新iPad Pro 10.5インチモデル
アメリカ・カリフォルニア州サンノゼで開催されたアップルの世界開発者会議「WWDC2017」。ここ数年は開発者向けイベントに特化する方向性を強めていたが、今年は開催前からさまざまな新製品のリーク情報が飛び交った。日本時間6月6日未明の開幕基調講演では、期待されていたいくつかの新製品や、スニークピーク(チラ見せ)が発表された。
内訳は、プロ向けでスーパー高性能だが4999ドルと高価なiMac「iMac Pro」、噂のSiri搭載で349ドルのスマートスピーカー「HomePod」(ともに12月発売の製品の先行発表)、MacBook / MacBook Proシリーズのインテル第7世代CPUへのアップグレードなどだ。
すぐに購入できる製品で、かつ単なる「性能アップ」でなかったものは、意外にも「iPad Pro」の新型だった。iPadに関連したアップデートは、言ってみれば「iPadの夢よ、もう一度」的なアップデートといえると思う。
そのアップデートの内訳は、
- 小さい画面サイズのモデルが従来の9.7インチから10.5インチに(20%の画面サイズアップ/解像度は2224×1668ドット)
- 液晶ディスプレイの表示品質が向上(画面のリフレッシュレートが120Hzに、明るさも50%アップ)
- iPad Proの処理性能がiPhone7などと同世代のA10X FUSIONに
- 最大10時間のバッテリーライフ
- 今秋配布開始の「iOS11」で大幅な利便性アップデート
- 価格は10.5インチが6万9800円〜、12.9インチが8万6800円〜(いずれも税別)
といったところだ。(新iPad Proの公式ページへのリンクはこちらから)
iPad Proのハードウェア性能部分に関しては、新型が出るならこうなるだろう、という想像に近い形の発表で、それほど驚きはない。重要なのは、それと組み合わされる最新のiOS「iOS11」による機能改善だ。
基調講演の壇上でiPadを使ってデモされたiOS11の新機能は、特にプロダクティビティの強化、つまりノートPCなどと同じ「仕事にも使えるタブレット」を強く意識した変更だった。
これまでのiPad Proは、ビジネスの現場で「ユーザーが求める機能」(ユーザーがやりたいことと)と、OSの制限で「できないこと」の間に、無視できない隔たりがあった。それは平たく言えば、OSがiPhoneと同じiOSなのに、ビジネスシーンでの比較対象がAndroidではなくて「ノートPC」になってしまうという、用途とOSのミスマッチのせいだ。
iPadが「ビジネスの現場でうまく使えない」例の代表的なところでは、相互連携できるアプリが、インストールしてみるまでわからないという問題が大きかった。たとえばアプリAで作ったファイルを、場合によってアプリBでは開けないということが起こっていた(これはiOSが今に至るまで、ずっと抱えている大きな問題だと僕は思う)。
もちろん、これまでも「なんとかして仕事で使いたい」と思う人が工夫して使うことはできた。けれど、そのためには相互連携できるアプリを自分で探して、自分の仕事のワークフローの中で上手に使う方法を考える必要があった。WindowsやMacでは、少なくともアプリ間の連携が「できない」なんていう可能性は誰一人考えないことで、その点でiPadのビジネス利用は万人向けとは言い難かった。
新発表のiOS11では新機能として
- iOSとして初めての、「ファイル管理」機能
- Macのようなアプリランチャー機能「Dock」
- より使いやすくなったマルチタスク機能
- 複数ファイルのドラッグ&ドロップのサポート
といったものが追加される。壇上のデモを見る限りは、今秋のiOS11へアップデートをすることで、使い勝手が(iOSではなく)Mac寄りに変わりそうなことが予想できる。
iOS11で追加されるファイル管理機能。iPad内のファイル、アプリ内のファイルだけでなく、Dropboxなどの外部のクラウドストレージサービスのファイルも、ローカルファイルと同じように扱えるようになると説明している。
Macユーザーにはお馴染みのアプリケーションランチャー「Dock」。Macとそっくり同じものがiPadにも入ってきた。呼び出し方は、画面下から上に指をスワイプする。
もちろん、実物のiOS11を触るまでは「別のアプリでうまく開けない」問題がどこまで改善できるのかは不明だ。とはいえデモを見る限りは、少なくともiPadで作ったファイルをメールアプリなどにうまく送れない、添付できない、というようなことは大きく改善しそうだ。
第1世代のiPadが登場した2010年、みんなはこう考えた。ノートPCよりずっと薄く、軽いのに、工夫次第でこれ1台で出先のノマド仕事はこなせるんじゃないか?と。それから7年もの時間を使って、iPad(というよりタブレット)の位置付けは、当初の期待とは裏腹に、コンテンツを生産するのではなく「消費」するのに最適なデバイスという印象を強める一方だった。
アップルはiOS11+iPadで、再び「iPadの夢よもう一度」を試そうとしている。期待どおりの仕上がりになっているのかは、今秋のiOS11アップデートのときにわかるはずだ。