「インターン採用認めず」文科省見解は現実無視か——就活最前線のホンネ

壁に向かって一斉にアンケートに書き込む就活生たち

就活のタテマエと実態の間で揺れる学生たち

撮影:今村拓馬

企業の採用選考が解禁され、就活シーズンが大詰めを迎える6月を前に、文部科学省の出した「インターンと採用活動の直結は避けるべき」とする見解が、学生や企業の間に波紋を広げている。文科省の見解は就職活動の早期化や長期化を招いて「学生の学習環境の確保が困難」になることを懸念するものだ。

国や経団連の従来の方針を踏襲したかっこうだが、若手人材不足に企業があえぐ昨今、内定を念頭に置いたインターンは、学生や企業の間では「当然のこと」で、現状とのギャップに違和感を訴える声も上がっている。

企業や学生の声が反映されていない

「今回の有識者会議の見解には、企業や学生の実態や声が反映されていない。決め方も含めて、この結果に疑問を持っている」

危機感を募らせるのは、SNSを活用し企業と就職希望者とのマッチングサービスを運営するウォンテッドリー(Wantedly/東京都港区)だ。同社のサービスは利用企業社数2万社、月間ユーザー数150万人を超え、学生の間でも「就活の必須アイテム」と支持されている。

インターンシップの仲介も多く扱い、2016年で3500社がインターン募集をウォンテッドリーを通じて実施している。とくに中小ベンチャーにとって「名の知られた大企業に先駆けて、優秀な学生を確保するにはインターンは大きな意味をもつ」(担当者)という。

同社の担当者は、多くのインターン現場をみてきた立場から「直結は認めなくても、各企業は水面下で優秀な学生をいち早く探し、動いている。(国や経団連の方針と)現実の間にギャップがある」という。

ただ、就活支援サービスの企業の見方も分かれる。新卒採用支援を手がけるエン・ジャパンの林善幸・新卒採用企画部長は「企業の利益が先行する『選考直結型』によって学業に集中できなくなるような環境は、やはりよくない」との立場だ。

内定直結のインターンが解禁されれば、就活期間が短くなるのではとの見方もできるが、「多くの学生はたとえインターンで内定が出ても、人気の総合商社やメガバンクの選考結果を待ってから就職先を決める。やはり長期化することは避けられないのでは」(林氏)と、文科省の方針はやむを得ないとみる。

別の人材サービス会社の関係者は「文科省の見解に法的拘束力はない。これまで同様、インターンで内定を出す企業は出すだろう。そもそも外資には6月の選考解禁すら無関係なのだから」と、冷めた見方だ。

ウォンテッドリーで働くインターン生の会議風景

インターンシップには新卒と企業のミスマッチ解消につながる期待がある

提供:Wantedly

存在感増すインターンシップ

リクルートキャリアの「就職白書2017」によると、新卒採用を実施している企業のうち、2016年度にインターンシップを実施した企業は約65%で、前年比9.4ポイントの増加だ。また、7割超の企業が「内定者の中にインターンシップ参加者がいた」と回答している。そもそもインターンを「採用目的」としている企業の割合も約23%で、前年比で3ポイント超伸びた。

就活におけるインターンの存在感は増す一方のようだ。というのも近年「学生と企業のマッチングを測る上で非常に有効」(ウォンテッドリー)との見方があるからだ。

厚生労働省の調査では新卒採用の3年以内離職率は、10年以上にわたり約3割で推移している。ただでさえ人手不足時代の中で、ミスマッチによる離職は学生にも企業にも不幸なことに他ならない。インターンシップの普及によって、離職率の減少が期待される面があるのは事実だ。

そうした流れの中で昨年末、文科、厚生労働省、経済産業省の参加するインターン促進を目指す会議で、学生の希望に応じて、インターンで取得した個人情報を企業が(採用に)使える改革案が浮上。インターン採用解禁への期待が高まっていた。それが今回の見解で、覆された形だ。

