20代は大企業での下積みに耐えるべきか——僕がドコモを1年で辞めベンチャーに転職した理由

西新宿の路上でたたずむ升井優さん

「自分のことは自分で選択したい」と考えた。

撮影:今村拓馬

異動を待つのはギャンブル

「決めるのは会社であって、自分ではない。異動を待つのはまるでギャンブルだ、と思いました」

新卒でNTTドコモに入社した升井優さん(26)の最初の配属先は、埼玉県の支店だった。担当は法人営業で、圧倒的な大手ならではの既存顧客の囲い込みが中心だ。企業や役所に新サービスの提案に回った。

入社後3年は下積み期間として営業をやるのが、事務系社員の新人が通る道だ。その先、本社に行くのか。支社へ行くのか。何の担当になるのか。当然ながら、まったく分からない。 日々の営業の仕事も、「勉強にはなったが、5年、10年先の自分が容易に想像できてしまった」

大阪府出身の升井さんは、京都大学で経済経営学を学んだ。

「将来はグローバルでマーケティングをやりたいと漠然と考えていて。大手企業の短期インターンに複数参加し、働いている人に好感が持てて社会的影響力も強いドコモに即決しました」

入社してみて分かったことは正直、たくさんある。国内市場で十分事業が回っているので、海外開拓にそれほど力は入れていないと感じた。大きな案件を動かすにも気の遠くなる承認フローが待ち受け、自分で案件を提案し回していくハードルが高すぎる。「退屈すぎてこのままでは、まずい」と思い悩むようになった。

「週末に同期や友達と集まって同じような愚痴を言っていても、何も変わらない」

ただ、英語を磨いて海外で仕事をしたいと思っていても、じゃあ具体的にどうするのか、という考えはなかった。

インタビューに答える升井さん

スタートアップでの日々は「土日返上で働いても一切、苦ではなかった」

撮影:今村拓馬

入社して1年が過ぎた夏。周囲と話すと、「とりあえず2年後の異動の内示を待つ」という結論になる。内示までの2年間を我慢するのか。我慢せずに2年間を別の何かに使うのか。

「自分はその2年を無駄にしたくないという気持ちが強かった。だったら自分で選択したい、と」

腹が決まれば、速かった。次の具体的プランはなかったが、とにかく行動しようと7月に退職願を出した。サンフランシスコに行くことだけは決めていたため、引っ越し準備や現地の情報収集を進めた。

ある日、SNSによる転職マッチングサービスWantedlyでふと見つけたスタートアップが、「日本の文化を世界に発信する」という興味のど真ん中の事業だった。今後の参考に話だけ聞いてみようと、ボタンを押した。 それが、日本のオタク文化を世界中のファンに届けようと、海外向けEコマースサイトを運営するTokyo Otaku Mode(トーキョーオタクモード=TOM)との出合いだった。

年収下がっても「未来への投資」

「そこで過ごした2年は、5年以上にも感じるほど濃密な日々でした」

スタートアップの話の進め方はとにかく速い。ボタンを押した瞬間にプロフィールを送ってほしいと返信がきて、「すぐ会いたい」という。軽い気持ちで話を聞きに行ったその日に、人事担当者と経営トップが出てきて、突っ込んだ話になった。

アメリカに行くつもりだと話すと、「アメリカの拠点をつくる。プライベートもいいけど、ビジネスで行くのも面白いんじゃない?」と誘われた。

2012年設立のTOMは、今でこそ、官民ファンドのクールジャパン機構から出資を受けるなど、有望スタートアップとして知られるが、升井さんの入った当時は「とにかくいい意味でも悪い意味でも、何もオーガナイズドされていない状態だった」 。 才能あふれる強者たちと働く日々は「強烈に面白かった」という。

スタートアップでの仕事はイチから自分で作り上げるしかない。マーケティング担当となり、SNSの発信やメルマガ制作に打ち込んだ。海外事業をやりたい一心で、社内の海外営業担当者について仕事を覚え、そのうち自分が担当になった。年収は下がりボーナスもなかったが、「未来への投資」と割り切っていた。土日返上で働いても「それが一切、苦ではなかった」のだ。

