パナ vs. ダイソンの争い 4万円の高級ドライヤーが売れまくる理由

パナソニック「ナノケア EH-NA98」

パナソニックが2016年9月に発売したヘアドライヤーのハイエンドモデル「ナノケア EH-NA98」。実売価格は約2万円だ。

店頭価格1万円以上の、いわゆる「高級ヘアドライヤー」が売れている。調査会社GfKジャパンの調べによると、2016年のヘアドライヤー市場における価格帯別数量構成比は1万円未満が2012年には約89%、1万円以上が約11%だったのに対し、2016年にはそれぞれ約78%、約22%と、高付加価値商品の比率がこの5年で2倍に上昇。

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ヘアケア市場全体はどうかというと、調査会社ユーロモニター・インターナショナルの調べによると、2012年から2016年にかけて国内におけるヘアケア家電製品全般の販売台数は約14%の伸長。しかも、カテゴリーにおけるヘアドライヤーの構成比もほぼ右肩上がりに増加しているのだ。

ユーロモニター・インターナショナルの シニアリサーチアナリスト山口大海氏は、高級ドライヤーに人気が集まる理由について、次のように分析する。

「ドライヤーの基本的機能である乾燥能力においては、各社ともに差異化を図りづらくなってきています。消費者側からはマイナスイオンなどの付加価値に対する期待が高い一方、各社とも似通った機能を押し出した製品を販売しており、メーカー間の競争は激化しています。

また、高価格帯ヘアドライヤーは中国人観光客などによる爆買いの波にもうまく乗ることができました。その背景には、中国SNS大手の『微博(Weibo)』などのクチコミが大きな影響を及ぼしたことが挙げられます」

ヘアドライヤー市場で特に人気が高いのが、イオン機能搭載のドライヤーを皮切りに高付加価値化を進めているパナソニックだ。2014年10月から2017年5月まで32カ月間連続で同社の「ナノケアシリーズ」最上位モデル(実売価格 約2万円)が家電量販店での販売数量シェア1位を獲得し続けている。5000円前後のモデルが中心となっている市場の中で、驚くべき売れ行きだ。

ナノケア「 EH-NA98」

ナノケア「 EH-NA98」のカットモデル。

ドライヤーから発生するイオンが髪の毛の静電気を除去してサラサラにするだけでなく、キューティクルの引き締め効果や頭皮の保湿効果などをパナソニックは実証している。同社の広報は3年近くにわたって高いシェアを獲得し続けている要因について「2014年から始めた20代女性に向けたコミュニケーションの効果と、(訪日外国人の)アジアの女性にもナノケアが支持されたことだと考えています」と語る。

さらに最近注目を集めているのが、ダイソンが2016年4月に発売した「Dyson Supersonic」だ(2017年5月に第2世代モデルが発売、実売価格は4万5000円前後)。「音が静か」で「髪を傷めない」というのを売りにしており、その斬新なデザインとともに多くの消費者に受け入れられている。4万円を超える高額ドライヤーながら、ダイソンによると、現在金額シェアで2位を獲得している状況とのこと。

Dyson Supersonic

ダイソンが2017年5月に発売した「Dyson Supersonic」の最新モデル。

Dyson Supersonicが売れている理由について広報担当者は次のように語る。

「斬新なデザインに加えて、『独自開発のダイソンデジタルモーター搭載によるパワフルな風量が実現する速乾性』と、『モーターなどの主要パーツが手元に収まっているがゆえの高い操作性から、使用時の負担を軽減すること』の2つを、長時間使われるプロのサロンの方々から評価していただいています」

パナソニックとダイソンの売れ方には違いがある。パナソニックはメーカーに対する信頼感はもちろんのこと、「髪が潤う」「髪がまとまりやすくなる」「指通りがよくなる」「つやがアップする」といった”髪質改善効果”を実証しており、その安心感が購買につながっていると思われる。

一方のダイソンは、今のところパナソニックほどにはハッキリと実証にこだわった打ち出し方をしていない。ダイソンの売りである、大風量で「髪を素早く乾かせること」、風温を抑えて「髪を傷めないこと」に加えて、掃除機や扇風機などで培ったブランド力や、これまでにない斬新なデザインなども受け入れられている大きな要因だろう。

