富裕層を固めたアマゾン、次の低所得者層戦略に分かれる評価

アマゾンの倉庫

Jeff Spicer/GettyImages

プライムメンバーの会費を割引き、低所得者層を取り込もうとするアマゾンの決断に、業界専門家たちの評価は割れている。

アマゾンがディスカウントを提供することで取り込もうとしている低所得層は、一般的にオンラインをあまり活用せず、高速インターネット、スマートフォン、そしてクレジットカードへのアクセス環境も十分でないとして、アマゾンの戦略に懐疑的な見方もある。

アマゾンは、アメリカの生活困窮者に支給されるEBTカードの所有者を対象に、プライムサービスの会費を約半分の月5.99ドル(約660円)に引き下げると発表した。EBTカードはフードスタンプの名称で知られ、所有者は政府から補助的栄養支援プログラム(SNAP)などの支援を受けられる。

インターネットコンサルタントのSucharita Mulpuru-Kodali氏はAP通信に「この層の顧客はオンライン決算を行う頻度が低く、荷物の配送を受け取ることが難しい場合も多い。荷物の引き取り場所まで運転していく車を持たないことも多々ある」と語った。

「アマゾンがターゲットとして設定できる幅広い客層の中で、この層が一番重要だとは思えない」

一方、小売業界コンサルタントのダグ・スティーブン( Doug Stephens )氏は、それほど多くの低所得者層がプライムサービスに加入しなくても、アマゾンは利益を得られると指摘する。プライム会員のロイヤリティは非常に高く、低所得者層の一部がプライム会員となれば、長期的にはそれでペイできるからだ。

「プライムはアマゾンという名のヘロインへと人を誘う、いわばゲートウェイドラッグだ」とスティーブンスはBusiness Insiderに語った。

「もしこれで新規顧客がアマゾンのエコシステムに加わるのであれば、それはアマゾンの思惑通りだ」

買い物風景のイメージ

Reuters

Evercoreのアナリスト、グレッグ・メリック( Greg Melich)氏によると、アマゾンのプライム会員は非プライム会員の2.7倍アマゾンで買い物をする。そしてこのサービスは約96%という圧倒的な継続率を誇る。つまり会費を2年間支払った後、ほとんどの人が会員ステータスを継続する。

アマゾンは非常に効率的に富裕層をプライムサービスへ取り込むことに成功している。Piper Jaffrayのデータによるとこのサービスには、年収が11万2000ドル(およそ1200万円)以上の富裕層の70%を含むアメリカの全世帯の半数が加入している。

これに対し、SNAPの支援を受けられる1人世帯の年収は1万5444ドル以下となっている。

グラフ

世帯年収2万5000ドル(約270万円)未満の層をみると、約25%がアマゾンプライムを契約し、60%が、日常的にウォルマートで買い物をしている。

Magid Retail Pulse

アマゾンはすでに富裕層の市場を手に入れている。さらなる成長を求めるとなれば、まだ取り込めていない層に手を伸ばすのは必然だ。

アメリカでは20%もの住民が政府から支援を受けており、彼らのほとんどがアマゾンの最大のライバルであるウォルマートの忠実な顧客となっている。Morningstarの調べによると、SNAPからの支援金5ドルのうち1ドルがウォルマートでの支払いに使われている。

そう考えると、アマゾンが低所得者向けに戦略を展開することは、新規市場の開拓という意味だけでなく、アマゾンの顧客を奪うべくしてさまざまな手を打つウォルマートへメッセージを送ることでもある。スティーブン氏はこう語った。

「これはウォルマートに対するアマゾンから『そっちが我々のコアカスタマーを奪いにくるなら、そのゲームに我々も参戦する』というメッセージだ」

[原文:Prime is the gateway drug': Amazon's most puzzling move yet could be one of its most brilliant

(翻訳:まいるす・ゑびす)

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