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アジア9カ国の女の子の心をとらえたC CHANNEL ——日中2カ国語話せるインフルエンサーの養成も

スーパーC CHANNEL

ステージとの距離が驚くほど近かった。ここでもリアルが味わえるということか。

4月初旬の休日、東京・有楽町の東京国際フォーラムの一角が、鮮やかなレモンイエローに彩られていた。C CHANNELのコーポレートカラーだ。受付は、若い女性たちの長い列で華やいでいる。

3年目を迎えた女性向け動画メディア、C CHANNELによる初のリアルイベント「Super C CHANNEL」の会場である。メイク、ファッション、DIYなど、C CHANNELの人気動画コンテンツと連動した体験型のブースや占いのブースには、最長で3時間待ちの列ができた。2日間の来場者は3万人。化粧品、飲料をはじめメーカーやサービス業など、ブースの出展料は500万円〜。

CEOの森川亮によれば、F1層の消費動向の理解を目的に出展していた企業からは、実際に現場でF1層の女性たちが自社商品に接触し、反応する様子を見ることができた点が評価されたという。イベントにはタイ、シンガポール、インドネシア、韓国、台湾からもクリッパー(C CHANNEL専属のブロガーのようなインフルエンサー)が来日していた。 アジアクリッパーナンバー1を選ぶコンテストに参加するためだ。

スーパーC CHANNEL

人気コンテンツの「ヘア」が体験できるとあって、並びに並ぶ女の子たち。

9カ国で展開「アジアという面でとらえる」

C CHANNELは、現在アジア9カ国で運営を始めている。

2015年からいち早くスタートしたタイ、台湾に続いて、東南アジアはインドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシア、ベトナム。東アジアは韓国、中国だ。

動画再生数は、2017年3月のデータを見ると、タイ2500万、台湾3300万、インドネシア3500万、フィリピン1000万、シンガポールとマレーシアはまだ立ち上げ直後で135 万。韓国は3000万、中国は突出して1億1700万(ベトナムは2017年6月サービス開始)。これら海外で、全再生回数の9割を稼ぎ出す。

これが「アジアという面でとらえる」というC CHANNELのアジア戦略だ。

海外事業責任者の肥沼芳明(36)は、「アジアを面でとらえる」媒体戦略を次のように説明した。

「たとえば、化粧品メーカーがあるコスメを東南アジアで展開する際、各国のF1層向け媒体を調べて国ごとにプランニングするのはものすごく時間も手間もかかります。国ごとの女性たちの好みの傾向の違いを把握するための情報も必要です。C CHANNELは東南アジア全域をローカライズしてカバーしているので、C CHANNELが東南アジアを面で捉えて展開することができます」

C CHHANELの肥沼芳明

肥沼芳明のイギリス、シンガポール、上海の経験がC CHANNELでの海外展開に生きている。 だが、売上目標は意外に慎重。森川が「それは少ないでしょ」とハッパをかけた。

タイでは女性市場に強く、動画制作で実績のあるウェブ制作会社とパートナー契約を結んでいる。台湾のパートナーは、コスメサイト運営会社。シンガポールは国営放送・メディアコープ、ベトナムはFPTテレコム。中国以外の8カ国で現地企業とパートナー契約を結び、ローカライズした動画も制作している。インドネシアでは過半数の資本を入れて連結子会社にしている。

現在、台湾、インドネシア、タイ、韓国では、現地の市場動向に合わせて制作するローカライズ動画が全体の25%。将来は日本の動画を50%、それ以外のアジア各国の動画を50%という割合を目指すという。

「アジア各国の動画とは、たとえばタイで、マレーシアや台湾や韓国など、日本以外の他の国のC CHANNEL動画をクロスボーダーで分散していくという意味です。これはアジアを面でとらえるメディア展開ならではのメリットです」

国境を超えて飛び交う「イイね!」

東南アジアでは、フィリピンのC CHANNELにインドネシアのユーザーから「イイね!」がつくなど、国境を飛び越えた視聴現象が起きている。アジアを面でとらえる戦略の成果だ。韓国ではアジアの女性のためのメディアという打ち出し方にし、中国では少し日本のコンテンツを多めに流すなど、国ごとに少しずつブランディングを変えている。

現地で動画を制作する際のコツも少しずつわかってきたという。

「メイクの手法も湿度も違うので、ビューティ動画は、現地の人の顔で撮ることがとても大事です。たとえばフィリピンの女の子はストレートヘアしかないので、日本のようなヘアカテゴリーは刺さりません。フードもローカライズは大事。反対に、DIYは日本の動画がウケます」(肥沼)

肥沼は、2016年5月にC CHANNELに入社した。ロンドンの大学で起業を学び、シンガポール企業に勤務時には中国展開のために上海に駐在した経験を持つ。直近ではリクルートで美容動画サイトを立ち上げていた。肥沼は、アジア戦略を担当するにあたり、現地法人と細やかにコミュニケーションを図ることを徹底したという。

