運用450万台!シェア自転車の巨人「モバイク(Mobike)」独占取材 —— AI×IoT武器に世界展開

Mobikeの外観

6月初旬に開催されたベンチャー交流型イベント「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」で国内初展示されたMobike。

  • 1日の総利用回数2000万回
  • 成都市での利用者数300万回/日
  • 4年間メンテナンスフリー
  • 中国とシンガポールでの稼働自転車数450万台
  • ローンチ後最初の10カ月の資金調達356億円

これらの数字は、中国の自転車版Uberとでも言うべき、自転車シェアリング大手、Mobike(モバイク)に関係するデータだ。彼らは、サービスイン後わずか1年という極めて短い時間軸でこの規模に到達した。中国で、一体何が起こっているのだろうか。

Mobikeの特徴

IVS神戸のセッションで紹介されたMobikeの特徴。スマートロックやGPSは車両に内蔵されるモバイル通信によって、クラウドからコントロールされる。

6月初旬、兵庫県・神戸市で開催されたベンチャー交流型イベント「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」(以下IVS神戸)には、MobikeのIoT自転車の実機車両が日本で初めて公開された。

実物を見ると、いろいろな部分が普通の自転車とはまったく違うことがわかる。前後輪片持ちホイール、ディスクブレーキ、チェーンレスのシャフトドライブ。ホイールは樹脂製で優れたデザインであることも一目でわかる。装着するタイヤはパンクレスのムースタイヤ。そしてSIMカード内蔵、つまりIoT自転車でもある。さらに驚くのは、オリジナル設計かつ、自社工場での製造なのだ。いかにも高価そうなこの車両を、彼らは中国とシンガポールで既に450万台も走らせている。1台あたりのコストは非公表だが数百ドル程度との説もある。

Mobikeの前輪

Mobikeの前輪。みたこともないハブ形状、片持ちで反対側はディスクブレーキになっている。美しいホイールだが、このパーツが装着できるのはMobikeの車両のみだから、盗難される心配がほとんどない。

Mobike後輪

後輪側。こちらも片持ち式だ。4年間メンテナンスフリーとするため、チェーンはなくシャフトドライブで後輪を動かす仕組み。スマホからの課金でロックが解除されるスマートロック機構は後輪側についている。

Mobikeのサドル

サドルの上下はガス圧で調整できる仕組み。サドルの後ろ側には、パーキングスペースならどこでも乗り捨てて良い、と書いてある。

中国のシェア自転車ベンチャーは、「放置自転車に大らかな中国の自転車行政を逆手にとり、"どこでも駐輪OK"というビジネスで業績を伸ばしている」……などと揶揄されることもある。しかし、実際に話を聞いて浮かび上がる姿は印象とは相当に違うものだった。見えてきたのは、驚くほど視座の高い"テクノロジーで世界を変えるビジョン"と"効率化への強いこだわり"という独特のビジネスモデルだった。

自転車ライドシェアで「社会問題を解決」して大きく成長する

Mobike クリス・マーティン氏

Mobikeの国際展開の責任者をつとめるクリス・マーティン氏。この数カ月というもの、各国進出の調整のため世界中を飛び回っているという。

自転車シェアリングは日本国内や海外にも存在するが、どこも多かれ少なかれ、同じような問題を抱えている。つまり、

1)乗り終えた自転車がうまく還流せず、郊外地域に偏在してしまう(都心のハブ駅から郊外へ)

2)乗り捨て・放置自転車への対策

3)大事に使ってもらえない、車両盗難に遭いやすい

4)思ったほど使われない=行政負担が重い

という問題だ。Mobikeはこれらの問題をどう解決しているのか? なにせ、1日の利用回数2000万回、プラットフォーム全体で450万台という規模だ。人海戦術で解決できる量ではなく、高価な車両だから使い捨てるわけにもいかない。

Mobikeのグローバル担当のヘッド、クリス・マーティン氏に質問を投げかけた。ざっくりと言えば、UberのようにUI/UXをスマホに特化させ、巧妙なインセンティブ設計でMobikeコミュニティに対するポジティブな行動がユーザーから自然発生するようにし、さらにビッグデータとAI解析を活用した高度なシステム化によってこれらの問題を解決しているのだという。

個別に解説するとこうだ。

まず1)については、Mobikeでは自転車内蔵のGPSとモバイル通信(SIMカード)によって車両の位置情報を事細かに把握している。収集した位置情報ビッグデータをAI処理して、車両の再配置担当チームに最も効率のよい回収ルートを知らせる仕組みをつくった。

さらに2)の「回収ルート外に発散した車両」問題ついては、ユーザー自身が回収に協力したくなる仕組みを考案した。放置自転車を適切な場所に移動したり、壊れた車両の写真を撮影して報告することでキャッシュやポイントを稼げるインセンティブを導入したのだ。これがうまく機能し、稼働率の低い"放置車両"の移動は、現在はほとんどがユーザー自身の手で行われるようになっているという。

こうしたユーザーの行動を自然にコントロールするインセンティブづくりは、ちょうどUberが「混雑時に料金を上げる」ことで、需要と供給をバランスさせるシステムに似ている。

そして3)盗難対策について。これは自転車のデザインとも関係がある。冒頭のいかにもコストが高そうな車両は、良く見ると一般の自転車とまったく互換性のないパーツでできている。つまり、盗んでバラしたとしてもパーツの市場価値がないのだ。

