その「社内恋愛」は欧米では性犯罪になる——沈黙は同意ではない

お互い好意を抱いていたと「思っていた」、相手もその気だと「受け止めていた」……。

恋愛の初期段階はそう思い、何となくキスやセックスに進むのが当たり前と考えていないだろうか。

ちゃぶ台返しアクションのワークショップ

ワークショップでは、「同意」を得る責任はアクションを起こす側にあることが徹底して伝えられた。

提供:team_oyster

さらにこれが日本の職場においてはどうだろう。お互いに「本当に」好意や恋愛感情を抱いているならまだしも、上司と部下、さらには取引先との関係になると、単に女性側は「仕事でいい関係を築きたい」と思っているだけなのに、勝手に相手に「好意」として誤解されるようなケースはよくある。

折しも1人の女性ジャーナリストが、元TBS記者に対して、仕事の相談を持ちかけたのを機に「性暴力の被害にあった」と告発している。この話は決して働く女性にとって人ごとではない。

頑張って仕事しても「性的対象として見られる」

一方、欧米では、同意がない性行為は強姦罪になることがある。具体的には、アメリカのカリフォルニア州・イギリス・フランスの法律では、強姦の定義において「同意の有無」に力点がある。これは、日本の刑法における強姦の定義が「暴行脅迫の有無」であるのと大きく違う。

日本の刑法における性犯罪規定は、作られてから100年以上経っており、現代の先進国の常識と差がありすぎる。そのため、国会では改正に向けた議論が進んでいる。

こうした中、あるワークショップが注目を集めている。女性がより自分らしく生きられる社会を目指して活動している団体「ちゃぶ台返し女子アクション」の鎌田華乃子さんと大澤祥子さんが企画運営を手掛ける、性交渉における「同意を考える」ワークショップだ。今年2月から約3カ月で11回開催、延べ205人が参加した。

2人がこうしたワークショップを開くのは、日本の職場には権力関係を利用した性暴力が普通に存在する、という危機感からである。

100人近くの女性たちに話を聞いた結果分かったのは、「頑張って仕事をしているのに性的対象として見られる」という女性たちの悩みだった。

「派遣先で初日に、職場をまわしている男性に関係を迫られ、やんわり濁すしかなかった」

「正社員なら昇進して活躍したい、と思うから、クライアントや上司の誘いを断れない」

という声が多く寄せられた。中には、女性活躍が進んでいるとされる有名企業もある。

政府統計によれば、性犯罪の認知件数はここ10年、減少傾向にある。強姦は2005年の2076件から2015年の1176件、強制わいせつは8751件から6755件へと減った。それぞれ検挙率は69.5%から95.5%(強姦罪)、43.4%から61.1%(強制わいせつ)へと上がっている(出所:平成28年7月警察庁発行の「平成26、27年の犯罪情勢」

認知件数が減少する中、検挙率は上がっているのだから、統計から見れば、性犯罪の問題は改善しているように思えるかもしれない。

しかし、話はそう簡単ではない。性犯罪は被害者の心身に長期的な悪影響を及ぼす。警察庁の調べによれば、性犯罪被害者は「精神上の問題がある」と答えた人の割合が殺人・障害に次いで多い。「日常生活が行えなかったと感じた日数は55.1日であり、事件後の精神的な状況の変化においては、悪化したと回答する割合が最も高い。主観的な回復状況においても、回復度合いは高くなく、性犯罪が精神上の影響を強く及ぼすことがうかがえる。」 (出所:平成27年3月警察庁公表:平成26年度犯罪被害者類型別調査

警察に相談する人は4.3%しかいない

より深刻なのは、鎌田さんや大澤さんが働く女性たちに行った聞き取り調査で浮かび上がった性暴力は、こうした統計にはカウントされていないことだ。

「内閣府の調査によると、警察に相談する人は4.3%しかいません」(鎌田さん)

