日本で「男女平等」は本当に望まれているのか(前編)酒井順子×ジェーン・スー

日本において「男女平等」は本当に望まれているのか。20代で専業主婦願望の女子が増えているという調査結果もある。著書『男尊女子』で女性自身の中の男女差別意識をあぶり出したコラムニストの酒井順子さんと、『今夜もカネで解決だ』を上梓したコラムニストのジェーン・スーさんにBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子が聞いた。

(後編:"日本で「男女平等」は本当に望まれているのか(後編)酒井順子×ジェーン・スー"はこちらから)

酒井順子さんとジェーン・スーさん

酒井順子さん(右)とジェーン・スーさん。自身の中にもある「男尊女子」について語り合った。

撮影:慎芝賢

Business Insider Japan(以下、BI):スーさんは酒井さんの『男尊女子』をどう読みましたか。

ジェーン・スー(以下、スー):同意するところがたくさんありました。決して強制や押し付けではなく、無自覚に男性を立ててしまう女性の気持ちもよく分かります。でも、残念ながら(男女同権は)最初から与えられた権利ではない。過去にそれを獲得するために努力してきた人たちがいるから故のもの。そう考えると、もっと男女が平等でなかった社会に再び戻るのもどうなのか、それは自分たちできちんと考えないといけないね、と酒井さんは読者に委ねています。読み手に相当な読解力が求められますが、考える余白を残すところがさすがだなと。私だったら絶対に「やっぱり平等じゃなきゃダメでしょ!」ってストレートに書きますから。

「尽くしたりするのも幸せなのかな」と考える瞬間が出てきた

酒井順子(以下、酒井):年齢の違いかもしれませんね。本の最後に映画「七人の侍」を見て思ったことを書きましたが、50歳を過ぎ、「男に守られて、尽くしたりするのも幸せなのかな」くらいのことを考える瞬間が出てきました。「男女平等」とばかり言っているのが実生活における幸せなのかしら、と疑問が湧いてきたのは、年をとったせいかもしれません。

酒井順子さん

撮影:慎芝賢

スー:私は1973年生まれですが、私たち世代はどちらかというと、自己実現の名の下で仕事をし、仕事に生きがいを感じている人も多い。独身生活をエンジョイしながらも「どうしよう、結婚できない!」とも言うんですよね。酒井さんがブームを起こした「負け犬」世代の潮流の真ん中にいると思います。

今、20代は専業主婦願望の女性が多いと聞きますが、時代を振り返れば、上の世代は常に反面教師ということだけのこと。私たちの時もそうでした。ただ、私たちの上の世代の専業主婦と下の世代の「結婚したい、専業主婦になりたい」という思いは、ちょっと違うと思う。下の世代は夫の収入だけで贅沢に暮らしていこうなんて最初から思っていない。夫婦2人でライフサイズを少し小さくして、そこそこ働き、そこそこ食べていければいいという感じではないでしょうか。

BI:ある意味、「男女平等」なんですよね。

スー:持ちつ持たれつというか。都心に住んで贅沢な暮らしをする、高級車を所有するといった獲得による欲望を煽るのは、若い人にとってはすでに魅力的ではない。どちらかというとサステナビリティとか安定という方が大事なんだろうと思うんです。そうなると、私たちの思っている男女平等と20代前半の人たちが思う男女平等はだいぶ変わってくると思いますね。

夫は冷蔵庫?あったらラクだから早く揃えた方がいいと

ジェーン・スー

撮影:慎芝賢

酒井:若い人たちが結婚を急ぐのは、配偶者がある種のライフラインや家財道具のような存在になっているからなのかも。夫は冷蔵庫、みたいな(笑)。頑張れば冷蔵庫がなくても生きていける、ではなくて、あったほうが普通だしラク。だったら家財道具は早く揃えといた方がいいよねと。

BI:酒井さんはいつ頃から「男女平等は本当に幸せだったのか」と思い始めていらしたんですか?

酒井:女性差別というものがめっきり減って珍しい状況になっているからこそ、女性差別的な事象を目にするたびに、「やっぱりあるな」と自分の中のプチフェミニズム心が刺激されて、闘争心がかきたてられてはいました。その一方で、自分の中にも「男を立てておいた方が楽である」とか「丸く収まる」といった感覚があるってことに気づいて、自分の中の男尊女子感をあぶり出したかった。そのうち、そこには世代差をはじめ、男尊女卑にも種類があることに気づいたんです。

スー:結局自分を形作っているのは社会だから、どうしたって自分について不都合な“シミ”は取れないですよね。私が社会人になった若い時はモヤモヤすることがいくつもありました。あとから考えると、そのなかには性差別みたいなものがあった。当時は私が悪いのかと思っていましたが。

男女平等という話において「あれは差別だったんだ」と気づいた場合、社会や差別した人への怒りが消えないタイプと、「やれやれ、どうしよっかな」と自身に内在する男尊女子マインドにも気付きつつ対策を練るタイプに分かれると思う。私はどちらかというと後者です。怒りも大切だけど、現実的に場所を取っていくことも大事。こうあるべきだと主張するだけでなく、実際に駒を取っていくことが重要だと思うんですよ。男女平等を目指す人にとって戦い方は人それぞれで良いと思います。私は、さっさと既成事実を作っちゃわなきゃと。新しい現実も、ずっと目にしていれば「当然」になりますから。

