発注するなら外部ではなくメンバーにという、助け合い文化が根付いていました。
言うに及ばず、1日の大半を過ごす働く環境は心地よい場であるべきで、突き詰めればいくらでも改善できるものでしょう。当初はほかのコワーキング同様、WeWorkもスタートアップやクリエーターから主に支持を得ていましたが、近年はMicrosoftやゼネラル・エレクトリック(GE)などの大企業もWeWorkを利用しています。ビジネスの規模に関わらず、職場に求められる環境が変わりつつあるのです。
(左)筆者が以前利用していたWeWorkにはゲームコーナーもある(!)。(右)週に何度も軽食やドリンク、ポップアップストアの試作品などが無料で配られていた。
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(写真下)イベントにも利用できるオープンスペース(メンバーであれば無料で利用可)。(※写真は筆者がWeWork利用当時に撮影したもので、本社オフィスとは別のロケーション)
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海外進出は現地パートナーが見つかるかどうかがカギ?
アジア市場で中国や韓国に遅れ、なぜ日本への進出がまだだったのでしょうか? WeWorkは海外進出する際、現地パートナーと提携していますが、きっとこれまで日本にはそのパートナーがいなかったのでしょう。しかし火のないところに煙は立たぬという言葉通りに、おそらく現地パートナーが見つかり、日本進出は時間の問題ではないかと思います。
今回、本社の雰囲気を目の当たりにして、WeWorkの世界的な成功は、潤沢過ぎるほどのヒューマンパワーと情熱、資金、時間などを掛け、入念に研究を重ね、それらを細部にまで生かしてきた賜物だと実感しました。「世界を変える」と言明するWeWorkは、ほかの追随を許さないコワーキングスペース界の黒船となるでしょう。そのような驚異の存在が上陸となると、既存のコワーキングスペースをはじめ一般の賃貸オフィスは、否が応でも改善策を講じざるを得ないはず。WeWorkにより、日本を始め世界中の働く環境が大きく変わろうとしています。
(取材・文・撮影/安部かすみ)