左から司会進行と翻訳を担当したSpicemart社の張青淳CEO、Elex Technology社のタン・ビンセンCEO、Next Entertainment社アンドリュー・チャン副社長、Beijing Mobike Technology社のクリス・マーティン氏(Head of International)。
中国には評価額数千億円〜1兆円級のメガベンチャーがごろごろ存在する。そんな彼らが日本進出を視野に入れた時、日本企業を「爆買い」するのか? 神戸で開催されたベンチャー企業交流型サミット「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」(以下IVS神戸)のセッション「来襲!合計時価1兆円チャイニーズユニコーンの爆買い開始」では、このテーマを語るにふさわしい中国メガベンチャー3社が集まった。
登壇したのは、ソーシャルゲーム会社Elex Technology社のタン・ビンセンCEO、ライブストリーミングサービス「MeMe」(ミミ)を運営する香港のNext Entertainment社アンドリュー・チャン副社長、そして昨年のローンチ以来アジア圏を中心に既に450万台(!)もの自転車シェアリングを展開するBeijing Mobike Technology社のクリス・マーティン氏(Head of International)。ファシリーテーターはSpicemart社の張青淳CEO。
Elex Technologyの歴史。2007年に5人の大学生で始めたベンチャーが、いまや年間9億ドルの売上をもつメガベンチャーになった。
3社ともに急成長中のメガベンチャーだ。Elex Technology社は2008年創業でモバイルゲームのパブリッシャー。国外でパブリッシングをしている中国企業としてはトップの売上を誇り、昨年の売上高は約984億円。時価評価40億ドル(約4370億円)という規模だ。日本ではスマホゲーム「Clash of King」が人気で、日本単体で1000万ダウンロードを記録しているという。
MeMeのサービスと出資企業の説明。右のスマホ画面の女の子はMeMeでトップ3の人気生主で、昨年10月からの半年で20万ドル(約2186万円)の売上を稼ぎ出した。中国本土で展開するInkeの場合はトップ生主の売上規模は10倍ほどもあるという。
MeMeを展開するNext Entertainment社は2016年後半に立ち上がり、同年12月に2500万ドル(約27億4000万円)の資金調達をしたライブストリーミングのベンチャーだ。資金提供企業は中国の同じくライブストリーミング最大手とされるInke社や、中国のケータイゲーム会社に約10億ドル(1096億円)で買収されたFunPlus社などの大物たち。Inke社のライブストリーミングのシステムやノウハウを生かし、台湾でローンチしたのち、2017年には日本をはじめアジア圏の展開を視野に入れる。
そして最後のMobike社は、2016年4月に上海でローンチした今最もホットなスタートアップの1つだ。フロント片持ちホイール、パンクしないジェルタイヤ、4年間メンテフリーのシャフトドライブといった独自設計のIoT自転車でライドシェアリングを提供する。すでに中国を中心とした地域で450万台のIoT自転車を走らせており、自転車内蔵のモバイル回線+GPSで位置情報ビッグデータを収集し、AIで乗り捨て車両の回収ルートを最適化するなど、先進的な試みで爆発的にサービス拡大している。資金調達元にはテンセントやFoxconn、セコイアキャピタルなど著名な企業やベンチャーキャピタルが名を連ね、調達金額はローンチから10カ月時点で3億2500万ドル=約356億円(!)だ。
Mobikeの利用方法のイメージ。中国では路上駐輪の規制がないことを利用して大規模に展開。他国に参入する場合は置き場所の確保など工夫していくという。
中国企業から見た日本市場の魅力とは?
彼ら中国メガベンチャーにとって、日本市場は魅力的なのだろうか?
