【OPINION】 死ぬほど働くシリコンバレー文化に価値はない——ハフポ創業者が挑むウーバー改革

アリアナ・ハフィントン氏とトラビス・カラニック氏

ウーバー取締役アリアナ・ハフィントン氏(左)と同社前CEOトラビス・カラニック氏(右)。ウーバーは最近、社員を仕事漬けにする企業文化を改めることを決めた。

Dimitrios Kambouris/Getty Images

シリコンバレーは、オーバーワークの問題を抱えている。そして多くの場合、それはネガティブではなくポジティブに受け止められている。

この傾向は最近始まったものではない。長年にわたって、たびたび指摘されてきた。しかし、ここ数週間で新しい動きが勢いづいている。ペイパル共同創業者の一人キース・ラボイス(Keith Rabois)氏のツイートや、アップルの新テレビ番組の愚かしい広告や、ウーバーCEOトラビス・カラニック氏の退任劇も、この新しい動きを後押ししている。

ついに、オーバーワークを礼賛する考え方は守勢になってきている。全てを得るために全てを犠牲にする必要はないということが、ますます明らかになっている。

ウーバーに目を向けてみよう。同社は、1つのベクトルに加担した大金持ちの取締役らから創業者崇拝まで、最近話題になったあらゆるテーマの発信源だったからだ。

前司法長官エリック・ホルダー(Eric Holder)氏がウーバーのビジネス慣習を調査したところ、具体的な解決策が示された。解決策の一つは、より働きやすい職場づくりに新たに取り組むということだ。かつては「よりスマートに、より熱心に、より長く働く」というのがウーバー社内の合言葉だった。今は「よりスマートに、より熱心に働く」のみとなっている。問題は就業時間の長さではなく、そうした時間の使い方なのだ。

ヤフーが入手した録音記録によると、「ウーバーはデータを重視する。そのデータによると、皆さんはより長時間働いているとき、あまりスマートに働いていない」とウーバー取締役アリアナ・ハフィントン(Arianna Huffington)氏は6月第3週の全社員会議で従業員に語った。

ハフィントン氏はまた、従業員はどこにいようと「常に仕事モード」のまま職場での出来事に対応する必要はないと付言。その理由として「人は消耗していると集中力を失ってしまい」、休養を十分取っているときに比べて「創造的ではなくなる」ことを挙げ、同氏が率いる新たな睡眠促進スタートアップ企業Thrive Globalのテーマに言及した。

仮にウーバーが新しい方針を実践すると、現在の働き方からの大きな方向転換となる。現在、「倒れるまで働け」という精神が、多くのテック企業を突き動かし、シリコンバレーのエリートから褒めたたえられている。まさにその精神を体現してきたウーバーが、少なくとも若干の方針転換を試みようとしていることは、価値ある一歩だ。

カラニック氏は6月第4週にCEO辞任を余儀なくされた。その事実こそが、長時間労働は成功につながるとは限らないということの証拠だ。長時間労働は実際に負の影響をもたらす可能性がある。ウーバーはこれまで大きな人気を得てきたが、その将来はお世辞にも明るいとは言えない。

ニューヨーク大学スターン経営大学院教授アダム・アルター(Adam Alter)氏は、Business Insiderへのメールで次のように述べた。「オーバーワークを褒めたたえる文化は有害だ。その文化は、激務を長期化させている。そして、その働き方が期待されるようになっている。上司が午前3時に送ったメールを部下がどれほど早く返信するかが評価されるようになると、この特殊な労働環境は崩壊する」

なおアルター氏は著書の中で、テクノロジーがいかに人を仕事漬けにするかを論じている。

オーバーワークを褒めたたえる精神は、常に成果を挙げているわけではないのに、これまでシリコンバレーのエリートからアメリカの他の場所へと浸透してきた。今やテックカルチャーといえば、栄養ドリンクを飲んでプログラムコードを書くセッションや、蔓延する性差別のイメージが強い。

最近注目を集めた例は、クラウドソーシングサービスFiverrの広告と、アップル制作の新しいテレビ番組「Planet of the Apps」のTwitter広告だ。

アップル制作の新しいテレビ番組「Planet of the Apps」のTwitter広告

Apple

アップルの広告には、番組に出演したアプリ開発者の次のような言葉が引用されている(ちなみに、彼は求めていた資金を獲得できなかった)。「私はめったに自分の子どもに会わない。それは自ら取らなければならないリスクだ」

公開後すぐに批判が殺到し、このTwitter広告は削除された。

そしてクラウドソーシングサービスFiverrの最近のポスターでは、スマホアプリから料金を支払う人々の気まぐれのためにほとんど死ぬまで働くことが美化されている。「ランチはコーヒー、睡眠不足は薬」とその広告はうたう。

これら2つの広告がメインストリームに登場したことは危険だ。テック産業は我々の経済の大部分を支配している。成功するには他の全てを諦める必要があるというメッセージを、人々に送ってしまうことになる。

本当は、他の全てを諦める必要はない。仕事漬けになることを褒めたたえるメンタリティーは、私たちを滅ぼしてしまう。テクノロジーの影響が大きくなるにつれて、今当たり前に存在する仕事の多くは、自動化などの要因によって消滅することになる。死ぬほど働かないということは、未来への準備を促す教育と訓練になるだろう。

[原文:Working yourself to death isn't worth it, and Silicon Valley is starting to realize that

(翻訳:本田直子)

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