酒井:いま第何波かのフェミニズムが来ているって言いますが。

スー:今年出版されたロクサーヌ・ゲイの『バッド・フェミニスト』という本がまさに彼女の中の男尊女卑の話でした。彼女はフェミニズムを専攻したフェミニストなんです。でも、同時に女性のお尻をバンバン叩けといったラップも爆音で聴く。言うならば模範的とは言えない「バッド・フェミニスト」だと。つじつまの合わないところがあっても、フェミニストを自称していいではないか、ということが書いてありました。

酒井:男女平等賛成とか思いながらも、生活の面では楽に生きるために男尊女卑になっている部分はすごく大きい。それは肯定してもらえるとありがたい。生活していればここではお酌した方がいいな、という場はありますから。ただ、フリーランスで仕事をしていると、男尊女卑の実害はわりと少なくないですか? 組織の中の方が感じやすいと思います。

スー:組織の中では女性の若さや可愛らしさを持ち合わせた女性があからさまに優遇されることもありますよね。私もかつては「なんで仕事じゃないところでこんなに評価されるの」とすごく傷つきました。そうでない人間にとっては、かなりの実害だと思います。

性差より個体差。発言は性別ではなく立場が作る

BI:生きる知恵として「男尊女子」をやっている女性もいれば、好きでやってる人もいるのでは。例えば女子マネになったり、髪を巻いて綺麗にしたり。そうした女性たちは一定数いますよね。

酒井:そういう人たちは数少ないけれど、働かずに食べていけるお金持ちのだんなさんの専業主婦に椅子に収まるんです。

BI:「お世話をしたい」という女性がいるのはいいと思います。それが男性に対してだけだと問題ですが。会社なら社員全員のお世話をしてくれる庶務的な人は一番ありがたい存在です(笑)。

スー:今、私のところでアルバイトをしてくれている女性たちはそれぞれに得意分野があってすごいんですよ。言うならば外回りをしている私のサポーターとして、私ひとりではとてもじゃないけど手が回らないところに手が届く。経理や資料ファイリングなどの整理整頓、発送、清掃とか。仕事の効率が良くなりました。

酒井:そういった仕事が向いている女性は確かにいますよね。

雑踏の中の女性たち

20代では専業主婦願望が高まっているというが、それは上の世代のそれとは違うのかもしれない。

撮影:今村拓馬

スー:ところが、私はそこに性差より個体差があるのではないかと思うんです。私が同居してるパートナー、人に説明するときは冗談半分に「内縁おじさん」って呼んでるんですけど(笑)、彼はすべての家事が私より上手ですし得意です。そうやって暮らしていくと、「発言は性別ではなく立場が作る」ことが身にしみてわかります。私が急に帰ってきて「お腹が空いた」と言うと、「突然帰ってこられても、ご飯の用意はできない。せめて5時前には連絡してくれ」と言われたり。うちは家事労働に対して給料制を採っているんですが、評価が金額に反映されているかなどなかなかシビアです。

酒井:家事に対してお支払いを?

スー:してます。家庭内“ベアーズ(家事代行)”なんです。専業主婦の友達は「もらう権利はあるとわかっているけれど、本当にイヤなのは(夫に)『お金をください』って言うことだ」と言います。内縁おじさんも同じことを言っていました。

給与とは別に今月分の食費や雑費を生活費として月初に入れておくのですが、私にすれば「なくなったから入れて」と言われれば入れる気はある。でも「足りているかな?」と生活費用の財布の中をこまめに確認することはなかったんです。共同生活者としての意識が低いんですよね。「なくなったら言ってくれればいいじゃないか」と思った段階で、「私、オッサンみたいなこと言ってるわ」って思いました。「生活に使う用品でこれが欲しいと言われた時に『いいじゃん、高いほう買いなよ』と言ってしまうときも。そう思うと、性別による差別とされているものの根源は、性別よりも立場やパワーの違いにあると感じています。

BI : 職場の女性管理職もそうです。私も管理職になった時は随分戸惑いました。女性は管理職になっても立場に慣れるのには時間がかかる。例えば、会議室に入ってもパッと奥に座るとかできず、部下の男性を奥に座らせてしまう。なのに、勝手に彼が先奥に行くとイラッとする。

酒井:男性はいままでそれを思わなかったんですかね。

スー:思ってた人がいないわけじゃないでしょうけど。人は可視化された状態を、つまり習慣として目の前にあるものを鵜呑みにするんだと思うんです。だから、どうであってもすべての管理職に女性を入れちゃったほうがいい。

酒井:女性も大変だとは思いますが、男性も男性で大変ですよね。(後編へ続く)


酒井順子:1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。広告会社勤務を経て執筆専業に。2004年『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。主な著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『自身と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『源氏姉妹』『ananの嘘』など多数。

ジェーン・スー :1973年、東京生まれの東京育ちの日本人。作詞家、コラムニスト。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」でパーソナリティーを務める。主な著書に『今夜もカネで解決だ』『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で『私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな』『女の甲冑、来たり脱いだり毎日が戦なり。』など。

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