まずElex Technologyのタン・ビンセンCEOは、「日本の売上は全体の15%程度」であり、今まで色々な国でゲームをリリースしてきた経験から見ても日本は、ユーザーの消費力(=課金文化)が他国に比べて圧倒的に強いという。
Elexの企業理念「地球は平らである」に従って各国ごとのアプリのローカライズ(調整)はしない方針だが、プロモーションは日本独自にアレンジして展開してきた。ビンセンCEO曰く、「日本への参入はどこの国よりもハードルが高い。(その証拠に)FacebookもGoogleも日本向けローカライズをかなりやっている。Elexとしても、日本だけはElex Japanを作った。他の国は基本的に中国本社からオペレーションをしている」。
Elex Technologyの参入国一覧。オフィスをつくっている国自体がそもそも少なく、基本的には本社オペレーションだという。
MeMeの現状と成長戦略。昨年10月の台湾ローンチ以来、売上は600%増、AppStoreランキングは大規模なマーケティング施策などは行わずに最高40位。
Next Entertainmentのアンドリュー・チャン副社長も同意見で、個別取材の場で「日本市場にはポテンシャルがある。ただし、マーケティング、カスタマーサポート、オペレーションは日本人しかできないから、日本で新たにチームをつくって展開するつもりだ」と語るとともに、2017年度Q3を目処とした日本市場参入の意思を公表した。
Mobikeのクリス・マーティン氏はほか2人とは異なる。彼は幼少期に日本に住んでいたことがあり日本語堪能、中国語も話せて、ネイティブ言語は英語のイギリス人という経歴を持つ。彼にとってのMobikeは中国企業の海外進出というより、中国をベースとするグローバル企業の他国展開という捉え方をしている(ちなみにマーティン氏は日本展開について、ステージ上で公式には一度も認めていない。まだ語るべきタイミングではない、とでも言いたげだ)。
日本に初めて持ち込まれたMobikeの実物。設計のほか製造も自社工場。ディスクブレーキ、片持ちホイールなどデザインや性能も優れている。
SIMカード/GPS搭載のIoT自転車のため位置情報を正確にロギングできるほか、リモート操作でロック解除が可能。中国では適当な場所に乗り捨ててよく、個人が回収を手伝うことでポイントが還元される仕組みなどシステム面の工夫もある。
Mobikeは、自身をプラットフォーム化しようとしていて、IoTライドシェアリングを通じて人の移動を可視化し、交通渋滞の改善や効率のよいバスルートの最適化など複数の社会問題を解決しようというビジョンを持っているという。
Mobikeの考え方では、市場があるから参入するというのではなく、日本も含めた世界中にある既存の自転車ライドシェアが行政の持ち出し(マーティン氏は「Loss」と表現していた)によって成立している問題の解決という形で参入を進めたい考えだ。
社会問題を解決しながらMobikeのビジネスを浸透させていくというモデルは、にわかには信じがたいと感じるかもしれない。彼はこう言う。「大量に導入している事例は中国が中心なので(たとえば北京では30万台が稼働中)信じてもらうのは難しいかもしれない。しかし、自転車シェアリングは(置き場所に)リアルなスペースを使うので、行政をリスペクトして、政府をリスペクトして一緒に展開していかないと成り立たない。クオンティティ(量)よりクオリティ(質)だ。そうしないと信用は得られない」
Mobikeにとっては、"日本が市場として魅力的か"というよりも"日本で一緒に協力できる組織はあるのか"が彼らにとってのビジネスチャンス判断になる、ということなのかもしれない(Mobikeのビジネスモデルは非常に興味深い。これについてはまた別記事で解説したい)。
中国ユニコーン企業の日本投資戦略
3社の中国ベンチャーは、それぞれユニコーン企業と呼んで相応しい水準の企業で、ビジネスに対して真剣だ。それだけに、あえて買収や投資を選ばない企業もある。日本への投資について具体的に話したのは唯一、Elex Technology社のタン・ビンセンCEOだ。
中国企業から見た日本の魅力を語るElex Technologyのタン・ビンセンCEO。
すでに日本向けのファンドに出資経験があるビンセンCEOは、BUSINESS INSIDER JAPANの個別取材に対し、消費財(食品)と日本の医療分野、そして独特な文化に興味を持っていると語った。
特に医療分野については、たとえば中国より医薬品の実用化が早い日本に投資し、中国人(おそらくは富裕層)のがんや白血病治療を日本で行うような事業が可能ではないかと言う。また日本はAKB48のような独特の文化を生み出す力があり、中国ではAKB48に影響を受けたアイドルビジネスも生まれている。だから、「真似をするくらいなら、そもそもAKB48に代表される日本独特のアイドル文化に、中国企業が投資して中国で展開する方法もあるだろう」。
彼の日本のマーケットに関するコメントは印象的だった。「日本のマーケットの特徴は、人数はそれほどでもないが、内需が大きいことだ。そこに魅力がある。日本と中国の違い?日本はルールを"守る"。一方、中国はルールを"作る"。ルールが決まっている環境では、0to1は難しいが、1to100は簡単だ。やるべきことが決まっていれば、物事は効率よく進められる」。
(写真:伊藤有)