松本晃カルビー会長×高岡浩三ネスレ日本社長が20代30代に語る(後編)「先の見えない時代の働き方」

カルビー会長の松本晃とネスレ日本社長の高岡浩三。日本を代表する経営者による対談の後編では、20代30代に向けて、「何のために働くのか」「先の見えない時代の闘い方」を語ってもらった。

カルビー松本会長とネスレ高岡社長

顧客が喜ぶことがビジネスの基本だという共通の原体験を持つ松本晃カルビー会長(右)と高岡浩三ネスレ日本社長。

高岡:最近、企業では、かつてのビジョンに代わって、一体何のためにその企業が存続しているのか、「パーパス(目的、存在意義)」を考えることが、企業の存続と成長と社会に対する貢献につながるという考えが出てきました。 この考えは、個人にも極めて同様に当てはまるのではないかと思っています。 私は、 社長になるとか部長になるとかではなく、一体社会にどう貢献して働くのかを考えることが、モチベーションを維持するいちばんの源泉ですし、細かい目標設定をするための一つの方法ではないかと考えます。

Business Insider Japan(以下、BI):高岡さん自身の経験でしょうか。

高岡:私はネスレのブランドマーケティングで人を幸せにしたいとか、「ありがとう」と言われたいという思いがずっとありましたが、本当にそれが実感できたのは40代になってから、キットカットの受験生応援キャンペーンなんですよ(*キットカットが九州弁の「きっと勝つとぉ」に発音が似ていることから、受験生の間で「お守り」のような存在として広まり始めていたことを受けて、2003年から「キット、サクラサクよ。」というキーメッセージとともに受験生を応援する活動を全国で展開。この活動は現在まで毎年続いている)。

「世のため人のため」が必要条件

松本:僕は39歳で伊藤忠の子会社の医療機器輸入販売会社に営業本部長として出向しました。高度技術が必要な医療機器を取り扱っていたため、しょっちゅう病院の手術室に詰めていたんです。僕も手術着を着用していたので、手術が終わって手術室から出てくると、患者さんの家族が「ありがとうございました」と心から感謝してくれました。 仕事で人に感謝される喜びを深く実感したのはその時です。それまでは、金儲けにギラギラしてましたが、やっぱり「世のため人のため」が仕事の必要条件で、その結果の十分条件として「儲かる」があるんだということが分かったんですね。それ以降、私は、ずいぶん変わりました。

高岡:松本さんが患者さんから「ありがとう」と言われたのと一緒で、受験生応援キャンペーンで初めて「ありがとう」という手紙がたくさん届いたんです。食品会社は買っていただいたお客様にこちらからお礼を申し上げますが、お礼を言われることは通常ありません。「キットカット」に勇気をもらったとか、多くの手紙をいただいたときに初めて人に喜んでもらえるうれしさを実感して、「ブランドで人を幸せにする」ことを理解しました。ブランドを考えるときに、その商品の属性だけを考えていたらダメだなと。

ネスレの高岡社長

そもそもブランドマーケティングへの興味からネスレに入社したわけです。きっかけは、大学生だった1980年代前半はルイ・ヴィトンやBMWなど、ラグジュアリーブランドの全盛期で、ブランドで人の気持ちを幸せにできるというところが面白いと思っていました。それが、食品というカテゴリーでも可能だという答えが出たんです。

BI :20代30代でも社会のために、と意識することは大切でしょうか?

松本:そう思いますが、一方で、本当にそのことに気づけるかどうかは、分かりません。最初から押しつけても、実感として本当に分かるかどうかは別でしょう。

顧客の問題を考えることは新しい現実を見ること

高岡:そうですね。私も、「マーケティングとは何か」と本当に分かってきたのはこの3年ぐらいです。私はマーケティングを「顧客の問題解決」と定義していますが、一方で、どんな仕事でも誰かのために働いている。「誰か」という顧客の問題を解決すれば、「ありがとう」と言われるわけです。 つまり、どんな仕事をしていても、人に喜ばれる幸せを感じることはできると思うんですよね。それが結果としてマーケティングですし、そこからイノベーションやリノベーションが生まれる。そんなふうに考えると、どんな仕事も捨てたものではないですよ。

BI :高岡さんはあの(マーケティング論の大家)フィリップ=コトラーも認めるマーケッターですが、イノベーションの発想には特別なコツはなく、とにかく考え続けるだけだと言っています。

高岡:顧客の問題を考えるということは、新しい現実を見るということです。現実は常に変化し続けていて、10年前、20年前と違う現実がある。そうすると、顧客の課題も変化するんです。それを正しく捉えられると、顧客の気づかない問題が見えてくるんです。

