「DoingよりBeing」日本の女性リーダーたちがシリコンバレーで学んだこと

世界中から人材が集まり、革新的なスタートアップが誕生している米国シリコンバレーでも、最近、いくつかの有名企業で女性に対するセクハラ問題などが表面化している。日本より女性にもチャンスが開かれていると思われているこの地でも、女性が働き、新規事業を起こすことのハードルは依然として高い。

座談会の様子

合宿は日本の連休を生かして参加した。

そんな中、堀江愛利さんは、自らの経験をもとに2013年、シリコンバレーで「Women’s Startup Lab(以下、WSL)」を設立し、女性起業家の成長を促すアクセラレーター・プログラムを始めた。今では世界中から、女性起業家だけでなく男性も受講希望者が集まってくる。

2017年5月、IT分野のカンファレンスなどを手がけ、多くのスタートアップに携わってきたウィズグループ代表の奥田浩美さんの呼びかけで、WSLを体感する研修「シリコンバレーWSL合宿-日本を変える女性のBootCamp-」が開催された。

参加したのは、リクルートホールディングス・花形照美さん、一般社団法人at Will Work代表理事・藤本あゆみさん、WAmazing代表取締役・加藤史子さん、Will Lab代表取締役・小安美和さん、サムライインキュベート・矢澤麻里子さん、そしてBusiness Insider Japan統括編集長・浜田敬子。

主催の堀江さんと呼びかけ人の奥田さんを中心に、藤本さん、加藤さん、小安さん、矢澤さん、浜田が合宿の目的や得たものをそれぞれ座談会形式で語った。

「これまで女性であることにとらわれたことはなかった」

奥田:まず、なぜみんなをこの合宿に連れて行ったかについて話します。10年ほど前まで、私は「女性という枠に入りたくない」「男女関係なく自分の力で生き抜いてきた」と思っていました。しかし、愛利さんと交流する中で、男性も女性ももがき苦しんでいる時代、男女関係なく活躍するためには、前提としてなぜ女性はいままで社会で活躍できなかったのかに気づき、次の世代を引き上げるプログラムが必要だと考えたんです。

奥田浩美

奥田浩美

鹿児島生まれ。インド国立ボンベイ大学(現・州立ムンバイ大学)大学院社会福祉課程修了。1991年にIT特化のカンファレンス事業を起業し、数多くのITプライベートショーの日本進出を支える。2001年に株式会社ウィズグループを設立、2013年に株式会社たからのやまを創業。情報処理推進機構(IPA) の未踏IT人材発掘・育成事業の審査委員、「IT人材白書」委員。主なに『ワクワクすることだけ、やればいい!』など。

堀江:それは誰かが教えるものではないと思うんです。「その人の存在と意識で自然と周りの人の意識も変わる」というポジションにいる人たちがリードし成功すれば、自然と周りも引き上げられる。そういう形でないと社会は変わらない。

奥田:このメンバーは、私がFacebookに「自分に気づきを見いだし、日本を変えるために3泊4日でシリコンバレーに行きませんか」と投稿したところ、すぐに「はい」と手を挙げた人たち。みんな速かったね、2時間以内くらい(笑)。

藤本:「女性が日本を変える」と書いてあったら行かなかったかも。私もやはり女性であることにとらわれたくないから。「日本を変える」、口ではよく言うけど、文字で書かれることは少ないですよね。「日本を変える」という明確な目的は強い。だからすぐに返事しました。

藤本あゆみ

藤本あゆみ

一般社団法人at Will Work代表理事 / 株式会社「お金のデザイン」シニアコミュニケーションズマネージャー。1979年生まれ。キャリアデザインセンターに入社。3年目に当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。結婚を機に退職し、2007年4月にグーグル(現グーグル合同会社)に転職。デジタルマーケティング導入支援、広告営業チームの立ち上げに参画し、営業マネージャー、人材業界担当統括部長を歴任。女性支援プロジェクト「Womenwill Project」パートナー担当を経て、2015年12月に退職。2016年5月に一般社団法人at Will Workを設立し、代表理事として活動するとともに、「お金のデザイン」で広報・マーケティングマネージャーを務める。

浜田:私は「日本を変えたい」とずっと思ってきたのと、今春から会社が変わったので自分も変えたいという気持ちもあった。前職で編集長になったときは、ものすごい“風圧”を感じた。私も皆さんと同じで、それまであまり「女性だから」ということを意識してなかったのに、リーダーになった途端、日本で女性がリーダーになるのは、こんなにも生きづらいものなのかと。これをなんとかしたかった。

奥田:みんな「何かを与えてくれ」ではなく、「自分も作る側である」という意志がある人。この合宿はただ「与えてもらいたい」というだけでは得られないプログラム。みなさんはこの3日間を通して何を得ました?

