スタートアップシティー福岡市が電子国家エストニアで感じた手応えと課題

エストニアで5月に開催された欧米の先進企業や注目のスタートアップが数多く登壇、出展するテクノロジーカンファレンス「Latitude59」に、日本から唯一出展したのが福岡市。2年連続、2回目の出展となる。そこで得た手応えと課題は——。

出展するのには、もちろん理由がある。海外のスタートアップにとっての日本市場への「ゲートウェイ」を目指す福岡市は、海外の各都市と拠点連携を図っており、そのうちの一つが「電子国家」であるエストニアの首都、タリンなのだ。

Fukiuoka-Estonia

2回目の出展だった福岡市のブースには、多くの関心が寄せられた。

福岡市は地元のスタートアップとともに参加し、彼らを欧米の企業、投資家らに売り込んだ。同時に同じくイベントに出展するエストニアや周辺国のスタートアップに、福岡市の魅力をアピールした。

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福岡市が熱視線を送るエストニアとは?

エストニア大統領

「Latitude59」で基調講演するカリユライド・エストニア大統領

エストニアは北欧に属し、バルト三国で最も北に位置する。北は湾をはさんでフィンランド、西はバルト海、南はラトビア、東はロシアと接する。面積は九州の約1.2倍、人口は約130万人と小国で、1991年に旧ソビエト連邦から独立した。

小国ながらも、近年世界中のIT業界関係者から注目を集めている。理由は、前述の通り「電子国家」として政府主導で先進的な取り組みを行い、成功する地場のスタートアップを輩出し、海外から投資を呼び込むなど実績を収めてきたからだ。あの「Skype」もエストニア発である。

最もよく知られるのが「電子政府」の取り組みだ。政府がブロックチェーン技術などを駆使し、行政機関や保険会社など企業が保有するデータベースを分散型でつなげ、データの安全性・セキュリティを担保した上で、個人・法人問わず、国民のデータへのアクセスを可能にしている。これにより、国民は一つのIDカードだけで、住民票、保険証、パスポート、運転免許証、キャッシュカード、公共交通機関の電子マネーなど、ありとあらゆる個人認証を済ませることができる。国民のIDを管理する行政にとっても、ペーパーレス化など効率化のメリットは非常に大きい。

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エストニアのIDカード。これ1枚で行政サービスが受けられる。

もう一つ、特筆すべきは「e-レジデント」の制度だ。これは非エストニア在住の外国人であってもIDとしての住民カードを作ることができ、それさえあればインターネットを通じて、会社設立、銀行口座開設、納税など個人認証が必要なあらゆる手続きが可能となる。

これは、特に欧州への進出を検討している外国の企業、起業家にとって便利な制度で、オフィスを構えたり、人を採用したりすることなく、スモールスタートで事業を始められる。2014年末に開始され、これまで2万人以上が “居住者” として登録している。

こうしたフレキシブルな制度、それを海外に発信する政府による精力的な活動、タリン工科大学などIT人材の育成環境、物価の低さや自然の美しさという住環境としての魅力などの要素が相まって、企業だけでなく、海外の政府、自治体からの注目も高まっているのだ。

欧州の起業家が日本を有望視する「唯一の理由」

本題に戻ろう。「Latitude59」は今年で10回目を迎える、エストニア最大のテクノロジーカンファレンスだ。今年、福岡市は4つの地元スタートアップとともに参加。会場の一画、メインステージすぐ近くの良い場所に、「Startup City Fukuoka」として比較的大きなブースを構えた。

イベント初日、ブースは盛り上がりを見せていたが、実際の手応えや、新たに見えてきた課題はどうだったか。同行した起業家から「団長」と呼ばれていた福岡市の国家戦略特区スタートアップ担当の橋本歩さんに話を聞いた。

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福岡市の国家戦略特区スタートアップ担当企画係長の橋本歩さん

——イベント初日の率直な感想は?

