北朝鮮がICBM発射 トランプ強硬路線は手詰まり

テレビに映る金正恩

プロパガンダ要素が強いものの、米本土まで届くICBMの完成は専門家の予想より早まりそうだ。

Chung Sung-Jun getty images

北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星14号」の発射実験に初めて成功したと発表したことについて、トランプ政権は7月4日、このミサイルがICBMだと認めた。

米太平洋軍は初期段階の分析の結果として、このミサイルが中距離弾道ミサイルと発表したが、米国務省も米国防総省(ペンダゴン)も同日中にその見方を覆し、「アメリカは北朝鮮による大陸間弾道ミサイルの発射を強く非難する」との声明を出した。

北朝鮮によるICBMの発射実験は、同国のミサイル技術の向上を誇示し、アメリカやその同盟国の日韓に対する北朝鮮の脅威が重大な段階に入ったことを示している。

「大気圏再突入」は本当なのか

北朝鮮は南北統一と朝鮮民族の統一という国是を実現するため、米本土を射程に収める核弾頭搭載のICBMを手中に入れ、アメリカによるいかなる軍事介入のリスクも排除しようとしている。同時に、ICBMは朝鮮半島有事の初期段階で、在韓米軍や在日米軍を攻撃できる北朝鮮の戦域核兵器(地域的に限られた目標を攻撃する中距離核兵器)の有効性や信頼性をぐっと高めることにもつながる。これはアメリカや日本、韓国にとって、さらなる脅威の増大に他ならない。

北朝鮮はこれまでニューヨークやワシントンのようなアメリカの中枢まで打撃を加えることのできるICBMの火星13号(米国のコードネームKN-08)とその改良型となる火星14号(KN-14)の開発を急いできた。これまで多くの軍事専門家は、北朝鮮が米本土に打撃を与えるICBMを完成するのは今後4〜5年以内との見通しを示していたが、今回のICBMの初実験の「成功」でその見通しがきっと前倒しになるはずだ。

ただ、北朝鮮にとって課題が全てクリアになった訳ではない。

ICBM完成には今後も発射実験が何度も必要となる。特に、熱遮蔽(しゃへい)物質の開発やミサイル誘導システム、エンジン開発、ロケット分離などに課題が残っているとみられている。

特に、今回のミサイル発射のように燃料が液体だと、注入など「発射準備」に時間がかかるので、事前にアメリカや日本の監視システムで発射準備の兆候が見つかりやすい。本格的な固体燃料ミサイル技術の開発ができるかどうか。

また、北朝鮮の朝鮮中央通信は5日、火星14号の発射実験に関し、大気圏再突入技術の「最終確認」が目的で「大成功」だと報じたが、はたして本当かどうか。プロパガンダではないのか。大気圏外に出たミサイルの弾頭が大気圏に再突入する際、高い熱や圧力、摩擦がかかるが、ICBMの弾頭部分がそれに耐えられているのかどうかまでは、定かではない。

米本土に打撃を与える射程1万キロのICBMの場合、大気圏への再突入時には速度がマッハ24(秒速8.1キロメートル)に達し、弾頭部分の温度は4000-7000度の高熱に達するが、韓国当局が指摘するように、弾頭の大気圏への再突入技術が本当に確立されたかどうかは確認されていない。こうした技術の開発にはなおも時間がかかるとみられる。

6000キロ以上に到達する可能性も

北朝鮮の発表によると、火星14号は、通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射され、過去最高高度の2802キロまで到達、933キロを飛行して日本海に落下した。飛行時間は39分間。

ICBMとは他の大陸を射程距離に収める地上発射式の弾道ミサイルのことで、その有効射程距離については、米ソの戦略兵器制限条約(SALT)をめぐる交渉で5500キロ以上と定義された。冷戦時代の米ソのICBMは約30分で約8000キロ飛行するとされた。

筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」の分析によると、火星14号が通常の角度で発射した場合、射程は約5700キロに達するとみている。エンジン燃焼停止時の速度と、その後の大気圏への再突入速度は秒速約6キロメートル前後。これは、米航空宇宙局(NASA)の大型無人探査車「キュリオシティー」が火星の大気圏に突入したスピードに匹敵する。

かりに火星14号が地球の自転の向きと同じ西から東方向で発射されれば、6000キロ以上に到達する可能性がある。この射程であれば、北朝鮮から約3400キロ離れた米軍の要衝グアムはもちろん、米アラスカ州の全域やカナダ北部の一部が射程に入ることになる。ただし、約7000キロの距離にあるハワイや、8000キロ以上離れた米国の西海岸には届かない。

ミサイル発射を報じる番組

北朝鮮のミサイル発射を報じる韓国のテレビ番組

Chung Sung-Jun Getty Images

北朝鮮の主眼は核抑止戦略

2段式の火星14号は、5月14日に発射された1段式の新型中距離弾道ミサイル「火星12号」との類似点が見られた。両ミサイルとも、後端に同じような円錐型スカートを有する。さらに、安定飛行させるための4つの小型の姿勢制御用バーニアエンジンの補助を受けた、主エンジン一基を利用する推進装置を用いている。

また、点火時やモーター駆動時にみられたオレンジ色の煙から判断し、火星14号の1段目エンジンは、四酸化二窒素(NTO)酸化剤と非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)の混合物を推進剤に使っていると考えられる。この保存可能な推進剤は火星12号でも利用されているとみられている。

火星14号の名称をめぐっては、現在、内外のメディアの一部で混乱がみられる。今年6月27日に公表されたペンタゴンの報告書「弾道・巡航ミサイル脅威」によると、ICBMの火星14号は、2015年10月の軍事パレードで公開された2段式のミサイルだとみなされている。この火星14号は、もともと同じICBMである火星13号の改良型。火星13号は3段式ミサイルで、2012年から13年にかけて軍事パレードで登場した。

このため、火星14号はしばしば「2015年型火星13号」として言及されてきた。ところが、実際は上記のように火星12号との類似点が目立っている。

ドイツ・ミュンヘン在住のミサイル専門家、マーカス・シラー博士は筆者の取材に対し、

「今回発射されたミサイルは、2015年10月に公開されたKN-14(火星14号)とは違って見える。2段目や弾頭部を見れば一目瞭然だ。私にとっては、今回発射されたミサイルは、KN-14でも、KN-08でもないと思える」

と指摘した。

さらに、アメリカの「憂慮する科学者同盟」に所属する物理学者のデビッド・ライト氏が、今回のミサイルが通常の角度で発射されていたら約6700キロの距離を飛行できた可能性があると指摘したことについて、シラー博士は「デビッドは正しい」としながらも、

「問題は、北朝鮮が弾頭部を全部ダミーのままで発射していなかったかどうかだ。現在、それを突き止めようとしている。その『弾頭』が実物よりも軽く、それで飛行距離がより長くなった可能性がある」

と話した。

米国とエスカレーションゲームを続ける北朝鮮だが、核弾頭の保有数ではアメリカの足元にも及ばない。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は北朝鮮が今年1月現在、10~20発の核弾頭を保有しているものと推定している。一方のアメリカは6800発だ。

このため、北朝鮮は中国やフランス、イギリスといった他の核保有国と同様、核戦力を使った最小限抑止の戦略に基礎を置いていくものとみられる。つまり、攻撃を受けた場合、報復攻撃を行い、アメリカや韓国に対しても耐えがたい被害を与えることに主眼を置いていく戦略だ。

いずれにせよ、北朝鮮の核ミサイル戦力が向上するなか、米国による先制攻撃はますます難しくなってきていることは間違いない。

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