社外コラボツール「Box」の1兆円企業導入が進むワケ —— "働き方改革"は進むか?

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デスクトップOSからスマートデバイスまで、マルチプラットフォームで使える企業向けファイル共有サービス「Box」。

企業向けファイル共有サービスの「Box」が日本で業績を伸ばしている。

Box Japanが6月初旬に開催した「Box World Tour Tokyo 2017」の公式発表では、事前登録者数が昨年の1.5倍に増加(1900人→3000人以上)。同社は日本におけるビジネス状況について詳細は公開していないものの、昨年のWorld Tour開催時期の資料と比較すると、導入を公表した利用企業だけでも、良品計画、JFE、旭硝子、日本通運、富士通など、大手上場企業含む約20社がBoxの導入を始めていることがわかっている。

Boxが日本市場、それも大企業で導入事例を増やしている背景には一体何があるのか?

なぜ、競合の多い「ファイル共有サービス」で大規模導入を進められるのか

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6月に開催されたBox World Tour 2017に登壇した創業者のアーロン・レヴィ氏。現在31歳。2005年に20歳でBoxを立ち上げ、11年余りで名だたる大手クラウド企業をパートナーにもつサービスに育て上げたパワフルな起業家だ。

Boxがユニークなのは、Box自身が共創のプラットフォームとなって、マイクロソフト(Office 365などとの連携)やグーグル、セールスフォース、その他さまざまなエンタープライズ向けのサービスの「データ保存先」としてシームレスに使えることだ。

Box Japanの古市克典社長によると、「今まではセキュリティー上の問題で社外では見られなかったファイルなどを、タブレットやスマートフォンなどからBoxアプリを通して閲覧できるようになる。営業職にも開発職にも便利」という、課題解決型の営業手法で地道に支持を得て伸ばしてきたという。

これまでも顧客企業の要望に応じて日本国内のサーバーにデータを保存できるようにしたり、Boxのアプリやブラウザー上で閲覧できる対応ファイル形式を拡充してきたほか、6月中旬には、クラウド上のファイルをPC上のファイルかのように扱えるデスクトップアプリ「Box Drive」もリリースした。これらを、国家機密にも対応できるセキュリティー水準(実際にアメリカ司法省やイギリス政府機関でも使われている)で利用できるというのが、Boxのテクノロジーだ。

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Boxを知らない人が疑問に感じるのは、世の中には法人向けのコラボレーションツールやファイル共有サービスがたくさんあるなかで、なぜBoxをあえて選ぶ大企業があるのか?ということだろう。

興味深いことに、Boxのパートナー企業を見ると、部分的にサービス競合していそうな会社もある。マイクロソフトやグーグルなどがその一例だ。マイクロソフトを例に挙げると、同社は法人向けに「SharePoint」や「OneDrive for Business」を持っている。

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Boxとパートナーのサービスとの連携概念図。図示しているパートナー企業は一部だが、Slack、Office 365、グーグルのG Suiteなど仕事で欠かせなくなりつつあるサービスとの連携はしっかりと可能になっている。

ここになぜ、Boxが割って入れたのか。彼らが見つけた「入り込む余地」はどこだったのか? 古市氏は言う。

「(マイクロソフトのサービスとの兼ね合いでいえば)結果としてSharePointでは物足りない部分にBoxが採用されるという形で導入されていきました。SharePointは社内のプロジェクト共有では大きな威力を発揮する一方、社内と社外が混ざったプロジェクトでは、その機動力が削がれてしまうという声を聞きます。例えば、(企業の情シスの仕組みにもよるが)社外の人をフォルダーに招待する承認手続きはどうしても煩雑です。

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Box Japanの古市克典社長。東京丸の内のBox Japanにて撮影。

一方のOneDriveはファイル共有には十分ですが、社内外のプロジェクトコラボで複数人でチャットしながら作り上げていくなどの機能がない。その隙間にBoxが入り込んでいった形です。たとえばSharePointを社内向け、Boxを社外向けという形で導入していく傾向があります。もちろん、Office 365などは(マイクロソフトのサービスと一体になっているかのように)シームレスに使える。これをBoxのユーザー体験の良さとして評価をしてもらっていいます」

日本の大企業を取りまく「働き方改革」の追い風

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社内サーバーとBoxとのコスト構造比較。Boxへの切り替え導入のコストを見ると(既に機材をもっている)社内サーバーの方が安い、と判断されがちだが、埋没コスト(サンクコスト)まで含めて考えればBoxの方がコストパフォーマンスに優れている、というのがBoxの主張だ。

とはいうものの、今回のWorld Tour 2017で発表されたような「旭硝子」「丸紅」「JFE」といったいわゆる売上高1兆円超企業の大規模導入を決めていくのは(社内調整も含めて)そう簡単な話ではないはずだ。

これには、まずコスト面のメリットとして、辛抱強く、"大企業自社サーバーの見えないコスト"まで含めた、トータルコストでのクラウドの優位性を伝えていくという方法を採ってきた。並行して、もう一方の突破口として、物理的なサーバー環境に対する、クラウドの「セキュリティの高さ」も訴えてきた。

Boxが日本対応を開始して今年で3年。当初1〜2年は、この手法が奏功してセキュリティ意識の高まりからの大企業の大規模導入を順調に獲得してきた。

興味深いのは、この1年ほどの空気の変わり方だ。導入は順調でも、その理由が変化してきていると古市氏は言う。

「現場の声に耳を傾けると、企業側の心理的な影響として、近年の過労死問題は決して小さくはありません。この問題でクローズアップされた"働き方改革"の社会的な機運の高まりを感じます」

日本の大企業の労働に対する意識の変化が、クラウド営業の現場にも表れてきた、と古市氏は感じている。

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国内企業のクラウド利用率45%という現実

Boxの競合は何なのか?と聞くと、古市氏は即答で「オンプレミスの、いわゆる社内サーバーが最大の競合」と答える。これは半分笑い話だが、もう半分は真剣だ。

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「情報通信白書によると、企業のSaaS(Software as a Service=いわゆるクラウドサービス)利用率はまだ45%程度と半数に満たない。一方のアメリカは2012年時点で70%以上の企業がクラウドサービスを使っています。いまだ日本では、クラウドに行くのは"先進的な企業"だというのが実態なんです」

これだけが理由ではないとはいえ、現実に日本の労働生産性は、イタリアやフランスよりも低いという調査結果もある(公益財団法人 日本生産性本部「日本の生産性の動向2015年版」より)。旧来の仕事の進め方に対して、労働生産性やワークライフバランスの観点からも「変わるべき時期」が来ていることに疑問を感じる人はいないはずだ。

今回の取材に先立ってBox創業者のアーロン・レヴィ氏に実施したインタビューでは、こうも語っていた。

「多くの企業や個人が、より速く効率的にコラボレーションするための力を与えるのがBoxのミッションだ。世界はクラウド技術によってフラットになる、そこで生まれるイノベーションの創出の一翼を担って、さらに加速させていくことが、我々の任務だ」。

働き方改革の風が吹く日本の中で、Boxをはじめとするクラウド技術は企業の労働環境を変えて行けるのか?

それには情シス担当者やビジネスに向き合う現場の声だけではなく、企業経営者側の意識の変革も必要なことは間違いない。

(撮影:伊藤有)

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