漠然と「今の仕事ではない」と感じる同年代

大手企業を辞めてスタートアップに転職した夏から約3年。現在、升井さんはTOMを巣立ち、ユニコーン企業と呼ばれる、米西海岸の巨大ベンチャーの日本オフィスで働いている。シェアリングエコノミー系サービスで世界190カ国以上に展開し、一世を風靡している企業だ。

日本と海外を行ったり来たりする毎日で、この半年でも米西海岸、シンガポール、ベルリンと国境をまたいで仕事をしている。 会社は日常業務に支障がなければ何をしても自由だ。現在は個人でデジタルマーケティングのコンサルティングを請け負ったり、ライター、PRの仕事も組み合わせたりと、ポートフォリオワーカーでもある。

出張後訪れたアイスランドで見つけた墜落船と升井さん

出張で訪れたアイスランドで。

提供:升井さん

TOMは「辞める気は全くなかったし、今でも一緒に仕事をしている大切な場所」。それでも新しいチャンスに、ふと乗ってみた。SNS経由で募集を知り、話を聞きに行ったことからまた道が拓けた。

升井さんの元には現在、Facebookなどを通じて、進路に関する相談が寄せられるという。今の仕事が「つまらない」「どうしよう」と悩む20代、30代が、話を聞きたいとやってくる。

ブラック企業だったり、上司が最悪だったりすれば話は早い。けれど、大きな不満はないのに、今の仕事ではないと漠然と感じている同年代は多いです

まず口に入れてみるしかない

バブル崩壊後の1990年代半ばから、就職後3年の離職率は3割超を維持して久しい。 離職後は非正規雇用に流れ込んだ時代とは違い、若手不足の現代では20代の転職は引く手あまただ。 とはいえいまだに、「できれば定年まで一つの会社で働きたい」という20代も少なくない。

三菱UFJ リサーチ&コンサルティングの「2017年度新入社員意識調査」では、「自分にもっと合った会社があれば転職したい」が51%、「定年まで同じ会社で働きたい」49%と、転職派と終身雇用派が拮抗する。

終身雇用に象徴されるような、高度成長期以来の働き方に根付く旧来の価値観も根強い。終身雇用的な価値観とスタートアップやフリーランスで自由に働く価値観との両極が入り混じる現代で、ミレニアル世代は揺れている。

「Wantedly(ウォンテッドリー)のユーザーの多くも、大企業とスタートアップで迷う学生は多いです。その場合はとりあえず、大企業に行ってもらって(本当にどうしたいのか)考えてもらわないと仕方がないかなと思っています」

転職・就職をマッチングするビジネスSNSサービスで急成長し、ミレニアル世代に「転職、就活の必須アイテム」と呼ばれるようになったWantedlyの仲暁子CEOはいう。

「巨大資本による就活ビジネスの先には大企業志向があって、そこから逃れるのはけっこう難しい」

ただ、多様化する現代で共通の解があるわけではもちろんない。

「バリバリ働きたい人ばかりではない。ミレニアルでも家族とゆったり過ごせたらそれでいい、という人はけっこう多い。職業も企業も生まれては消えていきます。自分にとっての幸せは何かを早い段階で見つけて、方向だけを見極めていけば道に迷わない。もちろん、決めるのは難しいので、いろいろ体験するしかない。人からおいしいまずいと聞くだけでなく、口に入れてみなければ」(仲さん)。

渋谷の交差点風景

価値観の狭間で揺れ動く世代

撮影:今村拓馬

升井さんは、日本で指折りの大企業を1年で辞めて、誰も名前を知らないようなスタートアップに飛び込んだ。そこで初めて「仕事は待つものではなくて自分から取りに行くもの」と身にしみたが、今なら分かる。

「それは大企業でも同じ。どこにいても仕事のできる人はそうしている」

ただ、大手の現実も、そこを辞めてスタートアップに飛び込むことも、そこでの経験を糧に次のステップに進むこともすべて「やってみなければ分からなかった」 。大企業かベンチャーか。普遍的な答えはどこにもない。分かっているのは「正解を決めるのは自分」ということだけだ。


升井優:米国のとあるユニコーン企業のデジタルプロデューサー。フリーランスでマーケティングやPR、旅やキャリアなどの分野でライター業も。京都大学経済学部卒業後、NTTドコモに入社。その後、Tokyo Otaku Modeに参画し、グローバルマーケティング・パートナーシップ・海外イベントを担当した後、2016年から現職。

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