6億再生の動画メディアC CHANNEL 「目標はディズニー」をもう妄想だとは言わせない

C CHANNRLの新しいオフィスで、森川亮。

新しいオフィスの広い打ち合わせスペースで開かれたお披露目パーティで、挨拶をするCEOの森川亮。女性向けメディアだが、コーポレートカラーは意図して「ピンク」をはずした。C CHANNELのCは、コミュニケーション。

「ほんと、こんなすごいオフィスになっちゃって……」

受付の女性社員が先を立って社内を案内しながら困ったような顔で笑った。5月末、 オンラインメディア・C CHANNELの新オフィスお披露目パーティでのことだ。C CHANNELは、LINEの前社長・森川亮(50)が立ち上げた女性向け動画メディアサービスを展開するベンチャー企業だ。

同社は5月半ばに原宿裏通りの雑居ビルから東京港区・赤羽橋に移転した。大手不動産会社の新築オフィスビル。広さ400平米。 パーティーには取引先や出資企業などから100人近くが集まった。ズラリと並んだお祝いの胡蝶蘭は50をくだらない。

中国での再生が3.2億回

2015年4月の創業時、振り出しは原宿のレンタルオフィスだった。その後は木造2階建ての一軒家、アパート、オフィスビル。2年で移転すること4回。スタッフが段ボールや金庫の上にパソコンを広げて作業をしていたり、男女共用トイレが1つしかない環境でひしめき合うように働いていた時期もある。

今度の新オフィスにはそれまで分散していたスタジオも一緒になったうえ、ミーティングルームも複数。トイレは女性用だけでも12あった。2K のアパートからいきなり六本木ヒルズに引っ越したかのようなアップグレード。創業時から働くその女性社員は「ほんと、恐縮しちゃうんですよ」と、首をすくめた。

C CHANNALの新しいオフィス

森川と三枝の机も社員と横並びで同じシマにある。森川の机の上にはイノベーターに関する書籍をはじめ、10冊ほどの本が積み上がっていた。

C CHANNELは、ファッション、コスメ、料理、DIYなどの、ハウツーに徹底した動画メディアだ。ターゲットは F1層と呼ばれる20-35歳の女性。YouTubeと違って1分以内という「短尺」に、情報を詰め込んでいるのが特徴である。アプリでダウンロードできるプラットフォームと、SNSでの分散で、ジワジワと若い女性の間に浸透中だという。

売り上げの基本は、ネイティブ広告と、クライアント企業とのタイアップ動画コンテンツだ。

気になる売り上げについて「非公開」と代表の森川は答えたが、即座に「2年目(2016年度)は、1年目(2015年度)の10倍」とつけ加えた。広告収益に直結する動画の再生回数は、2015年9月670万回、2016年9月2.3億回。2017年1月には6億回に達した。

海外でもサービスを始め、中国での再生回数が3.2億回(2017年1月)と、飛躍的に伸びた。アジアに向けたEコマース事業、リアルショップ運営、現地化粧品メーカーとの協業による自社ブランドコスメの開発など、海外事業も動き出した。

女性向け動画に革命を起こす

お披露目パーティの終盤。ゲストがほとんど立ち去ったあとの会場で、森川が社員に向けて語り始めた。

「僕たち、ディズニーやワーナーみたいなメディアコングロマリットをつくろうと言ってきましたよね。そういう話をしても2年前は『またまた…』と思っただろうと思います。でも、今年は去年の10倍、来年は今年の10倍というペースでの成長が見えてきました。僕たちは女性向けメディアとして今年圧倒的ナンバーワンになれるでしょう。最初は不安だったみんなも、だんだん自信が湧いてきていると思います。来年は、女性向け動画に革命を起こした動画として世界的に知られることになるでしょう」

森川は未来の話を淡々と語る。平均年齢26歳、約100人の社員が、真剣な表情で森川を見つめる。

日本人に目覚めたLINE時代

CC HANNELのスタジオ

「フード」カテゴリーの動画撮影専用スタジオ。新オフィスでは全てのスタジオが同じフロアにつくられていた。

5月初旬 、引っ越し前で立て込んでいる原宿のオフィスで森川をインタビューした。「メディアコングロマリット」という突拍子もない目標を掲げた理由を、50歳の森川は「「若い人に大きな夢に向かってチャレンジすることを示すため」と言った。

だがなぜ森川はそうせずにはいられないのか。

「日本人だからじゃないですかね」

森川が日本人であることを強く意識したのは、前職・LINEの時だ。 LINEの急成長に伴いアジアに事業展開する際、森川はアジア各国を出張で頻繁に訪れた。カフェではK-POPが流れ、コスメは韓国ブランドが強いという現実に、日本の影響力の弱体化を痛感する。

一方、国内で高校や大学に講演で招かれると、学生は未来に夢を持てずにいた。 政治も経済も、大人が若者に未来を示すことができていない。このままだと日本は沈んでいく一方。夢を持てと言いながら大人が何もしないのではダメだと思ったのだという。

