一癖も二癖もあるホールフーズ創業者とベゾスは意気投合した

先週、アマゾンがホールフーズを買収することが報道され、テック業界は騒然としている。

ホールフーズは、アメリカの高級オーガニック食品スーパー。食の安全と健康を気にする人たちにとっては、「ここで買ったものなら安心」と信頼され、グルメ食品の品揃えも豊富、お惣菜類もおいしい。筆者の住むシリコンバレーでも人気が高いが、その分お値段も高く、こじゃれた店はややスノッブな雰囲気で、庶民な筆者には少々敷居が高い。

ホールフーズ

アマゾンが買収を発表したホールフーズ。オーガニックスーパーの草分けだが、最近は業績が伸び悩んでいた。

撮影:海部美知

全米444店舗のほか、イギリスとカナダにも進出しており、2016年の売上157億ドル、従業員数8万7000人、米国の食料品スーパーの売上げランキングで7位(ウォルマートなどの総合小売店舗は除く)、「オーガニック専門」という意味では全米最大である。

オーガニック市場のライバルとホワイトナイト

近年のアメリカの健康・オーガニック志向のため、順調に伸びている……のかと思いきや、実は業績は伸び悩んでおり、今年2月には、複数の店舗を閉鎖している。原因は、「近年の健康・オーガニック志向の高まり」により、競合の大手スーパーがオーガニックに力を入れだし、競争が激化したから、と言われている。

筆者がよく行く庶民派スーパーのセーフウェイ(上記ランキングで全米第2位)も、2005年に「O」というオーガニック食品ブランドを始めて、人気を博している。

ホールフーズの売り上げグラフ

出典:Market Watch をもとに筆者作成

このため、株価は2013年のピークから半分近くまで下がり、アクティビスト(いわゆる「物言う株主」)投資家に狙われて、株を買い占められ、経営方針に口を出されるようになってしまった。創業者で現CEOのジョン・マッケイはこれに徹底抗戦を決め、そのために「ホワイトナイト」を探していたようだ。4月には、大手スーパーのアルバートソンに買収されるのでは、との観測記事が出たが、どうやらこれは流れ、その後新しい白馬の騎士として、ついにアマゾンが登場した、という事情のようだ。

筆者は普段、テック業界からしか世界を見ていないので、この件は「唐突」で「仰天」だったが、食品小売の業界の人から見たら、「あー、そうなのね」ぐらいの話だったのだろうと思う。

ラストワンマイルの短縮化

とはいえ、当然アマゾン側もメリットがあるから買収した訳で、それについてはいろいろな観測が流れている。

アマゾンは、リアル店舗の試みをいくつか始めている。リアル書店AmazonBooks、ショールームと商品受け渡しの役割をもつキャンパス内キオスク、レジのない自動精算実験店AmazonGo(一般公開はしていない)などが知られる。

ホールフーズの買収により、アマゾンは一気に国内だけで444店のリアル小売店舗と、これに伴うサプライチェーンや小売店舗運営のための人材やノウハウを獲得できる。これはわかりやすい。

一方、生鮮食料品についても、AmazonFreshというネットスーパーのサービスを一部地域で展開しており、日本でも提供している。こちらとのシナジーもあるだろう。

この分野では、競合としてベンチャーのインスタカートなど数社があり、こちらは「eコマース」というより、「オンデマンド方式のお買い物代行サービス」である。Uberのように、一般人がフリーランスの「ショッパー」として登録して、ユーザーの注文に応じてスーパーで買い物をして家まで運んでくれる。

地域により対象店舗がいくつか指定されており、筆者の場合はいつもセーフウェイで注文するが、他にもホールフーズも含めて11店が使える。牛乳でも肉でもなんでも頼めるのはありがたいが、店に行ったら在庫がない/ショッパーが見つけられなかった/注文を間違える、といったケースも多く、また商品の値段にプラスしてその都度配達料とチップを払うので、かなり高くつく。とはいえ、見慣れたセーフウェイの品揃えという心理的な安心感もあり、必要に応じてインスタカートを使っている。

ちなみに筆者は、AmazonFreshは使わなくても月額料金($14.99)を払うという敷居があるため、使ったことがない。以前はGoogleExpressも使っていたが、生鮮食料品を扱っていないので、使わなくなった。

生鮮食料品の流通は、冷蔵保存や賞味期限管理が必要でとても難しい。アマゾン型の「大型流通倉庫で自動化、そのかわりラストマイルが長い」という仕組みが使えない。インスタカートの仕組みは、既存の小売店舗を最後の物流倉庫として使い、ラストマイルを短くする仕組みということになる。インスタカートは「オンデマンド」というカラクリをもう一つ加えているが、その部分をとりあえず無視して、「小売店舗の最終倉庫化」というビジネスモデルに着目すると、アマゾンはホールフーズを最終物流倉庫として利用するのでは、との見方も成り立つ。

日本では、さらにラストマイルが短い「コンビニ」が、すでに「家庭の冷蔵庫」の代わりを果たすまでになっており、ある意味では冷蔵庫メーカーの敵は「コンビニ」になっているとも言える。今や、単純に「ネットvs.リアル」という構図では割り切れない、いろいろな角度での「流通のガラガラポン」が起こりはじめているようだ。

「オーガニック運動」実践者でリバタリアン

ホールフーズCEOのジョン・マッケイ

オーガニック市場を切り開いて来たマッケイCEOだが、リバタリアンとしても知られる。

出展:ホールフーズホームページより

ホールフーズは1980年、その前身は1978年に創業された。化学殺虫剤どっぷりの1950〜60年代の後、1972年にDDTが禁止され、アメリカで本格的に「オーガニック食品」の運動が始まってまだ数年の頃だ。現CEOのジョン・マッケイがテキサス州オースティンで、仲間と一緒に大学をドロップアウトしてオーガニック食品の販売を始めた。その後、競合のオーガニック食品店の買収を重ねて急成長し、1992年に上場した。草分け的存在として、オーガニックというニッチを支配することで、数多い食品スーパーの中で特別な価値を保ってきた。

創業の目的は、ビジネスというより「オーガニック運動」を体現することであり、現在でもオーガニックを軸とし、従業員を大切にする「よい職場」ランキングの上位常連であるなど、かなり「思想」面が強い企業文化だ。

これだけ見ると、その思想とは「リベラル=左寄り」かと思うが、実はマッケイは極端なレッセフェール志向(自由放任主義)でアンチ労働組合の「リバタリアン」であり、リバタリアン的経営の本を書いたり、「地球温暖化は自然の摂理なのでほっておくべき」と発言したりする複雑な人である。前述したアクティビスト投資家からの攻撃に対して、メディアで激しい言葉で罵る発言をするなど、少々スティーブ・ジョブスを思わせるところもある。

対する白馬の騎士アマゾンのジェフ・ベゾスは、紳士的な、西海岸テック業界のリベラル派旗手ともいえる存在だ。この2人がどのように意気投合したのか、詳細は報じられていないが、たいへん興味があるところだ。


海部 美知:ENOTECH Consulting CEO。経営コンサルタント。米国と日本のIT(情報技術)・通信・新技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。ホンダを経て1989年NTT入社。米国の現地法人で事業開発を担当。1998年にコンサルティング業務を開始。主な著書に『ビッグデータの覇者たち(講談社現代新書、2013年)』『パラダイス鎖国(アスキー新書、2008年)』

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