ウーバーのIPOに立ち塞がる前例なき険しい道 —— CEO候補に8人の大物浮上

たった8年で企業価値700億ドル(約7兆8000億円)の企業を作り、経営の舵をとってきたトラビス・カラニック。数々のスキャンダルの末、6月20日にCEOを辞任した(取締役会には残る)。Business Insiderで輸送・交通を担当するマシュー・デボード上席記者が、市場の注目を集めてきたウーバーの株式上場の可能性をコラムにまとめた。

一言で言うなら、ウーバーを支えてきた投資家たちは、「トラビス劇場」をこれ以上眺めているわけにはいかなかったということだ。

数名のアドバイザーたちがカラニックと話し、彼は辞任を決意した。その中にはハフィントン・ポスト創業者のアリアナ・ハフィントン(Arianna Huffington)も含まれていたという。

ウーバーに関しては近年、新規株式上場(IPO)の可能性が取り沙汰され、2012年のFacebook以来の大型案件として、ウォール街やシリコンバレーの関係者たちも注目してきた。実現すれば、ウーバー株は一夜にしてミリオネアやビリオネアを生むことになるだろう。

ウーバー創業者・トラビス・カラニック氏

Danish Siddiqui/Reuters

現在はベンチャーキャピタルが株式の多くを握るウーバー。問題は、フィデリティ(Fidelity)などの機関投資家やサウジアラビアの政府系ファンド、カラニック本人と取締役たちが、できる限り非上場企業であり続けたいと考えていることだ。当面は株を公開せず、資金は民間市場で調達すれば良いという考えで、「強情で無知だ」とする見方も聞かれる。

仮に今年、上場に踏み切れば、ウーバーの株には驚異的に高い評価額がつくかもしれない。しかし、同社の貪欲な資金調達ニーズは続くだろう。一般投資家たちは、巨額の資金を使って事業を拡大させる現行のアプローチを許容するほど忍耐強くはない。

今回のカラニックの辞任によって、ウーバーの財務状況がある程度金融当局に対して露わになった。同時に、ウーバーの競合は、配車サービス業界に君臨する巨大企業がどこに向かおうとしていたのか、どれだけの資金を使って市場の独占的地位を保持しようとしていたのかを知った。

CEOもCOOも…経営層に適した人材はいるのか

カラニックが去り、新たにウーバーの経営を牽引するCEOはまだ現れていない。いま直面する問題を解決し、その穴を埋めるCOOもいなければ、無謀な経営を続ける巨大なベンチャー企業を市場で売却できる経験豊富なCFOもいない。

現況をみると、ウーバーは株式上場に踏み切る状況にはない。今まで投資をしてきた企業やファンドは当然、投資に見合ったリターンを期待するが、現在のウーバーが他企業に売却される可能性は低いだろう。

「シリコンバレーの次のFacebook」「勝者独り占め」などと揶揄され、途方もない評価額がつくベンチャー企業の大再編は、私が知る限りアメリカのビジネス史上において前例が思い浮かばない。数カ月前までは、上場すれば企業価値は1000億ドルに達するだろうとも言われた、世界で最も価値ある非公開企業の1つであるウーバーの経営層は次々と辞任し、主要ポジションが空いている状況だ(図参照)。必要な人材は、この肥大した企業が直面する危機に立ち向かえる専門家だ。

図中の赤く塗られたポジションは現在、空席である。

Skye Gould/Business Insider

カラニックのような経営トップを迎えることは得策ではない。彼の猪突猛進型の経営スタイルはもはや、シリコンバレーのテクノロジーオタク文化にはふさわしくない。カラニックの経営手法は、ウーバーを最大のプログラマー企業へと導いた。しかし、ここ数年のテック・イノベーション時代の中で、ウーバーは歯車を狂わせる体質を持ち合わせたテクノロジー企業でもある。

ウーバーにはオペレーショナル・エクセレンス(現場力、業務を遂行する力)が必要不可欠である。そして、巨額の資金を貪るように費やす経営を改めながら、競合のリフト(Lyft)との競争を続けるのだ。

ウーバーは必ずしも磐石な競争力を持っているとは言えない。彼らのビジネスはiPhoneのアプリであり、契約書を交わさずして働く運転者たちとの希薄な関係で成り立っている。勝負の鍵はユーザーの待ち時間である。Lyftは待ち時間を削減できれば、ウーバーと勝負できるだろう。

巨大企業は再び動くだろうが、悪夢のシナリオも考えられる

ウーバーは一刻も早くCEOとCOOを見つけなければならない。しかし仮に、CEO代理を置きながら本命を探し続ける方法を取らないのであれば、取締役たちはトップ人事のシャッフルを急ぐわけにはいかない。

700億ドルの巨大企業を操縦するポストを誰かに渡すということ。それは、ウーバーの株式上場を短期的には難しくするだろう。しかし、長期的には容易な上場を可能にする。経営幹部レベル(CEO、CFO、COO)の人事が固まれば、ウーバー経営陣は市場を見る余裕を持ち、株式上場が投資家たちの要望通りの施策か否かを判断することになる。

そして、この巨大企業は再び、動き出すだろう。もちろん、悪夢のシナリオも考えられる。それは、ウーバー危機が長引き、企業価値が毀損することである。悪夢が起これば、経営陣と既存の投資企業やファンドはパニックに陥り、出口戦略に迫られることは考えられる。ウーバーにはすでに莫大な資金が投下されていることを考えれば、パニックからの損切り売却が起こることは想像しにくい。

[原文:Kalanick's resignation as Uber's CEO has put an IPO in doubt — but there's still a precarious path to a public offering]

(敬称略)


ビジネス・インサイダーが6月23日に報じた記事によると、カラニックの後を引き継ぐCEO候補として8人の大物が考えられるという。

トーマス・スタッグス氏(元・ディズニー COO)

トーマス・スタッグズ

Getty / Scott Olson

ヘレナ・フォークス氏(CVS Health・薬局部門担当社長)

ヘレナ・フォークス

CVS

アダム・ベイン氏(元・ツイッター COO)

アダム・ベイン

Twitter/Flickr

スーザン・ウォシッキー氏(YouTube CEO)

スーザン・ウォシッキー

Getty Images

ニケシュ・アローラ氏(元・ソフトバンク COO)

ニケシュ・アローラ

Reuters

デービッド・クッシュ氏(元・ヴァージン・グループ CEO)

デービッド・クッシュ

Michael Loccisano / Getty Images

アラン・ムラーリー氏(元・フォード CEO)

アラン・ムラーリー

Andrew Burton/Getty

ジェフ・イメルト氏(ゼネラル・エレクトリック(GE)CEO)

ジェフ・イメルト

Chip Somodevilla/Getty Images

(翻訳・編集:佐藤茂、小杉シェイナ)

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