来客に応じる大統領就任前のドナルド・トランプ氏とソフトバンクCEO孫正義氏。トランプ・タワーでの会談後
Brendan McDermid/Reuters
ソフトバンクのビジョンファンド(Vision Fund)が、世界最大のプライベートエクイティ・ファンドとして正式に発足した。各国メディアが大きく取り上げた。グローバル市場で拡大を図る日本企業の海外買収が増えるなか、ソフトバンクはさらにこの動きを加速化させる。
ソフトバンクグループは5月20日(現地時間)、930億ドル(約10兆4000億円)の資金を集めたと発表。今後6カ月以内にさらに70億ドルを追加し、最終的な総額は1000億ドル(約11兆1000億円)に達する見通しであることも発表した。
次世代を切り開く企業への投資ファンドとしては莫大な金額だ。その規模と目的から、アップルやQualcommなども資金提供者として名を連ねることになった。数十億ドルの資金が、今後、AI、ロボット、さまざまなクラウドテクノロジーなどを手がけるテクノロジー業界に投入される。
「必然なことかもしれない。グローバルで戦い、グローバル市場を取っていくためには、日本の企業サイズを考えたら自力では難しい」とニッセイ基礎研究所・専務理事の櫨(はじ) 浩一氏は話す。「外の資金を入れて、ダイナミックな買収や投資を行い、世界のテクノロジー市場で先を走るアメリカ企業と競っていく。孫さんだからこそできる大胆な動きだ」
買収の歴史
これまでの報道によると、投資先にはスタートアップ企業や新興のテクノロジー企業が想定されている。ブルームバーグの報道によると、昨年12月、ソフトバンクグループCEOの孫正義氏は、トランプ大統領に対し、ファンドから500億ドル規模をアメリカのスタートアップ企業に投資し、5万人分の雇用創出につながるだろうと伝えた。
ソフトバンクは買収をテコに事業の拡大を続けてきた。アメリカ通信会社スプリントやヤフーを子会社に持つソフトバンクは昨年、3兆円を超える英半導体設計会社アーム・ホールディングスの買収を発表した。アームの買収は、多くのテクノロジー企業が投資と開発を拡大しているIoTの中核を収めたことになる。今後、電子部品からソフトフェア、金融テクノロジーの分野に及ぶ大型の買収・投資を続けるだろう。投資企業の価値が増大すれば当然、大きなキャピタルゲインにもつながる。
「ソフトバンク本体で企業や事業の買収をすれば、借入金の増加やのれんなどのリスクが増える」とエース経済研究所の安田秀樹アナリストはコメントし、今回のファンド組成を評価した。「今後、投資を行い、ファンドのリターンがある程度見えてくれば、ソフトバンクの企業価値の向上にもつながるだろう」と安田氏は話した。
この大型ファンドは、スタートアップ企業に加えて、「成長のために大規模な資金を必要とする数十億ドル規模の企業価値の大企業」にも同様に投資を行っていく予定だ。
「テクノロジーは、今日人類が直面している非常に大きな課題やリスクに対処していけるだけの力を秘めている。こうした問題の解決を目指す事業は、長期間にわたる投資資金と、成功を手助けできる能力と明確なビジョンを持った戦略的投資パートナーを必要としている。ソフトバンク・ビジョン・ファンドはまさにこうした戦略に則っており、次の情報革命の基盤を構築する企業の創出と成長に寄与する」孫氏はプレスリリースで述べている。
ソフトバンクは昨年10月、ファンド創設を発表し、本拠をロンドンに置くとしていた。同ファンドへの資金提供者には、台湾のフォックスコン(鴻海)、シャープ、 アラブ首長国連邦(UAE)の ムバダラ開発公社などが名を連ねている。
[原文:It's official: SoftBank's tech fund becomes world's biggest with $93 billion to invest]
(翻訳:原口 昇平)