「あの森川氏、苦戦中」

しかし。2015年4月、C CHANNEL立ち上げと同時に開始したサービスは 、 主力コンテンツにした若い女性の「動画ブログ」が、 女性視聴者から「大して可愛くないのになんでこの子が」とか「つまらない」とか激しくディスられる。再生回数は一向に伸びないまま、鳴かず飛ばず。

この頃には、森川の起業をお手並み拝見と注目していた企業や起業家、メディアなどの間で「あの森川氏、苦戦中」との声が聞こえ始めた。

苦戦から脱したのは秋。「料理」のカテゴリーで「ハウツー」に徹した動画を配信し始めると、再生回数が動いた。アメリカのテイストメイドと提携して英語圏で料理動画の配信を開始したところ、手応えがあった。また、ハウツー動画が英語圏でも中国でも人気であることから、ハウツー動画への集中を決めたという。

「短尺」「情報」のネット配信に可能性

ハウツーというニーズをつかんだことと、編集により動画のクオリティを上げたのが転機

同社CCO(Chief Creative Officer)の三枝孝臣(50)は、こう言った。三枝は、森川が1989年に新卒で入社した日本テレビの同期だ。三枝が編集を重要視した背景には、プロデューサーとして朝の情報番組「ZIP」を立ち上げた経験があった。2時間10分のテレビ番組を通して見られることは考えられない時代、ZIPというプラットフォームに「MOCO'Sキッチン」をはじめショートコンテンツをアップするという捉え方で番組をつくった。さらに、複数の関係者の複雑な権利問題をクリアして、各コンテンツのネット配信を実現する。この時、「短尺」「情報」という動画コンテンツが見られるための“シード”を見出していた三枝がコンテンツの方向性やクリエイティブを主導していく。

C CHANNELLの三枝孝臣

CCOの三枝孝臣は日本テレビでは「スッキリ!」「ZIP!」「しゃべくり007」など人気番組を立ち上げ、インターネット動画サービス事業「Hulu」にも関わった。テレビマンのプライドと、新しいメディアをつくる覚悟が言葉の端からのぞいた。

開発マネージャー・斎藤健太(30 )は、2015年3月の創業月にいち早く入社している。その時、C CHANNELはレンタルオフィスだった。社員は斎藤ともう1人。まだLINEを退社していなかった森川が、出社する代わりに置いていた写真を横目で見ながらパソコンに向かっていたという。

斎藤は、横浜国大を卒業後、フリーのソフトウェア開発者としてグルメサイトやタクシー配車アプリを開発してきた。知人を介して森川を紹介され、メディア とITの融合にプログラミングの立場から関わることに魅力を感じて参加を決める。C CHANNELのアプリをゼロから設計し、立ち上げたのは斎藤だ。

斎藤は、ユーザーの使い勝手を探るために、 社員数人と手分けして原宿駅前でアンケートをしてきた。リリース半年後の2015年秋に行った初めてのアンケートでは、認知度はほぼゼロ。使い心地に関しては「トップページのレイアウトが使いにくい」「パッと自分に合うコンテンツがない」「テキストが長過ぎる」などの厳しいコメントが多かった。 それらを参考に改良を続け、直近のアンケートでは認知度は約30%まで伸びた。

縦動画が横よりも没入感がある

 C CHANNELをゼロから設計した斎藤健太

開発マネージャーの斎藤健太は、新しいメディアを創っていくおもしろさを実感していた。 C CHANNELに向いている人材は「指示を待たずに、自分で仕事を見つけていける人」。

アプリのダウンロード数は342万(2017年6月現在)だ。斎藤は「縦動画」にすることと、いかに早く好きな動画を見つけられるようにするかの2点に力点を置いて設計を進めてきた。

「コミュニケーションを考えた時、縦動画であることはマストです。縦動画は横で見るよりユーザーにとって没入感があります。縦動画の迫力を殺さずにアプリに落とし込むこと、動画検索がしやすいようなインターフェースの設計が大事でした」

最初は「ファッション 」「メイク」「ヘア」「フード」「トラベル」「カルチャー」から始まったカテゴリーは、サービスの急拡大に伴い現在は「ネイル」「恋愛」「DIY」など10以上に増えている。また、言語も「英語」「中国語」以外に「タイ語」「インドネシア語」が加わり、予想以上の多言語対応となった。

2015年7月、 ファッションカテゴリーのプロデューサー・岩本葉月(27)が入社する。 岩本は自身がターゲットのF1層でもある。 コンテンツに関わりたくて入社したソフトバンクで、営業職に配属されて4年が経過していた岩本は、森川のツイッターで「アシスタント募集」というつぶやきを見てアタックした。頼まれもしない「企画書」持参で面接に乗り込んだという逸話は、今も森川にネタにされる。

第2回は、岩本が見つけた「C CHANNEL・攻めの法則」を要素分解する。(本文敬称略)

(撮影:今村拓馬)


三宅玲子:「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルブログ「BillionBeats」運営。

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