「しなければならない」で埋められるとインスピレーションはわかない

藤本:プログラムに出てきた「Doing」よりも「Being」がとても心に残っています。

堀江:子どものころを思い出すと、私たちには持って生まれた個性や“らしさ”があって、心がワクワクするようなことがあったはず。それが直感的にも個人の原点の強みである「Being」です。シリコンバレーではよく「パッションが大事だ」と言いますが、つまりそれは、その人が心底持つ信念と決意であり、自分がどうありたいか、ということです。大人になると、そういうことも感じられないくらい周りの目を気にしすぎて、自らの視点を失い、何かしなければいけない「Doing」で埋められてしまう。そうなると疲れて、インスピレーションも沸かない。

小安:「Being」という表現は重いけれどもわかりやすく、男性でも女性でも伝わる。私もその切り口が大きな獲得でした。合宿以来、毎日「Being」について考えています。

小安美和

小安美和

株式会社Will Lab代表取締役。株式会社チェンジウェーブ エグゼクティブパートナー 。岩手県釜石市地方創生アドバイザー 。1995年日本経済新聞社入社。2005年リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海で中国ゼクシィ商品責任者などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長兼経営企画部長。「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」を立ち上げ、2016年3月同社退社。世界の女性の雇用創出のためのハンディクラフトショップ「Will Gallery 」オープン。国内外の女性の雇用創出を目的とした事業活動を展開。

矢澤:私は常になにかを具体的にしなければならない、この目標を達成するためには何が必要なのだろうと考えていたんです。そうやって毎日「Doing」ばかりに意識を置いていると、「これは自分じゃない」と思ったり、他人から与えられた既成概念のもとでしか行動ができなくなっていました

浜田:企業はKPIを設定して具体的な行動に落とし込み、短期の目標を達成することに主眼を置きがち。私も日々PVに追われていますが、改めてメディアの仕事はビジョンを語ることだと気づきました。愛利さんが「ビジネスモデルやテクノロジーは半年経つと陳腐化するからこそ、自分はなぜこの仕事をするのか、という問題意識と、『この人だから任せられる』という個人への投資が必要」という言葉にもハッとさせられた。だからこそ個性を磨く「Being」が大事なんだ、と。

加藤:私はデモデー(起業家たちが研修の最後に投資家たちの前で自身のビジネスモデルなどをプレゼンする)を見て、「ここはいろいろな国から、いろいろなバックグラウンドを持っている人たちがチャレンジにくる場所なのだ」と感銘を受けました。日本においてスタートアップ業界はモノカルチャー。大企業に比べれば、能力さえあれば対等に接してくれるとはいえ、ほとんどが男性で女性はマイノリティ。愛利さんの作っていらっしゃる場は、全員がマイノリティだから居心地がいい。

加藤 史子

加藤 史子

WAmazing代表取締役/CEO。1998年にリクルート入社。「じゃらんnet」「ホットペッパーグルメ」など主にネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。スノーレジャーの再興をめざした「雪マジ!19」を皮切りに、「Jマジ!」「ゴルマジ!」「お湯マジ!」「つりマジ!」など「マジ☆部」を展開。国・県の観光関連有識者委員や、執筆・講演・研究活動を行ってきたが、「もう1度、本気の事業で日本の地域と観光産業に貢献する!」を目的に、2016年7月、WAmazingを創業。2017年2月より訪日外国人旅行者向けの無料SIMカードとセットになった観光マッチングプラットフォームアプリを提供開始。

あえて「無意識になれる時間」を作る

浜田:今回、合宿として生活を共にしたことも大きかったですよね。一体感が心を許せる雰囲気になる。

奥田:確かに、1人が学んで持ち帰っても日本は変わらない。それぞれ考えることは違うけれど、「つながった」ということも成果のひとつ。日本に戻って変わったことはありますか。私は英語の勉強にまじめに取り組んでいます。25年間、海外でも仕事をしてきて優秀な語学スタッフもいるから困ったことはなかったけれど、「自分の核となるもの」を伝えるには、私の口でしかできない。伝えたいことを世界に発信できるようになりたい。

小安:「ここ(私の中)」を考えるようになって自信がついた。これまで変わった人と思われて育ってきて、他人と違うけど大丈夫かなと思ってきたけれど、私は「これでいい」と思うようになった。

矢澤:いままで何もしない時間を持つことに罪悪感があったけれど、あえて「White zone(=無意識になれる時)」を作ってと言われたことも気づきでした。何もしない時間があるから、自分がクリエイティブになれる、それが何倍にも自分や仕事に跳ね返ってくると思えるように変わりました。

