バブル経済が崩壊した1990年初めから3分の1に縮小した国内のジュエリー(宝飾品)市場で、ダイアモンド生産最大手のデビアス・グループが眠る需要を呼び覚まそうと躍起だ。狙うターゲットは、過去の日本の輝かしい経済成長を経験していないミレニアル世代。ダイアモンド・ジュエリーの買い方がアメリカや中国のミレニアル達とは大きく異なるという日本の同世代を、デビアスはどう輝き放つダイヤの世界に引き込むのか? 同グループのブランド、フォーエバーマーク(Forevermark)CEO、スティーブン・ルシア氏に聞いた。
「他の市場と異なるのが日本です。日本の女性は最も悲観的な人生観を持っていて、とても"グルーミー(憂鬱)"そうですね。アメリカやインド、中国の女性はライフに対してもっと楽観的」と話すルシア氏は、それでも国内の30歳以下の女性達はこれから成長が期待できる需要層であると強調する。
「私がここに(東京)来たのも、それが理由の1つなんです」
1980年代後半からデビアスで日本市場を担当したルシア氏は6月27日、BUSINESS INSIDER JAPANとのインタビューで話した。
Peter Macdiarmid/Getty Images
フォーエバーマークの日本の主要顧客は当然、1800兆円にまで膨れ上がった国内の家計金融資産の多くを握る55歳以上の女性だ。デビアスによると、この需要層は国内の60億ドル(約6700億円)のダイアモンド・ジュエリー市場で最大のシェアを持つ。豊富な可処分所得に支えられ、55歳以上の女性の68%は自己購入(セルフ・パーチェス)で輝く宝飾品を手にする。
ミレニアルのためのダイヤモンドの意味
一方、デビアスの調査では、日本の30歳以下でジュエリーを取得する93%は、ギフト(贈り物)によるものだ。自分のためにダイアモンドを購入する頻度が高いアメリカなど他国のミレニアル世代の女性と、大きく異なる点だ。長い人生において、日本のミレニアル世代がダイアモンド・ジュエリーと付き合える「きっかけ」を作る必要があると、ルシア氏は言う。
「私たちはブリッジ商品と呼んでいます。比較的、手に届きやすい価格帯、10万円近辺くらいの商品を提供します。一度、手にすれば、彼らのダイアモンド無きライフは変わっていきます」とルシア氏。
「世界中で消費者の購買行動は大きく変わっていて、日本でもそれは起きている。それはチャレンジであるが、チャンスでもありますね」
フォーエバーマークが、ミレニアル世代がダイアモンド・ジュエリーを手にするためのきっかけ作りでもう1つ注力しているのは、世代の人生におけるダイアモンドの象徴的意味の再定義だという。好景気に湧いた日本のバブル経済期において、ダイアモンドなどのラグジャリーなジュエリーは、富の象徴であり、金融的な人生の成功を意味していた感があると、ルシア氏は言う。
1980年後半に日本市場を担当したルシア氏は、異質な日本でミレニアル世代を取り込むためには、特別な戦略が必要だと語る。
BUSINESS INSIDER JAPAN
今の若い世代において、ダイアモンドを「絆」の象徴とすることで、彼らの人生にこの宝石を受け入れてもらえないだろうかとルシア氏は語る。
「言い換えると、我々が若い世代をターゲットにする場合、ダイアモンドをファッションというエリアで競争するのではなく、ライフのその時々のイベントを象徴するものとしてプロモーションするべきだろうと考えているのです」
結婚ではなく、「ボーイフレンドがガールフレンドに対してステディな関係で行こうね」と誓うコミットメントのシンボルとして、ペアのダイアモンド・ジュエリーが使われても良いのではないかと、ルシア氏は加えた。
オリンピックの特需は期待できない
日本のジュエリーの小売市場は2016年、前の年から2.9%減少し9413億円。矢野経済研究所の調査によると、1991年の3兆150億円から著しく減り、リーマンショックで知られる金融危機後の2009年には1兆円を下回った。今後2020年の東京五輪までの3年は、回復トレンドに乗り、2019年には1兆円の大台までに戻ると、調査報告では述べている。インバウンド(訪日外国人客)からのジュエリー需要をどこまで取り込めるかが課題であるとしている。
ルシア氏は、ダイアモンドにおけるオリンピック特需は期待できないと言う。
「伝統的に、オリンピックなどの世界的イベントはダイアモンド・ジュエリーの販売を大きく左右するものではないのです。消費者はそれぞれのホームマーケットで購入するのが一番便利ですよね。何か問題があれば、近くのデパートやショップに持っていけば良いのだからね」
また、ルシア氏は、実店舗から電子取引(e-commerce)への大きな小売のシフトが起きる中、ダイアモンド・ジュエリーにおいては両方のチャンネルが機能していると話す。例えば、中国でフォーエバーマークの商品を買う9割は、購入前にウェブサイトで十分に商品のリサーチを行っているという。ルシア氏によると、アメリカ市場では15%がECでジュエリーを購入している。
ルシア氏は、オリンピックなどの世界的イベントはダイアモンド・ジュエリーの販売を大きく左右するものではないと話した。
BUSINESS INSIDER JAPAN
「リテーラーと話をすると、彼らは決まってこんなことを言うんです。『ミレニアルはダイアモンドに興味がない』。そうではなく、彼らのほとんどは商品のリサーチに実店舗に行かなくなった。結局、購入するのは実店舗です。いわば、彼らが興味を惹き、実店舗にやってくるまで、オンラインが大切になってきますね。買う瞬間だけがオフラインです」とルシア氏。
1年に2、3度東京を訪れるルシア氏は最後に言う。
「日本の悲観的な見方は経済状況を反映しているものではないだろう」
「日本の多くの女性が持つ人生に対する悲観は、心理的なものですよね。ただ、この悲観的な心理は、国の経済活動を弱めてしまう。全てをより良くしようとする楽観論を日本が取り戻すのも、人々の心理ですね」