ここで大事なのは、日本では犯罪として認知さえされていない行為が、欧米先進国の基準ではレイプとされる、という事実である。

例えば、「だまされてホテルに連れ込まれた」場合でも、日本の刑法では強姦罪にはならないケースもあるという。日本では強姦罪の適用に「抵抗したかどうか」が厳しく問われるが、そもそも職場の上司や取引先などが相手の場合、仕事上の不利益を考えて「抵抗」することができないことが問題なのだ。英米の場合、社会的地位を乱用した時点で加罰の対象となるという。

また、被害者が心に深い傷を負うことも知られていない。鎌田さんは言う。

「一緒に食事をしたり、仲良く話したりすると、この女性は自分のことが好き、だからセックスしてもいい、と誤解する人がたくさんいます。何回目のデートならキスしてもいいと思うか、人それぞれ違う考えを持っています。相手を尊重するなら、その都度、相手の意思を確認するべき」

キス=セックスもOKではない

「同意ワークショップ」で2人が伝えているのは、「同意を得るのは、アクションを起こしたい側の責任である」ということ。性行為については、それをしたいと望む側が相手の同意を得るべきということになる。また「食事をしたからキスもセックスもOK、キスをしたからセックスもOKと誤解する人が多いことも問題」と鎌田さんは言う。それぞれの行為について「今、自分はそれを望んでいるが、相手は受け入れるか否か」を確認する必要がある。「断らない方が悪い、という世の中の見方を変えなくてはいけません」と鎌田さんは考える。

ちゃぶ台返しアクションのワークショップ

ロールプレイを体験することで、実感がもてる。

提供:team_oyster

ワークショップの参加者の多くが「同意を取る責任はアクションを起こす側にある」という発想自体を新鮮なものとして受け止める。「学生も社会人も多くの方が感想の中で言及していました。本当は当たり前なことなのですが、性教育の現場では誰も教えてくれないですよね」と大澤さんは話す。

ワークショップでは「同意がない場合は性暴力の定義に当てはまる」という説明もしている。

「同意が尊重されないロールプレイを1回演じてもらった後に、同意のない性的言動は性暴力であること、性暴力を受けることによる精神的身体的ダメージについて説明をし、その上で同意とは何か、について簡単なレクチャーを入れています」(大澤さん)

参加者からは「信頼できる関係性の大切さに気がついた」「同意は日常的なことであると気づいた」「性暴力には社会の『こうあるべき』の刷り込み、ジェンダーが影響していることに気がつけた」「性暴力とセックスは違うということを理解できた」という感想が寄せられている。

同時に参加した男女両方から「性暴力がレイプだけでなく、セクハラも含まれる身近な問題である」という意見が寄せられている。

権力に無自覚な上司や先輩たち

鎌田さんは「パワハラと性暴力はよく似ている」と話す。「上司から頭ごなしに否定され、コマのように使われる。人間性を認められず、モノ扱いされる点では、パワハラと権力関係を利用した性暴力は似ている」

こうした問題が繰り返される背景には、自分が持つ権力に無自覚な上司や先輩たちの存在がある。加えて女性が少ない職場で相談相手がいないこと、そして「断らなかったあなたが悪い」と被害者を責める文化がある。

最後に、ビジネスパーソンへのアドバイスとして、鎌田さんは「ビジネスリーダーには、自分だけでなく、相手の気持ちも考えて欲しい。自分の地位が相手に及ぼす影響を考えるのが本当に優秀なリーダーだと思います」、大澤さんは「沈黙は同意ではないということを知ってほしい」と話す。

具体的にいかなる行為が欧米の法律で強姦罪が成立するのか。ちゃぶ台返し女子アクション他3団体が関わっている「刑法性犯罪を変えよう!プロジェクト」では分かりやすい動画を作成している。日本との違いは何か。ふだんビジネスシーンで見逃していることはないか。関心のある方は動画が観られる署名サイトを訪れてほしい。

この署名を近く金田勝年法務大臣に提出できるよう働きかけるそうだ。

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