宗教的でない日本で考えた“宗教”——ムスリムとしてドイツで暮らすYouTuber

人はなぜ旅をするのか——。東京・池袋にある「泊まれる本屋」BOOK AND BED TOKYO世界各地からこのホステルを目指してやってくる旅行者たちへのインタビューを通して、少しだけその人たちの旅と人生観に触れる。連載「BOOK AND BED TOKYO JUNCTION」。


book-and-bed-tokyo3回目

ドイツのYoutuber、ユネス。日本人のホスピタリティに感動したという。

撮影:sayaka

3回目は1カ月バケーションを利用して日本に滞在するYounes Al-Amayra(ユネス)、ドイツのベルリン出身の31歳。綺麗な英語を話すので、ドイツ出身と聞いてびっくり。スタッフもゲストも関係なく誰とでも仲良くなってしまう彼は、実はYoutuberとして映像を作っているという。

——どういうYoutubeチャンネルをやってるの?

ユネスdatteltäterというYoutubeチャンネルで映像を作っている。たまにシリアスで深いものも作るけど、ムスリム文化を面白くドイツや世界に向けて発信しているよ。面白いコンテンツが多いけど、その裏には必ず意味が込めてある。

——このチャンネルを始めたのはなぜ? どんな風に運営してるの?

ユネス:簡単に言えばドイツ人とムスリム人との橋渡し。ドイツではまだムスリムに対してのステレオタイプな見方が多いんだけど、そういうのをなくすって言うよりは笑い流せるぐらいにしたい。ドイツにはムスリム系の移民は多いけど、彼らにロールモデルはいない。僕もイジメられたり差別されたりすることが多くて、子どものころつらい思いをいっぱいしたから、今の若い子たちに向けてのメッセージになればいいなとも思う。このチャンネルは友達5人とやってるんだけど、1人は白人でドイツ人、あとはコンバートした(信教を変えた)ドイツ人と、女性のムスリムもいるよ。メッセージを伝える上で、この多様性は僕らのチャンネルには必要だね。

——ムスリムとしてドイツで生きていくのは大変?

ユネス:父親はパキスタン人で母親はシリア人なんだけど、僕自身は生まれも育ちもドイツ。家族もあんまり宗教的ではなかったのだけど、中学ぐらいから差別とかイジメが始まって、その頃くらいから自分がアラブ人なのかドイツ人なのか、よくわかんなくなってきた。ドイツ人なのにドイツから追い出されてるみたいな気持ちになったね。今は何ともないけど、子どもの時は結構つらかったの覚えてる。

——思春期にイスラム教徒になろうと思ったきっかけはあった?

ユネス:その頃に同じ年齢ぐらいのアラブ人に出会って、彼が僕に向かってSalaam Alaykum(サラマリコン)って挨拶したんだ。これはムスリム同士の挨拶で、「平和でありますように」って意味なんだけど、その時に自分はムスリムなんだって気づかされたような、どこにも属していないと思っていた自分が当たり前のようにムスリムの輪の中にいるような気持ちになった。彼はとても頭も良くて親切で、彼のようになりたいと思ったのもあるかな。日本でも、アラブ人が僕を見かけてこの挨拶をしたことがあったよ。世界のどこに行っても自分のアイデンティティが認識されて、自分の土台があるみたいな。だからそれからイスラム教を勉強し始めた。ドイツで生まれ育ってドイツ人だと思ってるのに、少し見た目が違うっていうだけでアウトサイダー(外部者)になる。そんな時に自分の帰れる場所があるって、安心できるし誇りを持てる。もともとお酒は飲んだことないけど、それからもお酒も一滴も飲まないしポークも食べない。お祈りもするしラマダンもするよ。

—— Youtube以外でも仕事はしてるの?

ユネス:僕がメインでしている仕事は、ISISメンバーだった人たちを普通の世界に戻すカウンセラーみたいなこと。de-radicalizationっていうんだけど、刑務所で話を聞いたり家族の相談にのったりもしてるよ。ムスリムだし、イスラムサイエンスの勉強もしたから、そういう人を助ける仕事をしてる。

——そういう仕事してることもあってYoutubeでムスリムについて発信してるんだね。仕事では、どういう人たちと話したりしてるの?

