独自に試算!スペースXが開発費10億ドルを回収できるのはいつ?

Falcon 9ロケット打ち上げの様子

Falcon 9ロケット打ち上げの様子

SpaceX/Flickr (public domain)

エンジニアリング技術の結晶、ロケット。

にもかかわらず、打ち上げ直後に海に沈むか砂漠に落ちて、ごみになる。それこそがロケット打ち上げに計り知れない費用がかかる理由だ。

だが、テック界の大物イーロン・マスク氏が率いるスペースX(SpaceX)は、懸命な取り組みにより、この無駄に費用のかかる状況に終始符を打とうとしている。同社のFalcon 9ロケットや、近日打ち上げ予定のFalcon Heavyのパーツは、使用後24時間以内に再利用できる。

「宇宙飛行にとって、大きな革命だ。ここにたどり着くまでに15年かかった」マスク氏は3月30日(現地時間)、使用済みのFalcon 9のロケットブースターを使って、初めて衛星を軌道に載せた直後、そう語った。スペースXは6月25日と26日(現地時間)にも、使用済みロケットを使った「ウィークエンド・ダブルヘッダー」計画の一部として、48時間以内に2度の打ち上げを成功させた

マスク氏のゴールは、再利用可能な軌道ロケットを使って宇宙へのアクセスにかかるコストを劇的に引き下げ、人々を火星に送り出す費用をできるだけ安くすることだ。これまでスペースXは、この技術開発に約10億ドル(約1122億8000万円)を投じてきた。

ここで大きな疑問が生じる。スペースXは、いつこの巨額な開発費を回収できるのだろうか?

試算してみた。


スペースXの主力ロケット「Falcon 9」。全長229フィート(約70メートル)で、スクールバスくらいの大きさのペイロード(積載物)を軌道に載せることが可能。顧客が打ち上げに支払う費用は、約6200万ドル(約69億5000万円)。

Falcon 9ロケット先頭

SpaceX/Flickr

出典:SpaceX(12

他の軌道クラスのロケット同様、Falcon 9は第1段(ブースター)、第2段、衛星などを載せるペイロードフェアリング(先端部)からなる。最下部のブースターが最も大きい。

スペースXのFalcon 9ロケットシステムのメインパーツ

スペースXのFalcon 9ロケットシステムのメインパーツ

SpaceX/Flickr; Business Insider


だが他の軌道クラスとは異なり、Falcon 9のブースターは陸地か船舶への着地が可能。その後、再利用できる。

着地のために噴射を続けるロケットブースター

CRS-11ミッションのペイロードを軌道に送り込んだ後、着地しようとするFalcon 9ロケットブースター

SpaceX/Flickr (public domain)


マスク氏は3月、スペースXの打ち上げ費用の約70%をブースターが占めると述べた。一度でも再利用できれば、同社と顧客にとって大幅な経費削減になる。


3基の再利用可能なブースターを使用するスペースXのロケット「Falcon Heavy」にとっては、コスト削減の効果はより大きくなる。

Falcon Heavyから切り離されるブースター

Falcon Heavyから切り離されるブースター

SpaceX/YouTube

出典:Business Insider

Business Insiderは、スペースXの収支と開発に投じた10億ドルの回収時期を同社に尋ねたが、回答は得られなかった。そこで我々はチャートを作成、いくつかの可能性を検討した。

Falcon 9ロケットブースターを撮影する男性

Falcon 9ロケットブースターを撮影する男性(2011年7月6日)

Courtesy Dave Mosher


初めに、投資会社Jefferies International LLCによる2016年4月の打ち上げ費用の分析を見てみた。

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Jefferies International LLC

しかし、Jefferiesの数字の一部は既に古くなっている。投資の回収時期も推定されていない。このレポートを執筆したJefferiesのアナリスト、ジャイルズ・ソーン(Giles Thorne)氏は、Business Insiderの取材には応じなかった。

出典: Jefferies International LLCSpace News

そこで我々はJefferiesの分析をもとに、スペースXのウェブサイト、イベントニュース、マスク氏と同社の社長兼COOグウィン・ショットウェル(Gwynne Shotwell)氏の声明から集めた最新情報を加え、発展させた。

スペースX社長兼COO、グウィン・ショットウェル氏

スペースXの社長兼COOグウィン・ショットウェル氏

Dia Dipasupil/Getty Images

例えばマスク氏の最近の発言によると、Falcon 9ロケットのコストの約70%はブースターが占めている。75%ではない。また、Falcon 9の平均的な打ち上げ費用は6200万ドルで、6120万ドルではない。

合わせて、我々はFalcon 9とFalcon Heavy両方の年間の打ち上げ頻度を推定した。

出典:Spaceflight NowスペースX

またマスク氏は最近、600万ドルのコストがかかるロケット先端部(もしくはフェアリング)を安全に回収できると発表。この部分の再利用も計算に入れた。

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SpaceX/Wikipedia

「例えば荷台に積んだ600万ドルの現金が、空を飛んで海に落ちようとしていたら、何とかしてそれを取り戻すだろう? そうに決まっている」マスク氏は今年3月、スペースXが初めてロケット先端部の回収に成功した際にそう語った(この約1年前にJefferiesのレポートがリリースされていた)。

出典: Business Insiderロイター

Jefferiesは、Falcon 9の通常の打ち上げの利益率を40%と想定した。我々はこの考えを引き継ぎ、ロケットの打ち上げには通常6200万ドルかかることから、スペースXの利益を2480万ドルと見積もった。

上昇するFalcon 9ロケットの最下部

極低温ガスの霧を発生させながら上昇するFalcon 9ロケット(2017年1月14日)

SpaceX/Flickr (public domain)

