人手不足、それに伴う長時間労働や体力・心理的な負担を理由に「外食産業」と聞くとブラックなイメージを持つ人は少なくない。こうした外食産業全体のイメージ向上のため、「はなまるうどん」を展開するはなまると、「日高屋」を展開するハイデイ日高はこのほど、2018年卒の学生をメーンターゲットに合同イベント「小麦粉大戦争」を開催。両社の働き方の現状と今後の方針を知ってもらおうと、はなまるの成瀬哲也社長と、ハイデイ日高の高橋均社長がともに登壇し語り合った。
楽天の「みんなの就職活動日記」会員を対象にHR総研(ProFuture株式会社)が調査した2017年卒の大学生・大学院生へのWebアンケートによると、「最も敬遠したい業種」は文系・理系学生ともに「外食」が20%と、2位以下の業種を大きく引き離してトップだった(2016年3月末時点)。この傾向はここ数年続いている。
「小麦粉大戦争」というタイトルは、うどんとラーメン、どちらも小麦が原料であることに由来する。「小麦粉は私たちの原動力。かがやく白さに相応しい会社でありたい」と、2社が「働き方」対決を行い、“ホワイト”をアピールするという設定で付けられた。
【第一戦】女性は働けるのか
社員約450人のうち女性の比率は約25%というはなまる・成瀬氏は次のように語った。
「まだまだ少ないが、和風ファストフードのなかでは他社に比べて営業時間が短い分、比率は高いほうといえる。外食産業は長期休暇や2カ月後の休みを約束できない。これをなんとか変えたいと思い、今年『ライフワークバランス推進部』を新設した。責任者は女性。男性には男性の特性があり、女性には女性の特性がある。両方を生かしていかなければ新しいことには挑戦できない」
対談に臨む、ハイデイ日高の高橋均社長
はなまるでは10年前から女性活躍推進に取り組んできたが、改めて「ライフワークバランス推進部」を設立したのは、男女に限らず働く人の生活を中心に考え、仕事と両立させなければ、という強い思いがベースにあるという。
一方、女性社員の比率は12.5%だが、フレンド社員(=パート・アルバイト)を含めると56.2%が女性というハイデイ日高・高橋氏は「重い鍋を振らなければならないため、女性には厳しいのではないかという固定観念を持っていたが、5年前から資格制度を取り入れたところ、今は女性のフレンド社員もどんどん鍋を振っている。女性が負担にならない新業態を3つ、4つ考えており、さらに女性の活躍に期待している」と説明する。
【第二戦】安心して長く働けるか
社員が安心して長く働けるかどうかについて、ハイデイ日高・高橋氏は「焼鳥日高など重い鍋を持たなくてもできる業態に異動し、店長業を続けている社員もいる。さらに新業態をつくり、長く勤続できるように考えています」。
会社設立からまだ16年ということもあり、社員の年齢が比較的若いはなまる・成瀬氏は「出産、育児のほか、今後は介護離職の問題も考えられる。新業態を含め多様な働き方に備えたい」と語った。
【第三戦】労働時間
労働時間は、外食産業が「ブラック」と言われる元凶となっている問題だ。
はなまる・成瀬氏は、「残業時間は今年5月で1人あたり平均約30時間。昨年5月は約40時間だった。休みは昨年5月は1人6.2回だが、今年は7.2回。社員は8日間は休むようにアルバイトスタッフの協力を促し、それでも人手が足りなければ店を閉めてもいいとも言っている」と、真剣に取り組んでいることを明らかにした。
社員はアルバイトスタッフに遠慮して「この日は人手が足りないから入ってほしい」と言い出しにくく、自分の休みを返上することで穴埋めしてしまうという背景がある。社員のコミュニケーションのスキルを上げ、全体的によりよい店舗運営をめざしているという。
ホワイト対決を語る、はなまるの成瀬哲也社長
一方、ハイデイ日高・高橋氏は「社員が休みの日も出勤するのは、調理スタッフの確保ができないから。資格制度の導入により調理できるフレンド社員が増え、社員の残業は月約20時間を割っている。また、ドミナント戦略により都内だけで約200店舗あり、ヘルプ制度として近隣の3〜5店舗でチームを作り、人手が不足していればその情報を流し、チームで助け合うことで休みもうまくとれている」と自信をもって語る。両社ともかなり具体的な対策を立て、着実に改善していることがわかる。
「真実しか話していない」
業界に先駆けて働き方改革を進めてきたはなまるとハイディ日高。
「“ホワイト”と自分たちで言ったことはない。基本的には『この業界は入らないほうがいい』と言っている。でも、それは他の業界も同じ」と冗談で会場を沸かせたはなまる・成瀬氏は、「今日は真実しか話していない。今、よくしていこうとしている段階。みなさんが活躍する土台をつくっていくので、自分のやってみたいことにぜひチャレンジしてもらいたい」と学生たちに熱いメッセージを送った。
まだ社会を知らない学生たちにとって、不安なのは入社後に「話が違う」「こんなことは知らなかった」という事態に陥ることだろう。こうして、改善に努力していることを具体的な数字や制度を挙げて正直に説明すれば、安心感は大きく違う。両社の働き方改革への切実な思いが伝わってきたイベントだった。