撮影:伊藤有
日本では、iPhoneに次ぐ販売台数を誇り、出荷台数シェアでは2位(MM総研調べ)につけるソニー。この夏商戦では、ドコモに「Xperia XZs」と「Xperia XZ Premium」を、au、ソフトバンクにはXperia XZsを納入する。
ドコモ2017年夏モデルの「Xperia XZs」(左)と「Xperia XZ Premium」(右)
フラッグシップモデルのXperia XZ Premiumは、"ドコモだけ"の取り扱いとなることもあって、同社は大々的にこれをプッシュ。夏商戦の売りの1つに、Xperia XZ Premiumが対応する「4K HDR」を挙げ、dTVやひかりTVといったドコモやNTTグループのコンテンツも、これに対応させてきた。代表取締役社長の吉澤和弘氏自ら、4K HDRの魅力を力説。「日本国内では、ドコモだけ、ドコモだけが発売する」と興奮気味に語った。
端末を手に、4K HDR対応のメリットを解説するドコモの吉澤社長。
このように国内では好調なXperiaだが、グローバルに視点を変えると、必ずしも順風満帆とは言えない。ソニーの2016年度決算を見ると、ソニーモバイルが所属する「モバイル・コミュニケーション」分野は、売上高7591億円に対し、営業利益は102億円の黒字。為替の影響もあって前年同期比で716億円の大幅な黒字となったが、販売台数は2015年の2490万台から、1460万台へと激減した。ソニーの社長兼CEO、平井一夫氏も、「スマートフォン事業の収益性には、まだ課題がある」と語る。
もっとも販売台数については、意図的に絞り込みをかけた側面が強い。ソニーは、スマートフォンに限らず、テレビやカメラを含めたエレクトロニクス事業全体で、「集中と選択」を行っている。平井氏によると、「規模を追わず、違いを追うことをキーワードに取り組んできた」といい、実際、テレビ事業やカメラ事業では、成果が上がっている。ソニーの技術力が発揮しやすいフラッグシップモデルに近い領域でビジネスをしつつ、それを販売できる市場を見極めているというわけだ。
テレビやカメラはスマートフォンより早く、高付加価値帯への選択と集中を行い、業績が回復した。
得意とする「ソニーらしい市場」で戦う
Xperiaシリーズを手掛けるソニーモバイルも、同じ方針の元で動いている。実際、2016年度はいわゆるローエンドモデルを販売せず、グローバルでのラインナップをミッドレンジ以上に大きく絞り込んだ。それに伴い、地域の絞り込みもかけている。キャリアの強い日本や一部アジア圏では、ハイエンドモデルの比率が高い。一方で収入格差の大きな欧州、中近東、中南米などでは、ローエンドモデルで数を絞る戦略を取らざるを得ない。こうした地域で、意図的に台数を絞り込んだというわけだ。実際、ソニーの決算資料では、減収要因として欧州、中近東、中南米での販売台数低下が挙げられている。
この方針に基づいて開発されたのが、冒頭で挙げた、Xperia XZ Premiumや、Xperia XZsといったハイエンドモデルとなる。3キャリアから発売されるXperia XZsは、昨年の冬モデル「Xperia XZ」のマイナーチェンジ版だが、このモデルを投入したのは、ソニーモバイルが新製品の販売比率を上げ、収益性を健全化しようとしていることの表れと見ていい。技術面のトピックは、ソニーのイメージセンサー部門が開発した「メモリー積層型CMOSセンサー」を搭載。これによって、シャッターを切る前から写真を撮り、最適な1枚を選べる「先読み撮影」や、960fpsの「スーパースローモーション撮影」を実現し、他社のフラッグシップモデルとの差別化も図られている。
夏モデル2機種には、ソニーの「メモリー積層型CMOSセンサー」を搭載し、「先読み撮影」や「スーパースローモーション撮影」が可能になった。
モバイル業界での評価が高いXZ Premium
Xperia XZ Premiumには、クアルコムのプレミアムモデル向けSoC「Snapdragon 835」も採用されており、ドコモのネットワークと組み合わせることで、下り最大788Mbpsを実現する。処理速度だけでなく、通信速度も高い、最上位モデルに仕上がっている。こうした機能が評価され、世界最大のモバイル関連見本市であるMobile World Congress 2017では、Xperia XZ Premiumがベストスマートフォン賞に輝いている。当時はサムスン電子の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」が未発表だったこともあるが、急成長するファーウェイや、韓国大手のLGエレクトロニクスを差し置いての受賞は、評価できるポイントと言えるだろう。
一方で、上位モデルにラインナップを絞ったからといって、安泰ではない。スマートフォンは成熟化が進み、差別化の要因が減りつつあるからだ。上位モデルになればなるほど、磨き抜かれた機能や、一目で他社と異なる違いが必要になる。夏モデルを俯瞰すると、ディスプレイを18.5:9と縦長にしたGalaxy S8、S8+がデザインの上では一歩リードしている印象もある。ディスプレイはコンテンツ、サービスにつながる"窓"とも言えるインターフェイス。皮肉にも、平井氏が語る「KANDO@ラストワンインチ」を体現しているようにも見える。
完成度の高さや未来感あるシルエットが好評のGalaxyは、ハイエンドモデルでの強力なライバルになりそうだ。左からGalaxy S8+、Galaxy S8。
格安SIM系はもはや無視できない存在だが……
ソニーモバイルの売上の多くを占める日本市場での変化に、キャッチアップできていない点も気がかりだ。足元を見ると、UQ mobileやワイモバイルなど、大手キャリアのサブブランドが急成長している。また、いわゆる格安SIMを展開するLINEモバイルなどのMVNO事業者も順調に数を伸ばしている。MM総研の調査では、2016年度はSIMフリースマートフォンが占める割合が9.3%となり、2017年度には11.7%、2018年度には14.1%、2019年度には16.1%まで拡大することも予想されている。
かつて、MVNO向けにドコモ端末の"おさがり"である「Xperia J1 Compact」を発売したソニーモバイルだが、後継機が出ておらず、SIMフリースマートフォンのシェアは、ASUSやファーウェイに上位を独占されている状況だ。大手キャリア向けのビジネスは規模が大きく、簡単には手放せないのは事実だ。ただ、海外で発売するミッドレンジモデルを、キャリア向けのフラッグシップモデルとは別にSIMフリーで販売する戦略は、日本でも取れるはずだ。
業績回復の途上とはいえ、大手キャリア頼みの片肺飛行になっていていいのか。それが、ここしばらくのXperiaに付きまとう、そこはかとない不安要素だ。
(撮影:石野純也)
石野純也:ケータイジャーナリスト。出版社の雑誌編集部勤務を経て独立後、フリーランスジャーナリストとして執筆活動を行う。国内外のスマートフォン事情に精通している。