橋本:「福岡」の知名度を心配していましたが、認識してくれている方が意外と多くて、プレゼンスの高さを感じました。エストニアと拠点連携もしているのでその効果もあるのかなと思います。(※福岡市はエストニアの他、ヘルシンキ(フィンランド)、台北(台湾)、ボルドー(フランス)、サンフランシスコ(アメリカ)とも連携している)

さらに、ブースでも手応えも感じています。特に市の施策として始めている、福岡市で起業する場合は就労ビザ取得の要件が緩和される「スタートアップビザ」や、住宅や事務所の賃料補助、そして今年4月から始まったスタートアップに対する法人税の減税措置についてですね。

——今年で2回目ですが、出展のねらいは?

橋本:まずは福岡を知ってもらうこと。あとは福岡市のスタートアップにエストニアを訪ねてもらうことで、実際に海外の人たちと商談をしたり、英語でプレゼンする機会を作ること。同時に、福岡市の海外スタートアップ優遇の施策に関するPRができればと。

——エストニアの「電子国家」としての印象は?

橋本:電子政府の取り組みが盛んで、起業するにも手続きが簡単にできる。それは福岡市も見習わないといけない。日本という国としてやらないといけない部分もあるけれど、自治体としてできることがないか、エストニアの連携先とも協議するなどして可能性を探っていきたいです。

——日本の「市場」に対する参加者からの期待感は?

橋本:唯一、高齢化社会のモデルという部分では期待感が大きいと感じます。特にヘルスケアの領域はマーケットとして有望なのではないかと。福岡市については、アジアの他の国々に近く、アジアへのゲートウェイ、アジアのハブとして機能させられる点も魅力のようです。

——エストニアに来て感じた、福岡市の課題は?

橋本:福岡市は生活環境については高い評価をいただけるのですが、ビジネスしやすい環境作りに力を入れていかないといけません。その一つが「雇用」ですね。英語を話せる人材が少ないこと、グローバル化の意識が市民にまだまだ浸透していないことは課題だと感じています。

海外の起業家に来てほしいという「本気」が違う

もう一人、話を聞いた。福岡市から参加した起業家の牧之瀬英央さん。牧之瀬さんは、エストニア政府とイベント主催者の「海外の起業家を本気で呼び込もうとする姿勢」に感銘を受けたと言う。

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福岡市を拠点に起業する牧之瀬英央さん

——イベントの出展にどんな期待をしていますか?

牧之瀬: 今回は人の睡眠を助けるサービスを出展しています。もともとは眠気が命取りとなるバスの運転手向けにと考え、エストニア進出の可能性を探ろうと思っていましたが、いろんな方からフィードバックをもらって、ターゲットを高齢者に絞ったほうが感触が良いと分かりました。エストニアを含め、北欧はヘルステックへの関心が強い。IoTの流れも進む中で、この地域に商機があると感じられたのは収穫でした。また、エイジングソサエティとしての日本の市場に彼らが興味があることも分かり、今後自分が架け橋となって化学反応を起こす新たな期待も持っています。

——エストニアで事業展開をしたいという思いは強まりましたか?

牧之瀬:住みたいくらいです。福岡市も海外の企業を呼び込もうとしていますけど、「e-レジデント」があるだけでハードルが全然違います。起業経験者は分かると思いますけど、日本は会社の銀行口座を作るだけでも大変で、それが起業の精神的ハードルになっていますよね。それと今日、イベントでピッチコンテストがあるんですけど、そのための事前メンタリングが昨日あったんですよ。朝から夕方まで15分おきにメンターを変えて、ひたすらピッチの練習。海外の起業家にこんな機会をくれるイベント、日本では考えられないですよね。

——エストニアで感じた課題、どう日本に持ち帰りますか?

牧之瀬:やり方をそのまま「コピー・アンド・ペースト」すればいい。良いものがすでにあるなら、それをそのままいただけばいいんです。それをなぜか、「参考にしてゼロから作ります」とか言うから、時間もコストもかかって、できたころには世界が変わっているという事態が起こる。海外、日本であまり知られていない小国のものであっても良いものは受け入れるというオープンさ、そしてそのスピード感を、福岡も日本もエストニアから学ばなければいけないと思います。海外のスタートアップが求めているのはお金だけじゃないんです。日本に来てほしいという「本気」を伝えないと。

(撮影:岡徳之)


岡徳之:マーケティング、テクノロジー、ビジネスなどを中心に執筆。現在はオランダを拠点に、欧州・アジア各国をまわりながら 編集プロダクション「Livit」 の運営とコンテンツの企画制作を行う。

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