幼児期のバイリンガル発達論に新説「量より質が肝心」

ギズモード・ジャパンより転載(2017年5月27日公開の記事)

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提供: twomeows / Getty Images

できることなら我が子にはバイリンガルに育ってほしい。

グローバルなこのご時世、英語や中国語など、日本語に加えてほかの言語も操れたら、より広く、より豊かな人生を送れるでしょう。そのために早くから子どもの外国語教育に熱心な親も多い日本では、残念ながら日常的に日本語以外の言語に触れる機会がほとんどないのが現状です。実は、この単一言語的な環境そのものが、バイリンガルへの道をはばむ最大の原因らしいんです。

Developmental Science誌に発表されたフロリダ・アトランティック大学のエリカ・ホフ(Erika Hoff)教授の研究によれば、生まれた時からふたつの言語を聞いて育った場合、それぞれの言語は独立して発達し、その発達の進度は耳に入ってくる言語情報の質に反映されるんだそうです。つまり、聞いて覚えるのには違いないけれど、量よりも質が大切らしいんですね。

ホフ教授率いる研究チームは、フロリダ州のバイリンガル家庭に生まれ育った子どもたち90人を対象とした縦断的研究を行い、2歳半から4歳になるまでの間に英語とスペイン語がどのように上達していったのかを調べました。

ホフ教授の専門分野である発達心理学では、言語発達の通説として「語彙力と文法力は関連している」と考えるそうです。それを踏まえたうえで、当初の研究目的は「語彙力と文法力がどのように相互作用しているのか」を調べることでした。豊富な語彙が複雑な文法を生むのか? それとも文法が発達するなかで言葉に対する理解が深まるのか? また、同時にふたつの言語を習得しているバイリンガルな子どもたちにおいて、ひとつの言語の語彙力がもうひとつの言語の語彙力、または文法力に関係しているのかどうかも調べたそうです。

ホフ教授の研究についてはこちらの映像(英語)もご覧ください。

結果は予想外でした。

データが示したのは、語彙が多くなればなるほど文法も複雑になっていくという通説通りのパターン。ただし、この相関関係はそれぞれの言語内のみで作用し、違う言語間では連動していませんでした。たとえば、英語の上達が急ピッチで進んでいても、必ずしもスペイン語も同じ速さで進んでいなかったのです。もし生まれつき言語習得が得意な子と、そうでない子がいるとしたら、英語であろうがスペイン語であろうが同じように上達していくはずです。

また、もしある言語の特別な構造上、語彙力と文法力の相関関係が必然的に成り立っているとしたら、語彙力の発達は必ずその後の文法力の伸びを予測するはずですが、必ずしもそうではなかったそうです。たとえば「英語」という言語の構造上、一定量の語彙を学ばないとそれらを使う文法が身につかないとします。そうすると、英語の上達は誰もが同じパターンをたどり、今後の上達も予測可能なはずですが、結果はそうではなかったそうなんです。

そこでホフ教授は、なんらかの外部要因が語彙力と文法力の上達どちらにもおなじように影響を及ぼしているが、言語によって影響力が違うのではないかと考えました。そして、その外部要因とは、子どもたちを取り巻く環境にあるのではないかと指摘しています。

これは、たとえば子どもたちが家庭内で聞く親同士の会話。あるいはプレスクールの先生による読み聞かせなどではないでしょうか。ホフ教授の実験では、耳から入ってくる言語情報の量を被験者間で均一になるように統計処理を施したそうです。だとすれば、子どもたちの語学を習得するスピードがまちまちだったのは、少なからずも遺伝的な得手不得手はあるとしたうえで、実験では数値化されなかった「なにか」が子どもたちの語彙と文法の上達に影響していると考えられます。そしてその「なにか」が、耳から入ってくる言語情報の質ではないかと、ホフ教授は結論づけています。

ある意味、とても勇気づけられますよね。言語を学ぶポテンシャルは皆同じという結果が出たわけですから。ただし、2歳半から4歳までの柔軟な脳を持っていれば、ですが…。

さらに、ホフ教授の研究によりバイリンガル教育のリスクも明らかにされています。データを見ると、どうやら英語の上達が進むほど、スペイン語の足をひっぱるらしいのです。逆に、スペイン語の上達が進むほど英語の上達がにぶるという結果は出なかったそうです。これについてホフ教授に問い合わせてみたところ、以下のような解説をいただきました。

言語習得において、その子どもが置かれている社会的な環境は大変重要です。私の研究に参加してくれた子どもたちはみな英語圏に住んでいます。スペイン語はマイナー言語なので、習得に差が出ます。

これは英語-スペイン語に限らず、ほかの言語ペアにも言えることだそうです。ふたつの言語を聞いて育っている子どもの場合、メジャーな文化の言語を習得することによってマイナーな文化の言語習得が阻害されてしまう。海外で暮らす日本人がいかに子どもに日本語を身につけさせるかという課題ともつながっていますね。

ホフ教授の所属するフロリダ・アトランティック大学広報部の記事によると、アメリカでは英語以外の言語を家庭で耳にする子どもたちのうち、高校中退率は31%だそうです。比べて英語のみの家庭に育った子どもたちの高校中退率は10%。

バイリンガルであるがために、学業において不利になってしまうのでしょうか? アメリカで増え続けるスペイン語-英語を母国語に持つ子どもたちが、学校でうまくやっていくための体制がそもそも整っていないせいかもしれないと、ホフ教授は広報部の記事に語っています。解明に向けて、これからも同じ子どもたちの成長を追い続け、10歳になるまで研究を続けるそうです。

source: Developmental Science, YouTube, Florida Atlantic University Newsdeskreference: ScienceDaily

(山田ちとら)

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