テスラは、利益の上がらない自動車会社から、利益の上がらないバッテリー・太陽光パネル・スマートモビリティの会社へと転換していった。
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モルガン・スタンレーのアナリストであるアダム・ジョナス(Adam Jonas)氏は5月31日水曜日(現地時間)に発表した調査報告で、「テスラはまだ自動車メーカーであり続けようとするのか」という重要な問いを提起した。
テスラの株価は、ジョナス氏が設定した目標株価305ドル(約3万3500円)を上回り、過去最高の355ドル(約3万9000円)を記録した。それでも、創業13年が経った同社は、利益体制を確立できていない。
投資家はこの1年半で、テスラが自動車メーカーのポジションのまま、500億ドル超の時価総額を今後も維持できるのか疑念を抱き始めている。同社はこの期間に、赤字の自動車メーカーから赤字のバッテリー・太陽光パネル・スマートモビリティ会社へ変身していった。
テスラ株を長期保有するにあたっての投資上の論点は、同社の破壊的な印象が薄れ、むしろ集合的な企業になっている点だ。
「我々はこれまで長らくテスラ株を、1兆5000億ドル(約165兆円)規模の小型乗用車市場の銘柄でなく、10兆ドル(約1100兆円)規模のグローバルモビリティ市場に属する銘柄と捉えてきた。我々の見る限りでは、マーケットはテスラを、自動車という小さな市場で高い成功確率を秘めている企業というより、輸送ネットワーク、データなどはるかに広い、成功確率の小さな市場で戦っている企業だと考えるようになっている」
アナリストであるジョナス氏は、深い洞察力を持っている。その一方で、同氏はテスラ株の上昇を見込む他の人々と同じように、筋書きが狂って身動き取れなくなっていることも、忘れてはいけない。
テスラ株は最近こそ急騰しているが、その前は長い間、激しく上げ下げしていた。当時、市場関係者たちはテスラをテック企業ではなく自動車メーカーとして扱っていたからだ。
当時、テスラの業績は低調だった。低マージン、マス・マーケット向けの自動車ビジネスに取り組むのに、大量の資金を使う一方で、年間8万台を製造・販売するのがやっとだった。さらに同社の破壊的なアイデンティティは、電気自動車ブームが衰えた2010年に行き詰まった。UberとLyftは、EVにこだわらず、モビリティシェアリングという新しいアイデアを生み出した。そしてグーグルは自動運転車への取り組みを進めていた。
「大きな方向転換」
GM、フォード、フィアット・クライスラー、テスラの時価総額と2016年自動車売り上げの比較
Andy Kiersz/Business Insider
結局、テスラは自らの方向を転換し始めた。イーロン・マスクCEOは、同社の半自動運転技術「オートパイロット」に大きな関心を寄せ、金融関係者たちも喜んで加わった。彼らは、テスラが自動車会社として何をしようとしているのか分かっていた。それは、小さな市場で高級EV車を販売し、競争の激しい自動車事業においてそこそこの利益を確保することだった。
時価総額500億ドルどころか、200億ドル、300億ドルの価値がある企業でもない。その認識が広がり、テスラの時価総額は頭打ちとなった。
テスラは、同社に対する高い期待値を維持するために、基幹事業から次第に離れていかなければならない。公平を期すために言っておくと、ジョナス氏は同社株に強気の見通しを示しているが、自動車ビジネスが過去3年にわたるテスラの企業価値にプラスになったとは決して思っていない。
だが基幹事業は基幹事業だ。テスラは投資を続けなければならない。結局同社はほとんど利益を上げられず、転換社債を発行して追加出資を資本家に依頼せざるを得なかった。実際同社は2010年の新規株式公開前に自社株式の一部をダイムラーとトヨタに売却。最近では中国テンセントが株式の5%を取得した。
それでもアメリカにおける自動車の売り上げが横ばいとなり、業界は低迷の気配を見せている中で、テスラが自動車メーカー以上のものになろうとする動きは止まらないだろう。特に時価総額で今やフォードやゼネラルモーターズなどの経験豊富なプレーヤーを超えているテスラは、自動車産業低迷時代に、これまでにはなかったストーリーを築かなければならない。
[原文: Morgan Stanley thinks Tesla is morphing into an entirely new kind of company (TSLA)]
(翻訳:竹田さをり)