ただし「パーツの互換性がないのは盗難率を下げる1要素で、盗まれにくい理由がほかにたくさんある」と彼は言う。そもそも利用料金が30分1元(約16円)という極めて安価な設定で、また通信機能内蔵による遠隔ロックと、盗難アラーム(盗難されるとシステムに通報される)によって、社会的に"盗難すると面倒な車両"にデザインしている。さらに地域のどこにでもある自転車となれば、"盗難する行為"自体が割に合わなくなる。「デザイン性の優れた車両でも、盗むより支払った方が楽で快適」という状況を作ったことがMobikeのアイデアだ(そもそも1元単位などのマイクロ決済が中国で可能な背景については、中国メガベンチャーを扱ったこの記事が詳しい)。

Mobikeのビッグデータで社会問題を解決する

彼らはこのMobikeのビジネスをどう育てて行きたいのか。マーティン氏は言う。Mobikeが中国とシンガポールで収集している450万台のビッグデータは、通勤や通学といった「大勢の人の移動」を可視化し、リアルな道路需要を洗い出す。

Mobikeの交通量の可視化

北京におけるMobikeの移動を可視化したデータ。北京では約30万台が稼働している。24時間の動きを動画で見ると、通勤時間の始まりと終わり、どの道路の需要が高いのかがよくわかる。こうしたデータはAIに処理させて自転車の回収ルートの最適化に使われるほか、需要が高そうなエリアの推定と再配置にも使われる。ITの力でシェア自転車の稼働率を追求するというのがMobikeのコンセプトの1つだ。

Mobikeのビッグデータは、たとえば「1回に6キロ以上乗っている人」などの要素でフィルタリングすることで、バス運行ルートや時刻表の最適化にも応用できる。また企業の記念日や社会的に大きな出来事の情報と重ね合わせAIで需要予測をすれば、未来の渋滞もかなりの精度で予測できるはずだ。

しかし、中国型の「どこでも乗り捨てOK」モデルのままでは、日本はもとより他国でも展開できない。それは彼らもわかっている。

マーティン氏によれば、海外展開においては、中国で得た450万台の運用ノウハウを元に各国の「シェアリング自転車」にまつわる問題、つまり「4)思ったほど使われない=行政負担が重い」問題をMobikeが解決することで、各国でサービス展開していくつもりだという。

「日本企業が、日本のルールで中国進出しても失敗するのと同じように、中国企業が中国のルールで他国展開をしたら、当然失敗するでしょう。これは"ある1つの国の障壁が高い"ということではなく、"あるビジネスモデルを全ての国に適用できるわけじゃない”と考えるべきです。

たとえば日本という国は、放置自転車に厳しく、また歩きタバコにも厳しい。喫煙者は屋外では喫煙スペースに集まって吸っています。(これはヒントで)Mobikeを停めて良い場所が十分に多ければ、タバコの喫煙スペースと同じように機能させられるということです。

いまMobikeには、ヨーロッパなど、中国以外のたくさんの市政府から声がかかっています。なぜかといえば、色々な国が自転車シェアリングを始めているものの、多くが行政負担を前提としたサービスでうまく機能していないからです。今後はまず、いくつかの国でMobike導入によって行政負担を解決した"ショーケース"をしっかり作っていきます。他国の文化・規制・法律にフィットしたサービスモデルをつくって、世界展開を進めていきたいと考えています」

Mobikeの日本進出はどうなる?価格設定は?

Mobike

都市圏に住む大学生など、ミレニアル世代の利用をイメージさせるMobikeのイメージ動画。

Mobikeは日本進出について、実のところまだ一度も明言していない。マーティン氏は日本語が堪能だが、「たまたま幼い頃に日本に住んでいたことがあり、中国語もわかるイギリス人だというだけ」だという。日本進出の検討は他国と同時並行で、だから1つの国にフォーカスがあたるような情報発信には慎重になっているようだ。

個別インタビューで「仮に日本で展開するならどういうプランか」と聞いてみた。苦笑いしながら彼はこう答えた。

—— 仮に日本で展開するとして、レンタル料金設定はどうなるんでしょうか。

Mobike:あえていうなら、レンタル料金は、日本人から見て、"その金額が高いか安いかを感じない"設定にするでしょうね。誰でも使えて、その金額が負担にもバリヤーにもまったくならない値段。例えば、駄菓子のブラックサンダーが30円なのか50円なのか気にしたことがありますか? 100円以下は日本人はほとんど気にしていないと思う。そういう感覚の価格設定です。

—— サービス展開するなら、対象地域は都市圏から?

Mobike:ある利用者密度がないと成立しないモデルですから、結果的にそうなるでしょう。いずれにしてもイノベーションに理解がある都市と一緒に始めたい。"古い感性の行政"が根強い街では、粗探しばかりになってしまって前に進みませんし、それは我々も望んでいませんから。

—— 密度がそれなりにあるイノベーション都市というと日本国内でもかなり限られてますよね。東京、横浜、大阪、神戸、福岡、そして札幌。そんなあたりが思い浮かびますが……。

Mobike:そこはご想像にお任せします(笑)。

(撮影:伊藤有)

自社での大量生産による「規模の経済」の追求とIoTやAIなど「技術による効率化」がMobikeの強み

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1日の利用は最大で2000万回。最新の数字では中国とシンガポールで450万台が稼働(スライドの稼働数は少し古い)

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