パナソニックは、ヘアドライヤーの第1号機を発売してから80年間にわたってヘアドライヤーを作り続け、日本人のスタイリングやファッション、美容意識について研究し続けてきた。彼らに一日の長があるのは確かだ。

パナソニックのホームドライヤーの歴史

パナソニックは1937年に第1号機を発売してから80年の歴史を持つ。

ナノケアの歴史

パナソニックのヘアドライヤーは2016年6月末時点で累計台数700万台を突破したとのことだ。

新生活「一点豪華主義」という消費動向の変化

しかし一方のダイソンも黙ってはいない。同社のパーソナルケア グローバル カテゴリー ディレクターを務めるトム・クロフォード氏は5月に発売したばかりの最新モデルを開発するに当たって、日本で美容ケアについての意識調査を徹底的に行ったと話す。

「初代モデルを改良するにあたって、どのような使われ方をしているのかを深く研究したいと考えて調査したところ、日本は非常にユニークでした。男性も女性もアウタービューティー(スタイリングや仕上がり)だけでなく、インナービューティー(髪や頭皮の健康状態)を重視することが分かりました」(トム・クロフォード氏)

トム・クロフォード氏

ダイソン パーソナルケア グローバル カテゴリー ディレクターのトム・クロフォード氏。同氏が持つのが「Dyson Supersonic」に内蔵する独自開発のモーター「Dyson Digital Motor V9」だ。

頭皮を健康に保つためには素早く乾燥させることが必要なため、髪を傷めない温度かつ大風量という特徴は従来モデルから生かしている。パナソニックのようにイオン機能や温冷モードといった気の利いた機能が付いているわけではないが、日本人のスタイリング傾向を研究して基本性能を改良してきた。

都内のある大手家電量販店の副店長は「自分のケアをお店に任せるのではなく、自分でする方向に変わってきているようです」と語る。

「社会人になったばかりの若い男性でも3万円以上する5枚刃のシェーバーを購入したり、体毛を整える『ボディートリマー』を使うなど、家で自分を高められるものに投資するお客様が増えてきました。

特にドライヤーや、ブラシを替えれば家族で使える電動歯ブラシなど、家族全員で使えるものに対しては高級製品を買うハードルが低くなっているようです。新生活に向けて高級製品を購入する一方で、洗濯機などは低価格モデルで割り切るなど、メリハリをきかせる方も多いです。(ドライヤーに関しては)機能や性能面でとがっているモデルほど売れている印象ですね。逆に安いモデルは売れなくなっています

最近では新生活に向けた「まとめ買い」需要においても、予算をまんべんなく振り分けるのではなく、どうしてもいいものが欲しいというカテゴリーに多めに予算を割り振るという人が増えていると、前出の副店長は話す。「テレビはスマホで見ればいいから、その分を調理家電に回したい」「冷蔵庫だけはいいものが欲しい」と行った具合だ。

高級ヘアドライヤーとしては、シャープの「かっさアタッチメント」付きドライヤー「プラズマクラスター スカルプエステ」も売れている。"かっさ"というのは肌をこすることでツボなどを刺激する中国生まれの道具のこと。これを先端に付けることで頭皮をマッサージするだけでなく、プラズマクラスターイオンが頭皮に届きやすくなり、ヘアエステ効果もあるとして、自社調べながら効果を実証している。

「プラズマクラスター スカルプエステ」

シャープの「かっさアタッチメント」付きドライヤー「プラズマクラスター スカルプエステ」(写真左端)。実売価格1万4000円前後。

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リュミエリーナの「ヘアビューザー エクセレミアム 2D Plus」。


そのほかにもリュミエリーナの「ヘアビューザーシリーズ」(「ヘアビューザー エクセレミアム 2D Plus」の実売価格は3万円前後)も量販店で以前から人気がある。ヘアビューザーは元々業務用で美容院でよく使われていることもあって、口コミで評判が広がっているようだ。

美容家電はヘアドライヤーに限らず、実証効果が曖昧なものも少なくない。高価格帯の商品を手にとって納得してもらうためには、ブランド力やデザイン、確かな効果が重要な要素だ。共通するのは、消費者の心を動かすようなマーケティングが大きなカギを握っている、ということだ。


安蔵靖志:IT・家電ジャーナリスト、AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。記事執筆のほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ〜ンの家電ソムリエ」に出演中。

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