iPadをプレゼンテーションするスティーブ・ジョブズ
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iPhoneは、ユニークな視点や繊細な感受性から生まれたに違いない。
そう思うなら、たぶん間違いだ。
アップルの前iOS担当上級副社長スコット・フォーストール(Scott Forstall)によると、iPhoneプロジェクトの発端は、ジョブズのマイクロソフト(MS)嫌いと、あるMS社員との不仲にあった。
「スティーブは、彼を嫌っていた」とフォーストールは20日夜(現地時間)、カリフォルニア州マウンテンビューのコンピュータ歴史博物館で行われた、初代iPhone発売10周年の記念イベントで語った。
「やつらはマヌケだ」
ジョブズが嫌っていたのは、時に友人であり、長年のライバルでもあったビル・ゲイツではない。そのMS社員は、ジョブズ夫人ローレン・パウエル・ジョブズの友人の夫だとフォーストールは述べた。2組は交流範囲が重なっていたため、パーティーやイベントでたびたび顔を合わせた。
「彼とどんな形であれ接触すると、ジョブズはひどく不機嫌になって帰ってきた」とフォーストール。
ある週末、決定的なことが起きた。彼が、MSのTablet PCは「コンピューティングの課題を解決した」とジョブズに言ったのだ。
現在のタブレットと同様にTablet PCは、Windowsで動作し、ノートPCより小型・軽量でタッチパネルを搭載していた。だがジョブズには気に入らない点があった。だから彼の言葉がジョブズを苛つかせたわけだが、Tablet PCはスタイラスペンでしか操作できなかったのだ。
ビル・ゲイツ氏とマイクロソフトのタブレット(2000年)
Reuters
週明け、出社したジョブズ氏は「汚い言葉」を連発していたとフォーストールは語った。ジョブズはマイクロソフトを打ち負かすために動き出した。タッチパネルを搭載したデバイスの開発に乗り出したのだ。スタイラスペンではなく指で操作できるデバイスだ。
「やつらはマヌケだ。スタイラスペンなんていらない。すぐなくなるし、直感的でない。指なら10本ある!」とジョブズは言ったという。
当初は、プロジェクトの焦点はタブレットに向けられていた。フォーストールは、そのプロジェクトのソフトウェアのリーダーに任命された。
コーヒーショップでの出来事
プロジェクトは進み、プロトタイプの開発は順調に進んだ。アップルが、プロジェクトの焦点をタブレットからスマートフォンへと移したのは2004年ごろ、ジョブズがフォーストールとコーヒーショップに行った後のことだ。
フォーストールによると、客の多くが携帯電話を使っていたが、皆、楽しそうではないことにジョブズは気づいた。ジョブズにとって、チャンスだった。ジョブズはフォーストールに、開発中のタッチデバイスを携帯サイズに縮められないかと言った。
こうして発足したのが、後のiPhoneにつながるプロジェクト「Purple」だ。フォーストールによると、サイズを小さくするのは非常に難しい仕事だった。だが完成してみると、ジョブズの指摘が正しかったことが分かったという。
アップルの前iOS担当上級副社長スコット・フォーストール
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「はっきりと確信した。電話はこうあるべきだ」
ちなみに、マイクロソフトのTablet PCは成功しなかった。2010年、アップルがiPadをリリースし、タブレットはマスマーケットに受け入れられた。
「オエッ!」
iPadを紹介する時に、ジョブズがスタイラスペンへの嫌悪感をストレートにこう表現したことは有名だ。
だが時代はめぐる。現在、マイクロソフトのSurfaceシリーズはペン入力に重点を置いている。そしてアップルも今では、iPad Pro向けのスタイラスペンApple Pencilを販売している。
(敬称略)
[原文:The iPhone originally happened because Steve Jobs hated a guy who worked at Microsoft]
(翻訳:Ito Yasuko)