13インチながらA4用紙よりも底面積が小さいクラムシェル型のMateBook X。画面へのタッチ操作には未対応。
発表会のゲストとしてタレントの乙葉さんが登場した。2in1タイプの「MateBook E」でペンを使って七夕の短冊を書き込んだ。
7月4日、ファーウェイ・ジャパン(以下ファーウェイ)は都内にて製品発表会を開催し、キーボード脱着型の2in1「MateBook E」と、新たにクラムシェル型(折りたたみ式)の「MateBook X」、2つのモバイルPCを日本市場に投入することを発表した。
MateBook Eは9万2800円(税別)から、MateBook Xは14万4800円(税別)から。いずれも7月7日から発売開始する。
通信関連のメーカーとしては世界トップクラスのプレイヤーになったファーウェイだが、PC市場参入は2016年2月で、PCメーカーとしては新参だ。
PC市場は市場規模が縮小し続けており、一般的にはうまみの少なくなった市場とみられている。なぜ、今の段階から本格参入を始めるのか? そこにはファーウェイのしたたかな戦略が垣間見える。
スマホで積みたブランドで狙う高価格帯市場
PCの出荷台数は年々減少傾向にあり、2020年には2015年の半数近くまで減ると予測している。
一方でウルトラスリムや2in1の市場は成長しており、2020年には従来型のPCを越えると予測。
IT専門調査会社、IDCの調査によると、PC全体の出荷台数は年々落ちているが、薄型の"ウルトラスリム"や、ノートPCとしてもタブレットとしても使える"2in1"といったモデルの出荷台数は急増している。2020年には一般的なノートPCよりもウルトラスリムや2in1が出荷台数で逆転すると予測している。
ファーウェイ・ジャパン代表のゴ・ハ氏は、日本のPC市場への本格参入に次のように答えている。
「PC市場が縮小しているといっても、モビリティーや操作性に優れた製品をユーザーは待ち望んでいる。(我々は)新しいブルーオーシャンを作り出す」
そのためファーウェイは低価格路線ではなく、モバイルの分野で培ってきた技術を投入した、高価格帯での参入を選んでいる。
これまで、同社はスマートフォンやタブレットで市場が未成熟のうちに参入し、低価格モデルからスタートした。そこである程度のブランド力を高めた上で、現在はスマートフォンでは高価格帯のハイエンドモデルモデルへとシフトしてきた経緯がある。
グループインタビューに応えるファーウェイ・ジャパン代表のゴ・ハ氏。
一方のPC市場はすでに成熟しきった市場だ。特に10万円以下のノートPCに関しては、価格勝負のレッドオーシャンになっている。ゴ氏は「家電量販店などではPCコーナーに行くと20台、30台と数多くのPCが展示されている。これ自体は多くの選択肢があっていいことだが、イノベーションに欠く製品では埋もれてしまう」と、特徴のあるプレミアムモデルを投入して目立たせる戦略にこそ意味があると強調する。
PC市場はいまや家電量販店などで購入される個人向け市場よりも、企業・官公庁向けの法人向け市場のほうが大きい。MM総研の調査によると、2016年の日本国内市場は個人向け市場の出荷台数が401.5万台に対して、法人向け市場は607万台となっている。こうした構図のなかで、PC市場でシェアを伸ばすためには、法人向け市場にも力を入れなければならない。
「法人営業部隊がPCを取りに行く」
この点についてゴ氏は「ファーウェイは通信機器としてスタートし、現在は(法人向けの)サーバー製品なども販売している。法人営業の経験は十分にあると同時に、非常に重要だと認識している」と説明。発表会の中でも8月に法人向けのモデルを展開するとアナウンスしている。海外向けには15.6インチのクラムシェル型「MateBook D」もラインナップしており、法人向けにこうしたモデルの追加もあるのかもしれない。
なお、PC市場に参入して約1年ということで、アフターサポートについても気になるところだ。この点については「(サポート体制は)SIMフリー市場のアフターサポートと共有しており、電話やオンラインでの問い合わせのほか、銀座や梅田のサービスセンターで対面サポートも受けられる」とのこと。さらに「中規模都市でもこういったサービスが受けられるようにしたい」とサポート体制の強化も図っていく方針という。
今回発表された「MateBook E」と「MateBook X」は最上位モデルのCPUにインテル製の第7世代Core iシリーズを搭載している。通常Core iシリーズはパワフルなパフォーマンスが実現できるものの、その代償として発熱が問題となる。そのため一般的なCore iシリーズ搭載ノートPCはファンによる排熱を行うが、「MateBook E」と「MateBook X」両モデルとも、ファンレス設計となっている。
スペース・クーリング・テクノロジーでハイエンドCPUながらファンレスを実現した。「MateBook X」。
「MateBook X」は現行のMacBook Pro 13インチよりも2.4mm薄い12.5mm。
特にクラムシェルタイプの「MateBook X」は宇宙産業にも使われている放熱素材を用いてCPUなどが発する熱を本体背面へまんべんなく放熱するシステムを採用。厚さ12.5mmでMacBook Pro 13インチモデルよりも薄い、とアピールしている。ちなみに、第7世代Core iシリーズでのファンレス化は、マイクロソフトが発売中の新しいSurface Pro(ファンレスはCore m3モデルとCore i5モデル)も同様。同じ2in1カテゴリーであるMateBook Eとの厚さ比較では、Surface Proが8.5mm、MateBook Eが6.9mmだ。
またサウンド面ではドルビーとの共同開発により、「Dolby ATMOS」をノートPCとしては世界で初めて搭載。これは同社のAndroidタブレットにはすでに搭載されている技術だが、ファーウェイにとってはPCも映画や音楽といったコンテンツを楽しむためのデバイスという位置付けにあることがわかる。
ファーウェイはPC市場でも存在感を出していけるのか? それには、個人向けの強気なプレミアム戦略と、価格が重視される法人向け戦略をうまくバランスしていかなければならない。
(※2017年7月10日訂正 取材先からの指摘により、一部発言の取り違いを改めました。読者の皆さま並びに関係者各位にお詫びして訂正致します)
MateBook Xのキー配列
キー配列はいたって標準的で使い勝手は良さそうだ。
薄さにこだわった設計。拡張と充電に使うUSB端子は最近増えて来たType-C
拡張用の端子はUSB Type-Cのみで、充電もType-Cを使用する。
同社のスマホで評判の良い指紋センサーも搭載
電源一体形の指紋認証センサーを搭載。
2in1の「MateBook E」
キーボード着脱式の2in1タイプ「MateBook E」。
MateBook Eを側面からチェック
キーボードカバーは同梱となり、スタンド部も無段階で開けるなど改良が加えられている。
キーボードを取り外せばタブレットとして使える
(撮影:中山智)
中山智:海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。