日本で「男女平等」は本当に望まれているのか(後編)酒井順子×ジェーン・スー

前編では、酒井順子さんとジェーン・スーさんが変容する男女平等について語り合った。 女性たちの内に確実に潜む「男尊女卑」感覚を吐露するうちに、男性の苦労にも話が及び……。

(前編:"日本で「男女平等」は本当に望まれているのか(前編)酒井順子×ジェーン・スー"はこちらから)

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スー:「男尊女卑」で得してるのは一部の男だけです。日本の自殺は少し減りつつあり、年3万人を下回るようになりましたが、そのうち男性が7割。しかも、働いている世代の男性が多い。女性の中には「こんな会社やめてやる!バカ!」と言える人がいても、定年までは働いているのが当たり前とされる男の人はそれを言えない。酒井さんがおっしゃっていたように、「ここは男に任せた方がラク」という思いは絶対私たち女性にある。男性にはそこを突いてほしいですよね、「今ラクしようとしてるでしょ」って。

酒井:人間、ラクさに勝てるものはなかなかない。ちょっとばかりの給料や名誉ならラクさの方に走る人は少なくないでしょう。会社にいたら私だってそうしたでしょうし。家族の生活スタイル次第ですが、仕事において、やり甲斐よりもラクさを重視する人も多い。

同じリスクを背負わなければ平等はない

スー:酒井さんは著書のなかで「一歩引くことが一段下がることだと思っていませんでした」とおっしゃっていましたが、私もそれに気づいていなかった。気付かずにやっている女性がほとんどだと思います。同じリスクを背負わなければ平等はないということを。

酒井:区別と差別の違いというか、左と右に分けてるつもりが上と下に分けていることがすごく多いですよね。

酒井順子さん

撮影:慎芝賢

BI:酒井さんはベストセラー『負け犬の遠吠え』の時もそうでしたが、人が見つめたくない“潜在意識”を表面化させますよね。

酒井:昨日、とある男性メディアから取材があって、「それで男尊女子っていうのは女性の何割くらいいるんですかねえ」と質問されました。

スー・BI:えー!?(笑)

酒井:全くわかってない(笑)。

スー:っぽいなー。ガッカリして肩が床まで落ちますね(笑)。どう答えられたんですか?

酒井:「ですから、すべての女性の中にそういったエキスの濃淡がね」と。「すべての人の中にあったりなかったり」と言っても、「じゃあ、だいたい酒井さんの感覚でそれは何割くらい?」と。

スー:違うし(笑)。これは私にとっても大命題なんですが、「男と同じ権利を!」「それはおかしい!」と言う話をしたり、文章に書いたりすることでお金を稼ぐことができる女性がいる一方、夫を「主人」と言わないと、周りの住環境を含めて回らなくて、盲目的にそう言わざるを得ない女性もいるわけじゃないですか。

他者の配偶者を対等に呼ぶ言葉がない

BI:立場によっても相手によってもありますね。私も相手の夫のことはなんて呼んだらいいかわからず、「ご主人」と言ってしまって、「あーっ、言っちゃった」と自己嫌悪に。

スー:奥様も同じですね。先日、ラジオで『新明解国語辞典』という辞書を調べるコーナーにかこつけて、「嫁ってなんなんだ?」「妻って?」「主人って?」と全部取り上げたんです。結局、日本語には他者の配偶者を呼ぶときに対等に言い表す言葉が見つかりませんでした。

BI:若い人はなんの違和感もなく主人って言いますよね。

ジェーン・スーさん

撮影:慎芝賢

スー:夫のことを主人って言いたくなる感じもわかる。守られている感じというか、自分の中に被差別的な、自分自身を低く見積もることで得る快感があるんだと思うんです。

酒井:「低く見積もるほどの余裕がある私」という雰囲気を醸しだしてる女性もいますけど。

スー:確かにそうですね。日本語は男女の喋り言葉が違いますしね。海外のスポーツ選手にどういう翻訳を付けるかというときに、同じ「I」でも「俺」って訳される人もいればそうでない人もいるんだそうです。単独で強い男性は「僕」や「私」にはならないそうです。ウサイン・ボルトは絶対に「俺」だとか。役割語みたいなところがあるから難しいです。

酒井:男言葉、女言葉があってさらに敬語がある。よりこの分類がしっかり染みつきますよね。

男尊女卑を完全になくすことはかなり難しい

スー:「自分の中の男尊女子に絶対反対!」と言って啓蒙することや問題を可視化することは大切ですが、それを言うことで明日家を失う人や家を追い出されてしまう人がいることもまた事実。仕事場でそうは言えない女性を正論で追い詰めるなよとも思うんですよ。現実と机上のことは本当に違いますから。

酒井:書いてることと、言ってることやしていることが違うというのは、私もひしひしと感じることがあります。

スー:きれいごとを書くほうがラクですからね。自分の男尊女子をつまんでいちいちなだめて指差していくことは大事ですし諦めてはいけないけれど、男尊女卑を完全になくすことはかなり難しいと思います。できてもものすごく時間がかかる。