例えば、車を例にとると、私たちの世代が若い頃には、車を持ってないと女性にモテなかった。当時、女性からは「車、何乗ってるの?」とよく聞かれたものです。今、若い世代の多くは車を所有したがりません。そうすると、カーシェアリングというイノベーションが生まれる。

20世紀は「モノ」でほとんどの問題が解決されていた時代ですが、Airbnbやメルカリなどのサービスを見ても分かるように、21世紀のイノベーションの多くはインターネットを組み合わせた「サービス」で問題解決をしています。それくらい、ITは不可欠な要素になりました。

カルビー松本会長

松本:昔と違って、先が読めない時代です。でも、先が読めないということは、誰にも非常に大きなチャンスがあるということだし、同様にリスクも同じくらいあります。我々の時代は成功する人と、普通の人の差がそれほど大きくなかった。今の時代に生きる人は、やり方次第では大きな成功をつかむ可能性もある。幸せですよね。

高岡:小さいものが大きいものを制することがなかった時代は終わり、今は企業規模や資本金などは関係なく、誰が勝つかわからない時代です。ネスレであっても、いつどこで世界の小さな会社に負けるかもしれません。そういう意味では、混沌としている。逆に言うと、やり方次第では誰でも勝てる時代です。

28歳だったら野心を持ってテクノロジーを学ぶ

BI :ミレニアル世代へ、闘い方のアドバイスをお願いします。

松本:まず、違ったことを学ぶことですよ。学校で学んだことは社会人として何かを成し遂げるためにはほとんど役に立ちません。例えば、いま僕が28歳だったら、新しいビジネスにつなげられるかを考えて、野心を持ってITテクノロジーを真剣に学ぶでしょうね。

高岡:いま、面白いと思うのは20代後半から30歳ぐらいのスタートアップ企業のオーナー経営者たち。彼らは超高学歴からそうではない人までさまざまで、資金力もないのですが、共通しているのは、面白いことにみんな私にマーケティングを教えてくれるんですよ。 それはつまり、どんなに一流の大学を卒業しても、社会ですぐにビジネスに役立つものはそんなにないということ。学歴はベンチャーの成功の絶対条件ではないんですね。彼らと話していると、志の果たし方、達成の仕方には選択肢がいっぱいあることを感じます。インターネットの普及により、起業のチャンスが広がっている時代ですから、いろんなことにチャレンジしてほしいですね。

カルビー松本会長とネスレ高岡社長

松本:就職する場合は、ある程度自由なことをやらせてくれる会社を選ぶことを勧めます。面白くなければ今の時代は辞めればいいんですよ。ただ、転職しても同じようなキャリアで横滑りしていくのは闘い方としては賢くない。いかに自分に力をつけて、異なる組織を渡り歩きながらステップアップしていくか。そのためには、やっぱり、自分の人生のゴールセッティングをまず定めることでしょう。そうすれば、働く場所が変わっても、自分のこつこつやるべきことは見失わないでいられるはずです。

高岡:自分の置かれている立場で、いろいろ小さいレベルでトライしてみるのが大事ではないかと。私がたとえ日本法人の社長でも、ネスレのスイス本社から新しいビジネスで承認を得るのはなかなか難しい。だから「ネスカフェアンバサダー」を始めるときもそうでしたが、最初は小さなレベルでやってみて、誰もが納得せざるを得ない結果をもってプレゼンに臨むと、突破できるんです。

それはスタートアップの経営者も同じで、投資家に出資を募る際に、具体的なトライアルの成果があるのとないのとでは投資家の関心の持ちようも全く違うはずです。 まずは小さくトライする。これをぜひ勧めたいですね。 (本文敬称略)

(撮影:今村拓馬)


松本晃(まつもと・あきら)カルビー代表取締役会長兼CEO。1972年、京都大学大学院修了後、伊藤忠商事に入社。センチュリーメディカルに取締役営業本部長として出向。1993年にジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル(現・ジョンソン・エンド・ジョンソン)に入社。1999年より同社社長。2009年より現職。NPO「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」理事長なども務める。

高岡浩三(たかおか・こうぞう)ネスレ日本代表取締役社長兼CEO。1983年、神戸大学卒業後、ネスレ日本に入社。ネスレコンフェクショナリーマーケティング本部長として「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。2005年、同社社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長、同年11月より現職。「ネスカフェ アンバサダー」などの新しいビジネスモデルの構築を通じて高利益率を実現する。

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