 矢澤麻里子

矢澤麻里子

Samurai Incubateインキュベーター。 BI・ERPソフトウェア企業でコンサルタント及びエンジニアとして従事。日本国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・与信管理モデルの構築など、幅広い経験を経て渡米。シリコンバレーVCにて資金調達やデューデリジェンスに携わる。 2013年に、サムライインキュベートに参画。主に、投資先の発掘・選定、メンタリング・支援先バリューアップを担当。ニューヨーク州立大学犯罪司法学士。

加藤:私も6月から毎日16時〜19時までアポを入れずに「White zone」を作っています。スタートアップはつい24時間仕事のことを考えてしまうけれど、私の「Being」は会社だけでなく家庭にも影響する。今は、子どもの話をじっくり聞くことが多くなりました。

藤本:私の「Being」はなんだろうと、どう言語化しようと考えているけれど、まだいい言葉に巡り合っていないので、あなたの「Being」はなんですかと聞かれたときに言えるようになりたい。

奥田:このプログラムは今後も続けていく予定です。次はどういう人に参加してもらったらいいと思いますか。

加藤:飛び出るきっかけを探している人。スタートアップは若者だけのものではないと思う。役員経験者でも裸一貫で挑戦するといったことが増えるとおもしろい。

堀江:アメリカでは女性起業家のピークエイジは35歳から45歳なんですよ。子どももいて最も大変な時期だけど、新しいものを生み出すための想像力と少し経験を積んだ上での自信が重なる時期なんですかね。

小安:日本は例えば、大手企業とベンチャー企業、NPO、行政など異なる分野のプレイヤー同士がなかなか交わらない。それぞれの利益を守れなくなるという恐怖感があるから。でも、もはや分野をまたいで一緒に何かを作っていかなければ日本の問題は解決しない。そういう異分野の人がつながる場づくりができたらいい。

藤本:次は主体的に「日本を変える」とは思っていないけれど、「変わると信じたい」と思っている人が参加してもいいと思う。参加することで「自分も変えられるんだ」と思うはず。

浜田:企業で働く女性には、まだまだ「ガラスの天井」と言われるようなリミットがある。自分の中のリミットや組織のリミットを前にどうしていいか悩んでいる人にぜひ体験してほしい。

奥田:日本では、会社の中で築いたものを社内ならいいけれど、社外や次の世代には与えちゃいけないという考えがありますよね。何かを一度成し遂げた人が、次に何をどういう場で与えていこうかと考える場になればと思います。次回の合宿は9月を予定しています。


堀江愛利さんに聞く

堀江愛利

私がWSLを設立した目的は、女性が自らの可能性に気がつき、自分らしいパワーを出せる社会、またそれを支えたいと思う人達が集まり、女性たちを上に押し上げていこうとする意識の高い人々の集まりをを作るためです。

私は高校時代に単身渡米し、米国の大学を卒業。IBMに3年間勤務し、以降、ミディアムサイズのスタートアップに関わってきました。子育てしながら起業し、周りから「育児の合間の趣味のような事業」と捉えられて悔しい思いをしたこともあります。仕事と育児の両立で疲れ果て朝から涙が出てきたことも。大企業からスタートアップ、フルタイムマムもワーキングマザーも母の介護も、さまざまな、女性だから当たり前と受け入れてきた役割を経験したことが、WSLにつながっています。

試行錯誤して可能性を自分で引き出しながら生き抜いてきて、多くの人々に支えられてきたから、ノウハウも含めその方法をシェアしたい。 シリコンバレーは自殺率も離婚率も高い。ビジネスで結果が出てもハッピーではない人がたくさんいるんです。それは「Doing」に捕らわれて「Being」が欠けているから。

とはいえ「Doing」しなければスタートアップは始まらない。「Doing」が悪いのではなく、「Being」が「Doing」をリードすればいいんです。いくらテクノロジーでリードしても、会社がある程度成長したら新しい会社に取って代わられてしまう。

訓練や自己啓発とは違います。優秀ながらイエスマンの多い日本でのこれからを引っ張っていくリーダーは、その人がもともと持っている個人のビジョンを強みにしビジネスにつなげていくことが必要とされている。激動の時代だからこそ、自分のビジョン(Being)の強みに気づき、ビジネスや成果につなげていくんです。起業家はイノベーター。社会がどんどん変わっていくなかで、自分をイノベーションさせることが大切です

日本は、優れた能力を持つトップレベルの女性たちが行き詰まっていて苦しそう。世界遺産です。もったいないですね。彼女たちがリーダーシップを発揮できれば、みんなが活躍できる社会がうまれる。そのモデルをつくっていきたいと思っています。

(撮影:高村瑞穂)

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