BI:私が自分でも都合がいいと思うのは、私は働きたいから働くけど、夫が専業主夫になることはイヤなんです。自分が大黒柱になることのプレッシャーには耐えられない。自分の中にはやはり男性は働いてほしいという思いがある。そこを変えるのは自分でも大変だなと思います。

スー:男の人が早く気付いた方がいい。女を養ってなんぼ、それでこそ一人前、みたいな幻想に脳を操作されている。稼ぎ手ではない人たちを養わなきゃいけないシステムに何十年も組み込まれてきているのだから怒ったらいい。と同時に、働くことで誰かをサポートするやりがいのようなものも理解できるようになりました。昭和のオッサンの気持ちが。「包丁が切れなくなった」と言われると、いい包丁を買ってやりたいから明日はすごく仕事を頑張ろうとか思ってしまう。家で怒っていると思えば帰りたくないから遠回りしようとか思うし。そう考えると、立ち回りに特定の傾向が出るのは性別のせいじゃなくて役割のせいなんですよ。

お金は評価。ベアは稼ぎ手としてプレッシャーだった

酒井:スーさんは大黒柱になることのプレッシャーは感じなかったんですか?

スー:全くないと言ったら嘘なんですが、男性が仕事を探そうとしたときは、女性より男性のほうが日雇いなど仕事が多い。労働市場では男性のほうが比較的恵まれています。「私が完全に仕事ができなくなったら養ってよ」とパートナーには言っていて、「贅沢できなくてもいいならオッケー」と了解してくれています。大黒柱プレッシャーはありませんが、ベースアップ交渉があった時は稼ぎ手としてプレッシャーを感じましたね。やはりお金は評価です。うちは給与体系の仕組みを変えベアしたことによって、かなりトラブルが減りましたが。

BI:日本の場合、ややこしいのは役割と性別の結び付きです。例えば、非正規社員やサポート的な仕事は女性が多い。

酒井:職種と性差の関係を取り払うのは難しいことですよね。

スー:法律などで禁止しないとダメですよ。職種と性差で思い出しましたが、少し前にオムツと生理用品で炎上したユニ・チャームのCMがありました。炎上は結局、当事者意識のある人が意思決定権を持つ席にいないから起こるんだと思うんです。「ワンオペの育児がいい思い出になる」というCMを作るのは、その危うさにピンと来る人がいないから。ピンとくる人を役職に入れておかないと企業は命取りになる。私にも「こういう企画をやってください」という話がきますが、「これを御社がやって大丈夫ですか」と戻した件はいくつかあります。

BI:ユニ・チャームはCMの制作陣に女性を入れていたと言っていました。

雑踏での若い女子

撮影:今村拓馬

スー:決定権があるところに女性がいないのではないかなぁ。ピンときても言えない立場ならどうしようもないですよね。私のところに来る危うい話を持ってくるのが女性だったこともありますから。外資系のP&Gが流しているパンパースのCMは、子どもを社会の皆が育てている、といった内容でした。ユニ・チャームとP&Gは女性役員の割合がかなり違うそうです。

酒井:私の今回の本『男尊女子』も、「おじさんが喜ぶかも」って言った人がいたんです(笑)。 『負け犬』のときのようにまた、独り歩きするかしら。

BI:『男尊女子』は誤読されそうですね。帯の「平等は幸せか?」、ここで誤読する人がいそう。

酒井:「か?」と言ってるわけですけどね。

スー:酒井さんが書いていらっしゃったように、どちらかの性がどちらかの性を一方的にサポートしなきゃいけないのがこれまでの時代。

酒井:高度経済成長期は専業主婦とサラリーマンに2人の子ども、がスタンダードな家族の姿でしたが、それは特殊な家族の形態です。今はその家族をいろんな形でキープするのに力を傾注しなきゃいけない時代なんだろうと思います。

スー:なのに、私たちは「男のくせに」とどこかで思ったりはしますよね。

BI: 思います。「ちっちゃいこと言うなよ」とか思いますもん。

酒井:矛盾を抱えていますよね。

スー:私たちが「やっぱ男子はさー」と言ってるときは、「頼り甲斐のない男」というニュアンスが言外にありますから。つまり、男子というものは頼り甲斐がないといけないと思っているわけです。そういう点で、私も間違いなく男尊女子なんでしょう。


酒井順子: 1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。広告会社勤務を経て執筆専業に。2004年『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。主な著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『自身と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『源氏姉妹』『ananの嘘』など多数。

ジェーン・スー:1973 東京生まれの東京育ちの日本人。作詞家、コラムニスト。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」でパーソナリティーを務める。主な著書に『今夜もカネで解決だ』『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』『女の甲冑、来たり脱いだり毎日が戦なり。』。

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