ユネス:いろんな人がいるけど、大体14から25歳ぐらいの若い子たちが多いかな。ほとんどの人が普通の生活に戻りたい気持ちはあるんだけど、それができない人たち。僕はそういう人の過去や、それまでの経緯を聞いて信頼を得るところから始める。ある子は、レバノンで父親に毎日一緒に遊んでいた友達を殺せって銃を渡されたんだ。5歳の時だよ。その近所の人がシーア派だからっていう理由だけで。叔父さんが止めに入ったから一事は逃れられたけど、それがトラウマになったんだ。ムスリムっていうだけでドイツでは仕事も見つからないからドラッグを売ったりしてお金を稼いで生活して、ギャングみたいなもんだよ。その後、彼は自分がパキスタン人っていうことがわかって、パキスタンを解放にする活動を始めたり軍隊に入ったりした。実際にエジプトにも行ったりしたんだけど、彼らのやってることを目の当たりにしてその組織が本当はパキスタンを解放をするためのものではないということが分かった。全てを変える必要があると気づいたけど、その時彼はすでに洗脳されてた。

——そこまで洗脳されてる人たちを変えることって可能なの?

ユネス:僕がこの仕事を通して感じるのは、人が一番変わるきっかけになるのは結婚した時と子どもができた時。彼もその一人。子どもをドイツに残していたから、帰ってきてすぐ警察に出頭して自分の知ってる情報を話すことを約束した。その子どもも去年いきなり亡くなっちゃったから、彼の人生はクレイジーだよね。

——日本でのムスリムについて何か感じたこととかある?

ユネス:まず驚いたのが日本にモスクがあるということ。僕が行ったのはトルコ(系)のモスクだったけど、コンバートした日本人がいることに驚いた。インドネシア(系)のモスクに行った時、彼らは現地の習慣などに従って独自の発展をしていた。日本ではムスリムはまだ新しいもので、これから発展していくのかな。例えば着物を着ている女性がヒジャブ被ってたりとか、ただコピーするだけじゃなくうまく融合していけたらクールだと思う。

——貴重なバケーションなのに、どうして1カ月も日本を旅しようと思ったの?

ユネス:旅ってトリレンス(忍耐力とか我慢すること)が一番学べると思うんだよね。ドイツ人って旅マスターってぐらい旅好きで、僕も旅好きだし、ヨーロッパとか西洋にはうんざりしてるから、アジアの国に来たくて、ラストサムライが好きな映画だったこともあって日本にしたんだ。

日本人は本当に本当に親切。ビデオ作ってるからカメラとか大量の荷物と移動しなきゃいけないんだけど、上野駅でスーツケース持ってたら60歳ぐらいのおじさんが『手伝おうか?』って。僕の方が体も大きくて若いのに、何だか申し訳なくなっちゃったよ。こういう時に、ムスリムと日本って実は似てる部分も多いかなって感じる。知らない人にでも親切にしたり、礼儀とかも大事だよ。ムスリムも年配の人を敬うし、街や家の中の清潔さもすごく重要。日本人は礼儀正しくて親切って聞いてたけど、実際に過ごしてみて本当にショックを受けた。どんな場所でも状況でも、想像以上にみんな優しくてウェルカミングだった。これはヨーロッパでは絶対に感じられない感覚。

——結構ヨーロッパに対して悲観的だね。ユネスは宗教が必要だと思う?

ユネス:宗教的な人っていっぱいいるけど、もし自分たちの宗教を強要したり、どうでもいいことで争ったりしてたら、僕はそういう人たちを宗教的だとは思わない。お祈りの仕方とか服装はこうじゃなきゃいけないとか細かいことはどうでもよくて、そのコアに何があるのか理解してない人たちが宗教的といっても全く説得力がない。彼らは他の人とか国をどうこう言う前に、鏡で自分のことを見てから発言しなきゃいけない気がするね。日本人は宗教的ではないけど、そういうところがしっかりしているから不思議だよ。

ユネスは最後の最後まで日本のホスピタリティーに感動していて、帰国の飛行機の前にも、「空港のセキュリティーで靴を脱いだんだけど、スリッパを出されたのは初めて!」と感動していた。


sayaka:10代後半から約10年をアメリカで過ごす。ニューヨークの大学を卒業後、マーケティングの仕事に就くが、約15カ月間中南米をバックパッキングで旅して帰国。現在はBOOK AND BED TOKYOのスタッフとして働く。

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