出典:Jefferies International LLC

またJefferiesは、最下部のブースターの使用回数を約15回と仮定。我々はこの仮定も採用した(マスク氏は「数十回」利用可能と述べてきた)。スペースXの再利用技術の開発は、その技術が生み出した利益で賄えると考えた。

着陸中のFalcon 9ロケットのブースター

Falcon 9ロケットのブースターがドローン船に着陸するイメージ

SpaceX/Flickr (public domain)

出典: Jefferies International LLC

次に我々は3つのシナリオを想定、試算した。最も挑戦的なシナリオは、スペースXが隔週で使用済みロケットブースターを使って打ち上げを実施、ブースターの再利用によって浮いた金額の25%を顧客に還元する(ただし、ロケット先端部の再利用によるコストカットは還元しない)。この場合、打ち上げ料金(標準)は600万ドル、約10%の値下げとなる。

スペースXの格納庫内部の様子

スペースXの格納庫。使用済みFalcon 9ロケットのブースターが格納されている

SpaceX/Flickr (public domain)

スペースXの社長兼COOショットウェル氏の2016年の発言によると、使用済みFalcon 9ブースターの再利用により、打ち上げ料金は10%値下げとなる。同氏はさらに、使用済みブースターの次の利用までにかかる時間は、初めのうちは数カ月だが、ゆくゆくは数日に短縮されるとも述べた。

出典:Spaceflight Now

このシナリオでは、開発費10億ドルは約1年7カ月で回収できる。加えて、より利益率の高いFalcon Heavyを年間5回打ち上げると、その回収期間はさらに4カ月近く短くなる。

お祝いのシャンパンボトルを掲げるイーロン・マスク氏

REUTERS/Noah Berger

出典:SpaceX

2つ目のシナリオはこれほど極端ではない。打ち上げ頻度を「2週間半に1度」に減らし、ブースターの再利用による顧客還元率を50%に引き上げる。先端部の再利用で得られた利益は還元せず、打ち上げ料金を20%値引きする。

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Flickr/spacexphotos

この場合、開発費の回収にかかる期間は3年2カ月。Falcon Heavyを年間3回打ち上げると、約5カ月短縮できる。

笑顔のイーロン・マスク氏

Getty/Dario Cantatore

3つ目のシナリオはより堅実だ。打ち上げ頻度を「3週間に1度」とし、ブースターの再利用で浮いた金額の3分の2を顧客に還元。ロケット先端部の再利用によってカットされたコストも、50%以上を還元する。打ち上げ料金は、30%値下げする。

Falcon 9ロケットの最下部

Falcon 9ロケットの最下部。マーリンエンジン9基を搭載

SpaceX/Flickr (public domain)

この場合、開発費の回収には約5年5カ月という長い時間がかかる。Falcon Heavyを年間2回打ち上げると、約9カ月短縮されるが。

肩をすくめるイーロン・マスク氏

Getty Images/ Scott Olson

ただし、いずれのシナリオも、日程の遅れや顧客のキャンセルにつながる打ち上げの失敗を考慮していない。例えば、2015年6月の事故でスペースXは推定2億6000万ドルの損失を出したと報じられた。2016年9月には、発射台で無人のFalcon 9ロケットが爆発、大きな損失を計上した。

発射台で爆発したFalcon 9ロケット

発射台でFalcon 9ロケットが爆発(2016年9月1日)

Launch Report/Handout via REUTERS

出典:Business Insider(12

さらに我々は、スペースXの大幅な値下げに対抗できる競合他社の台頭も考慮していない。例えばジェフ・ベゾス氏のロケット会社Blue Originは、2020年までに同社のロケットシステム「New Glenn」でスペースXに競合できるかもしれない。

主なロケットの全長比較

Blue Originのロケットシステム「New Glenn」。再利用可能、垂直着陸ブースターの推力は385万ポンドで、NASAのサターンV型ロケットの約半分に相当する

Blue Origin

出典:Business Insider(12

さらに、Falcon 9の第2段が近いうちに完全に再利用できるようになる可能性も考慮していない。

長時間露光写真で見るFalcon 9の夜間打ち上げの様子

Falcon 9の夜間打ち上げ

SpaceX Photos/Flickr

「当初、Falcon 9の第2段を再利用可能にするつもりはなかったが、競合他社を大きく引き離すためにトライするのも面白いかもしれない」とマスク氏は3月に語った。「最悪の場合、何が起こるか? 吹っ飛ぶ? どのみち吹っ飛ぶのがロケットだ」

スペースXは長期的な目的を持っている。マスク氏は最終的に100万人を火星に運ぶことができる技術の開発に、同社の利益を注ぎこむ予定だと語った。

火星移住計画について説明するイーロン・マスク氏

イーロン・マスク氏はスペースXによる火星移住計画を構想している

Getty Images/Shutterstock/NASA; illustration by Dave Mosher/Business Insider

「これは火星移住計画の核心部分だ。計画のゴールを、単に人を送り込むことではなく、自立して存続できる都市を築くことだとするなら」とマスク氏は3月、Business Insiderに語った。「火星行きの1トン当たりのコストを最低でも100分の1、ひょっとすると1000分の1に抑える必要がある。実際には10000分の1かもしれない。そのためには、再利用可能なロケットや機体の開発が何としても欠かせない」

自らの手で計算したい場合は、我々が作成した閲覧専用Googleスプレッドシート(英語)をコピーして、試算を行っていただきたい。

写真: SpaceX/FlickrSpaceX/YouTubeCourtesy Dave Mosher 、 Jefferies International LLC 、 SpaceX/WikipediaFlickr/spacexphotos 、 Launch Report/Handout 、 Blue Origin

[原文:Elon Musk spent $1 billion developing SpaceX's reusable rockets — here's how fast he might recoup it all

(翻訳:Conyac

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