グーグルCEOのサンダー・ピチャイ氏
Justin Sullivan Getty Images News
先週開催されたグーグルの開発者向けイベント「Google I/O 2017」で最も変わったデモンストレーションの一つは、スマートフォン向け音声人工知能(AI)「 Google アシスタント」を装備した特注自動カクテルメーカーだった。
ドリンクディスペンサーに話しかけるだけで正しい材料を選んで注ぎ合わせ、注文通りのカクテルを作るマシンで、開発者たちは、グーグルのAIがどんな装置にも応用できることを示した。
携帯電話やコンピュータではグーグルのサービスはすっかり普及しているが、グーグルはその領域をもっと押し広げ、そこにAIを絡ませることを目論んでいる。
今年のGoogle I/Oでグーグルの幹部たちは、食器洗い機から自動車まであらゆる物にAIが搭載される未来ビジョンを提示した。検索大手として成長してきたグーグルは、それが消費者に大きな恩恵をもたらす開発の方向性だと言う。毎日使用する物に少しばかりAIをプラスし、暮らしを向上させるというビジョンだ。
だが、グーグルがこのビジョンを追求するのには別の理由もある。グーグルや業界各社は、スマートフォンの次にやって来る一大コンピュータ革命こそがAIだと捉えている。AI市場を支配する企業は巨大な見返りを得る可能性があるのだ(グーグルはAI技術から利益を上げるノウハウをまだ持っていないが、それは別稿のテーマとしたい)。
とはいえ、グーグルやその競合他社による激しいAIアピールにはこんな疑問も湧く。
「私たちは何にでもグーグル(やAlexaやSiriといった音声AI)の搭載を必要としているのか?」
私はそうは思わない。
グーグルやその競合相手がこれまでリリースしてきたボイスコマンダーやAIには、スマートフォンのアプリやコンピュータプログラム、あるいはウェブ用アプリよりも簡単に使えて速いという結果を示せた例がない。AIによってグーグルやその他の企業は携帯電話以上のリーチを広げることができるかもしれないが、消費者のコンピュータ・デバイスのファーストチョイスであるアプリ搭載スマートフォンに代わる十分なものが登場するまでには、非常に長い時間がかかるだろう。
残念ながら今日までに我々が目にしているAIやボイスコントロールの多くは、まだそれを試みているだけだ。
Google I/Oの基調講演では、米カフェ・ベーカリーチェーン「パネラ・ブレッド(Panera Bread)」がGoogle アシスタントをベースに開発したアプリのデモも行われた。声に出してオーダーを言うだけというそのアプリについて開発者は、店頭で店員にオーダーするのと同じ感覚だと言った。これはデジタルアシスタント的には素晴らしい機能だが、パネラのスマホアプリをタップするだけで、あるいはウェブサイトに行けばもっと簡単にオーダーできるだろう。パネラのサンドイッチを注文するのに、顔のないバーチャルアシスタントと長々とした言葉のやりとりをする必要などないのだ。
ITアナリストのベン・トンプソン( Ben Thompson) 氏はこんなツイートを発した。
「携帯を10秒タップする代わりに、携帯と60秒話したいとは誰も思わない」
Alexaのような音声アシスタントを使ってUberの配車サービスを申し込んだり、スマートライトを調整したりするときに私も似たフラストレーションを経験したことがある。技術的には機能しているが、単純にスマホアプリを使うよりも簡単だったり速かったりするとは言い難い。
さらに、自動温度調節器(サーモスタット)のような毎日使う機器にAIを搭載するとなると、グーグルのビジョンに感じる疑念は増してくるだろう。スマートサーモスタットメーカーのエコビー(Ecobee)は数週間前、Alexa搭載サーモスタットを発表したが、スマホアプリでサーモスタットを調整する代わりにバーチャルアシスタントに話しかける自分の姿はまったく想像がつかない。
音声AIは単純なウェブ検索や「今日の天気は?」といった簡単な質問、「ケーティー・ペリーの曲をかけて」といった基本的なコマンドには便利だろう。しかし、やりたいこと全てに向いているかと言えば、そうではない。アップルのマーケティング責任者フィル・シラー(Phil Schiller)氏は数週間前、インドのテレビ局NDTVのインタビュー で「Amazon Eco(アマゾン・エコー)」のようなデジタルアシスタント機器の登場について尋ねられ、絶妙な回答をしていた。
「音声アシスタントは非常に強力で、その人工知能も成長しており、人間のためにさらに色々なことをするようになるだろう。だが、それら全てにとって画面の役割が非常に重要だという点は変わらないだろう」
グーグルは「AIファーストカンパニー」を宣言した。
Justin Sullivan Getty Images News
大手IT企業は全て、AIがスマートフォンに代わる業界の支配的プラットフォームになると信じてAIに投資しているが、彼らが全く気付いていないのは、AIはスマートフォンに取って代わるのではなくスマートフォンを向上させるものだということだ。AIはスマートフォンというカテゴリーを消滅させるのではなく、その利便性を高めるものだろう。
この現実に最も接していないのが、グーグルだ。今年のGoogle I/Oでは事業の方向性を「モバイル・ファースト」から「AIファースト」へ転換するとまで言い切った。だが、AIにおけるグーグル(やアマゾンやマイクロソフトやアップル)のアプローチはエキサイティングだが、実際には彼らはその野心的な目標に近づいていない。
現実的には今後、スマートフォンの時代からなかなか先へ進むことはできないだろう。数年単位ではなく、10年単位でだ。Googleアシスタント搭載のカクテルメーカーは素晴らしいデモンストレーションをできるかもしれないが、音声AIは当面の間、実用ではなく愉快なエンターテインメントの域にとどまるだろう。
[原文:Google is getting ahead of itself in its quest to make the future happen now]
(翻訳:Tomoko A.)