「現地のトップをやる気にさせることが大事。それが確認できるまでは電話会議ではなく直接顔を見て話し、一緒に食事をし、SNSで雑談レベルでもコミュニケーションをとり続ける。そうした細やかな積み重ねを手を抜かないこと」

パートナー企業との会議のために、マーケ、システム開発、現場スタッフなど、総出で出張することもある。チーフプラットフォームオフィサーの成家勉は、台湾のチームが立ち上がった時には肥沼とともに出張し、運営、数字の見方、競合の分析の仕方、動画制作の留意点を説明した。その後は毎週Skypeミーティングで振り返りを繰り返してきた。成家は、現地制作のコンテンツは重要だという。

「フードのカテゴリーで考えても、現地の食材や身の回りのものを使ってきれいになれるというハウツーにはニーズがある。短尺でいかに情報を詰め込んで離脱されない編集にするかは、ローカライズでも大事な要素。シーンの要不要を細かくやりとりしてノウハウを伝えました」

アプリ設計責任者の斎藤健太は、パートナー企業のシステム開発者と現地語に合わせたインターフェイスの改良を行う。例えば、インドネシア語は表記が長いため、横に長く広がりすぎて読みにくくならないようにするなど、細やかにユーザーの使い勝手をよくする作業を連日繰り返す。

日本語も話せるインフルエンサー養成

そして、難関の中国だ。当初は大連に支社をおいていたが、現地のパートナーとの関係がうまくいかず、契約を解除。

ところが、中国では2017年1月に、再生回数が3.2億回に急伸した。「再生回数が桁違いに伸びた勝因は、分散型の徹底」と肥沼は言う。約20のポータルサイトやキュレーションメディアに投稿し、反応をリサーチしたうえで、手応えのあった微博、秒拍などに集中的に分散配信を行った。

一体、中国で何が受け入れられているのか。

「中国ではユーチューバーみたいなインフルエンサーによる長い尺の動画が主流です。そんな中でのこの再生回数は、恐らくC CHANNELの『短尺』『ハウツー』がウケているんじゃないかと」

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中国ではインフルエンサーの影響力は大きい。年間億単位で稼ぐインフルエンサーがいるほどだ。インフルエンサーは今や憧れの職業で、インフルエンサー養成学校まである。

C CHANNELでは、日本企業が中国展開する際に使いやすい、日本語も中国語も話せるインフルエンサーを独自に養成し、今後、越境ECとインフルエンサーを絡めたマネタイズを考えていくという。

だが、中国ではコピーされるのも 競争のスピードも速い。どう闘っていくのか。肥沼は言う。

「オンラインメディアでは中国は日本に先行しています。中国で我々は後発で、市場が10倍なら競争も10倍。より優秀な中国人がオンラインメディア事業を始めているのでマーケットは厳しいです。SNS運営会社やインフルエンサーマネジメント会社の経営者や投資家に直接会うと、本音を言わないという前提でも、考えていることがポロッと聞けたりする。そういった情報はとても大事」

肥沼は多い時には週1で出張している。

「これだけ出張させてくれる会社は少ないと思います。あと、海外9カ国の情報が森川と私に集中しているから、ノウハウが溜まり、アジアの横の展開がスピーディに進められているのだと思います」


「5年後にはマンハッタンに自社ビルを」

「こんな日をたった2年で迎えられるとは思ってなかったよね」

お披露目パーティの会場で、三枝はちょっと感慨深げだった。三枝は、日本テレビを退社してC CHANNELに合流後の2015年8月、好転しない状況を巡って森川と口論になり、西麻布の路上で抱き合って泣いた夜のことを思い出していた。

「あの時は、一瞬家族の顔が浮かんだよね」

テレビマンの三枝は、メディアコングロマリットの夢に特別な思いがある。テレビの黎明期にテレビ界の先達たちがどんな思いで切り拓こうとしていたのかを想像し、C CHANNELを重ね合わせて気持ちを奮い立たせる。

成家は、一度だけ森川に移動中のタクシーで怒鳴られた。 森川から託されていたある社内での重たい調整事を、逡巡して進められていなかったのだ。

「10年以上一緒に仕事をしてきて、森川さんが怒鳴るのを初めて見ました。ああ、この人はこれほど真剣なんだとものすごく感じた瞬間でした」

アプリ設計チームの斎藤は、現地パートナー企業のエンジニアと毎日LINEでやり取りをして設計をサポートする。出張してさらにコミュニケーションが密になるなど、アジアのエンジニアたちと一緒に仕事をするおもしろさを実感している。

「この会社に入ってよかったと思いますか」

そう斎藤に聞いてみた。

「それはもうもちろん。グローバル展開しているアプリの企業でこんなにアジアに注力している日本企業はあまりない。社長の ビジョンがデカいのも気に入ってます」

3年目の今年は新卒の社員が2人入社した。インターンシップ 中の学生も、50人ほど。

「5年後にはマンハッタンに自社ビルを買います」

スピーチの最後に森川が打ち上げると、平均年齢26歳の100人が、大歓声で応えた。(本文敬称略)

(撮影:今村拓馬)


三宅玲子:「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルブログ「BillionBeats」運営。

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