AIIB参加への転換を重視する北京 —— 本腰入れる対日関係改善の思惑とは

足踏み状態が続いてきた日中関係が改善に向け動き始めた。

契機は中国と良好な関係を保ってきた二階俊博・自民党幹事長の訪中。二階氏は5月16日に北京で習近平・国家主席と会談、日中首脳のシャトル外交を提案した安倍晋三首相の親書を手渡した。習氏もこれに対し「検討したい」と応じた。中国外交筋は「日本政府のメッセージが込められており、中日関係好転の契機にしたい」と高く評価した。

握手する安倍首相と習主席

動き始めた日中関係。習主席の初来日は実現するのだろうか。写真は2016年9月、G20杭州サミットにて。

Lintao Zhang/Getty

習近平の初来日実現も

改善を印象付ける「とっかかり」の1つが首脳会談である。今年から来年にかけて予想されるシャトル外交を整理する。

中国外交のトップの楊潔チ・国務委員は5月末にも来日し、谷内正太郎・国家安全保障局長との間で日程を詰める。東京と北京の外交筋は、安倍・習近平会談が7月初め、ドイツ・ハンブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会合に合わせて開かれる可能性が高いとの見方で一致する。さらに中断状態の「日中韓首脳会談」が年内に東京で開かれれば、李克強首相の来日が見込まれる。しかし、最大の焦点は習氏の初来日で、谷内氏と楊氏が詰めの協議をするはずだ。今年は1972年の日中国交正常化45周年に当たり、来年は日中平和友好条約40周年の「節目」の年になる。主要国の外交関係のうち、日中関係は2012年の尖閣諸島(中国名・釣魚島)の「国有化」以来、首脳の相互訪問が中断。2014年11月に安倍訪中は実現したものの、非難の応酬のぎくしゃくした関係が続いてきた。

AIIB参加への転換を重視

ここにきて北京が対日関係改善に本腰を入れ始めた理由と背景は何か。北京の中国筋は次のように解説する。二階氏は北京で開かれたシルクロード経済圏構想「一帯一路」国際フォーラムで、日本のアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加を促した。同筋は「二階は習会談の冒頭『日本政府を代表して』とあえて発言した。今井尚哉・政務秘書官も会議に参加しており、われわれはAIIBへの前向き発言を、安倍首相の意向と受け止めている。日本がAIIBに将来参加する可能性も出てきた」とみる。

アメリカと共にAIIBを頑なにボイコットしてきた安倍政権の「軌道修正」を、北京は見逃さなかった。安倍親書について「儀礼的な内容では意味はない。充実した内容が必要ということで、事前に双方が一致した」とも述べ、「シャトル外交」再開について、中国側と事前合意していることを匂わせた。

日中関係は今年に入ってから、日台交流の窓口機関「交流協会」が「日本台湾交流協会」と名称変更したほか、赤間二郎・総務副大臣が3月、断交以来副大臣として初めて台湾を訪問するなど、安倍政権の台湾重視姿勢が目立っている。また海上自衛隊の護衛艦「いずも」は5月、南シナ海で米駆逐艦と合同訓練をしたのに続きシンガポール、ベトナムに寄港。南シナ海での日本の存在を誇示している。北京からすれば「中国けん制」が目的であることは明らかだ。

生きている毛沢東思想

毛沢東の肖像画をスマホで撮影する様子

問題を「主」と「従」に分けて考える中国の思考のあり方は、毛沢東の思想が今も生きていることをうかがわせる。

Kevin Frayer/Getty

在京の中日関係筋は「台湾問題や海の問題では年初から、不愉快な事があった」と指摘する一方、「これらの問題は表面的な問題。対中政策の基本的発想に問題がある。新たな対中政策の発想を示してもらいたい」と答えた。中国けん制のために、中国脅威論を煽るのを止めるよう求めているのである。

ここでのポイントは台湾、南シナ海問題を「表面的」と位置付けたこと。北京が関係改善の潮流を「主」とし、対立と障害を「従」と見なしていることを示しており、改善への「本気度」がうかがえる。

毛沢東は日中戦争開始直後の1937年8月に発表した「矛盾論」の中で、矛盾を「主要」と「副次」に分け、「主要矛盾」の日本帝国主義と戦うため、「副次矛盾」の国民党とは統一戦線を組むよう主張した。台湾や南シナ海問題を「表面的」と見なす思考は、毛沢東思想が今も脈々と生き続けていることをうかがわせる。中国特有の「大局観」でもある。

こんなにある北京のメリット

では安倍政権との関係改善によって、北京はどんなメリットを期待しているのか。

まず内政。中国共産党はこの秋、第19回党大会を開催する。党の「核心」になり「強人政治」を進める習近平にとって、「目の上のこぶ」の安倍政権と関係改善をすることで「全方位外交」を完成させ、自らの権威を高めることにつながる。これが内政最大のメリットである。

そして外交。北朝鮮の核・ミサイル問題を契機に深まる米中協調の余勢を駆って、日中関係を改善することで、次のメリットがある。

  1. 国交正常化45周年と平和条約40周年の節目に花を添える
  2. 日本のAIIBへの将来参加を促す要因
  3. 安倍政権に台湾、南シナ海問題で自制せざるを得ない状況作り
  4. 北朝鮮問題を、アメリカのみならず日本と韓国新政権との協調下で外交的解決を摸索

中国にとってだけでなく、関係国との「ウィンウィン」になるという見方でもある。最終的には「中国がイニシアチブを取って東アジアを動かしたい意欲が感じられる」と見るのは、東洋学園大の朱建栄教授だ。

安倍首相

安倍外交の哲学とは?

Carl Court/Getty

大局観に欠ける日本外交

こうしてみると中国外交がいかに「したたか」か、分かるだろう。もし安倍政権が、日米安保偏重の対中外交で対中包囲網を築けると考えているなら、それは「迷妄」に過ぎない。中国人民解放軍の戦略家で作家の劉亜洲・空軍上将は自著で、「毛沢東は日本には哲学がないと指摘した。戦略には大局観が必要だが、日本の場合局部を特に重視する」と書いている。

確かに、日本社会の随所にそうした面があり、外交にも感じられるのは認めざるを得ない。だれも住まない海の孤島を国有化して、日中衝突に導いたのもその一例だろう。劉氏はさらに「もし我々が対米関係をうまく改善できなければ、安倍と右翼に対し根本的な対応がとれなくなる」と書き、対米関係の調整こそ日中関係を左右するという見方を示した。

尖閣問題でも日本を相手にするより、アメリカと協議する方が「早道」という思考の表れである。もしそうなら、「中国包囲」に熱心な安倍外交も対米、対中関係の調整を急がねばならない。


岡田 充:共同通信で香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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