マイクロソフト・クラウド & エンタープライズグループ幹部のスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏
Microsoft
マイクロソフトは、アマゾンの企業向けクラウドサービス、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に対抗するための秘密兵器を持っていると長らく主張してきた。
その秘密兵器とは、マイクロソフトのビジネス・ソフトウエア市場の開拓だ。この戦略は、2015年5月に同社が公開した「Azure Stack(アジュール・スタック)」で最も顕著になった。Azure Stackは、同社のクラウドサービス「Azure」同様のクラウドを、顧客自身のデータセンターで構築可能にするものだ。
そして、計画に多少の遅れはあったものの、ついにこの秘密兵器が世に出る時が来た。
マイクロソフトは7月10日(現地時間)、デル EMC、レノボ、ヒューレット・パッカード・エンタープライズの3社が、Azure Stackをシステムに搭載した製品の受注を開始したと発表した。出荷は9月からとなる。シスコシステムズや中国のファーウェイによる取り扱いも近く始まると言う。
Azureはマイクロソフトの巨大なデータセンターからインターネット経由で、基本的に無制限にスーパーコンピューティングの処理能力を提供するクラウドサービスで、利用料金は従量課金制。一方、Azure Stackはそれを搭載したハードウエアを購入し、自身のデータセンターに接続すれば、表面上は「本物」のAzure同様にシステムが稼働する。利用料金は使用しているモデルやプランによって異なり、従量課金制もしくはシステムのコア数に基づく固定料金制だ。
これは、AzureやAWS、Google Cloudなどのいわゆるパブリック・クラウドサービスにインフラを移行するつもりがない、もしくはできない企業にとって、非常に重要だ。
ハイブリッドモデル
Azure Stackの背景にあるキーコンセプトは「ハイブリッド・クラウド」として知られる、マイクロソフトが以前から示してきたアイデアだ。
AWSやAzureに代表されるクラウドコンピューティングは、従来のデータセンターのアプローチを様々な点で上回っている。例えば、従来のデータセンターでは大抵、個々のハードウエアの性能は最大限には活用できていない。つまり、リソースに多くの無駄が生じている。
一方でクラウドコンピューティングは、リソース管理において従来のデータセンターよりもはるかに優れている。リソースをひとまとめにし、必要に応じてそこからソフトウエア・アプリケーションに割いていくことで、個々のハードウエアをより効率よく使用できる。
AWSのCEOアンディ・ジャシ―(Andy Jassy)氏
Amazon
この効率性を徹底的に重視するアプローチによって、AWSやAzureは顧客にこれまでにない低価格でスーパーコンピューティングサービス提供することができる。大抵の場合、1時間あたりの利用料は10セント(約11円)以下だ。アマゾンはこれを「好循環」と呼ぶ。なぜなら、利用する顧客が増えるほどに、設備に再投資する資金が得られ、価格を下げ、機能をさらに拡張できるからだ。
しかし、すべての顧客が恩恵を受けられるわけではない。銀行や製薬といった規制の厳しい業界では、一部のデータをパブリック・クラウドにアップロードすることが禁じられている。加えて、研究所やそれに類する施設にとって、例えば遺伝子配列などの数テラバイトものデータを分析にかけるために、わざわざインターネット経由でAzureにアップロードすることは、非実用的だと言わざるを得ない。
また、クラウドコンピューティングは、いまだに多くのIT専門家から検証不十分なモデルとみなされており、そのクラウドに移行するためだけに、既存のサーバーやデータセンターに対するこれまでの投資を全て水の泡にするのは現実的でないと考える顧客も多い。つまり、ほとんどの顧客は1つずつ、少しずつクラウドに移行していく。
そこでAzure Stackの出番だ。同製品は事実上、Azure同様のソリューションを提供する。リソースの利用を効率化し、Azure同様の開発ツールも利用できる。違いは顧客のサーバー上で稼働するという点だけだ。
Azure Stackの登場
AzureとAzure Stackのツールとインフラストラクチャーは同じであるため、マイクロソフトはアプリケーションや一連のインフラストラクチャーの選択や移動、Azure Stackが導入済みの顧客のローカル・データセンターからAzureのパブリッククラウドへの移動は容易だと述べている。
Google Cloudのトップ、ダイアン・グリーン(Diane Greene)氏
AzureとAzure Stackの唯一の違いは、利用可能な処理能力とストレージだけだ。
アマゾンやグーグルは、主に独自のツールを開発しているスタートアップや外部の企業と提携する形で、ハイブリッド・クラウドに投資している。しかし、どちらもAzure Stackのようなサービスは開発できていない。
マイクロソフトのAzureは、現在クラウドサービス市場でアマゾンに次ぐ二番手だ。マイクロソフトがAzure Stackで形勢逆転を狙っているのは明らかだ。
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[原文:Microsoft finally releases its secret weapon in the cloud wars with Amazon and Google (MSFT)]
(翻訳:Yuta Machida)