文科省の担当者は「インターンシップと称して採用活動が行われるようでは、インターン自体の信頼性を損なう。学習環境の確保のために(認めない方針で)一致した」と説明する。就活シーズンに合わせ、企業の合同就職説明会や大学で告知するなど「周知徹底する」という。

一律に規制には疑問

インターンは実際、学業に支障となっているのか。

「インターンが原因で単位を落としたり、講義のコマ数を減らしたりすることはない」。貧困世帯向けの学習・居場所支援を行うNPO法人でインターンをしている、東京大教育学部3年の中村彬裕さん(21)は、とくに学業に支障を感じていない。当初は就職を視野に選んだインターン先ではなかったが「実際に働くことでインターン先のビジョンに改めて共感したり職員の方が楽しそうに働く姿を見たりして、そこでの就職も視野に入れるようになった」

採用との直結を一律規制する文科省の見解には、違和感を覚えるが、「企業や学生が採用の段階としてしかインターンを活用していないのならば、そこにも課題があるのではないか」

もちろんケースにもよるだろう。

都内大学3年の女性(20)は就活の早期化を実感している。「インターンに参加しないと就活に乗り遅れるような気がします。時期がどんどん早まっているので、就活のために大学に通っているような感じ」と語る。

東京大文学部3年の男性(20)は「学業とインターンが両立できる場合を考慮せずに、一律に採用直結を規制するのは、学生個人個人への対応性に欠けるのではないか」という。

違和感の根本は「採用とは無関係」というタテマエと、実際の就活現場のダブルスタンダードにあるようだ。

「(インターンと採用直結を禁止する)国の方針と企業の思惑に乖離があり、現状、形骸化していると思います」。そう話す早稲田大政治経済学部3年、渡邉佑助さん(20)は、今夏からインターンに参加する予定だ。

学業への支障を警戒して、文科省はこれまでも就活時期の変更などの方策を講じてきたが、実際は早期に優秀な学生を集めたい企業がインターン直結採用や事前に内々定を出すことなど、珍しい話ではない。学生の立場として「事実上インターン直結があるなら、早期からインターンに精力的に取り組むインセンティブは十分にある」と語る。

インターンのあり方自体も変化するのでは、という見方もある。

すでに個人事業主として、キャリア支援事業に携わる駒沢大4年の中村真隆さん(21)は「これからの時代『ポテンシャル採用』から『実績採用』になると言われている。プログラマーやエンジニア職は、すでに学生のうちにどんな成果物があったかが問われるが、総合職もそうなるだろう」とみる。

そうすると「(インターンに)採用ルートがあろうがなかろうが、その学生がその仕事にマッチしたら自ら(入社試験を)受けにいくし、マッチしなかったら良い経験になったと思うだけでは」

企業の本音は若手人材不足への危機感

インターンをめぐる企業の早期囲い込みや就職活動の過熱化への懸念の背景には、年々深刻化する若手人材不足の問題がある。

国勢調査や国立社会保障人口問題研究所の統計を元に国土交通省がまとめた資料によると、日本の総人口に占める20〜39歳の割合は、1970年で35%、2010年で25%だったが、2060年には17.4%にまで減少する。

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2017年1月)では、43.9%の企業が「正社員が不足している」と回答している。

高齢化する日本社会で、若手人材の確保は企業の生き残りをかけた命題になっているのだ。

長年、就活の現場を研究するリクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長は、文科省の今回の結論について「インターン生に内定を出すなどの採用活動との一体化は、就活の早期化・長期化を急加速させる可能性があり、その抜本的な解決策が見つからない中で、解禁するのは時期尚早。とはいえ引き続き検討課題ではある」と説明する。

国や経団連の指針とは別に、実際は早期に内定を出す動きもある中で、インターンや就活の位置づけに悩む学生に対しては「はっきりしたルールを決めてほしいと思うかもしれないが、就活は答えのない社会に入っていく、一つの関門。主体的に考えて、行動してほしい」と話している。

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