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ロンドン名物の黒塗りタクシー「ブラックキャブ」の運転手たちは、難関試験を突破してその運転席に座っているという自負がある。そんな彼らは、ウーバー(Uber)を嫌う傾向がある。運賃と参入障壁の低さが、自分たちの商売を邪魔しているというのだ。
しかし、その背後には複雑に絡み合った別の事情がある。 多くのウーバー運転手は非白人系移民だが、大半のブラックキャブ運転手は白人のイギリス人だ。
ニューヨーク・タイムズは、7月4日(現地時間)の記事で、ウーバー運転手とブラックキャブ運転手の間に人口統計上の違いがあることを指摘した。
以下のロンドン交通局(TfL)の統計によると、ブラックキャブ運転手の大多数が、白人のイギリス人だ。
タクシー運転手の人口統計データ(2017年2月8日)。総計2万4618人のうち、約67.2%を占める1万6648人が白人のイギリス人。
TfL
ミニキャブとウーバーを含むハイヤー運転手のデータは、様相が全く異なる。
ハイヤー運転手の人口統計データ。総計11万7857人のうち、白人のイギリス人はわずか7097人(約6%)。
TfL
ニューヨーク・タイムズの記事によると、ウーバーには、ブラックキャブ運転手から「国に帰れ!」などの差別的暴言を受けたというウーバー運転手の声が、月に数百件寄せられている。あるケースでは、ムスリムの女性運転手が、ブラックキャブの運転手から運転しないように言われた上に、スカーフを外すように迫られたという。
また、前述の記事でインタビューに応じたウーバー運転手も含め、多くのロンドン市民が 昨年のEU離脱を問う国民投票で、残留を選択したが、 取材に応じたブラックキャブ運転手の大半は、 EU離脱に投票したという。
ブラックキャブ運転手ポール・ウォルシュ(Paul Walsh)氏は、投票の理由について次のように説明した。
「ロンドンには、ユグノー、ロシア人、第二次世界大戦後のユダヤ人などの難民を受け入れてきた偉大な歴史がある。だが難民と経済的移民は違う。経済的移民たちはここへ来て、我々の生活水準を押し下げている。『やめろ』と言わなければならない日が来る」
ウォルシュ氏は、これは「人種差別ではない」とし、「ブラックキャブ運転手の多くはユダヤ人とアイルランド人だ」と付け加えた。
突き詰めると、ウーバー運転手とブラックキャブ運転手のどちらも真の勝者ではない。それは、ニューヨーク・タイムズの記事と広範な証拠の両方が示唆している。
自分の車に4万5000ポンド(約660万円)を注ぎ込んだブラックキャブ運転手も、今は十分に稼げていない。ある運転手は「コストを回収するのでやっとだ」と話した。
ウーバー運転手ザーラ・バッカリ(Zahra Bakkali)氏の稼ぎはもっと悪い。ウーバーから週に300ポンド(約4万4000円)を受け取っているが、家族は生活保護に頼っている。ウーバーが新しい登録運転手から徴収する手数料の割合を、20%から25%に引き上げた後に運転手の仕事を始めた人は、もっと厳しい。
source:TfL
[原文:Uber in London has become a war between white working-class cabbies and non-white immigrants]
(翻訳:本田直子)