カーライルが投資した九州のモヤシ会社 —— 元ゼンショー常務を社長に目指す"世界進出"

「63歳のときに心臓の手術をしたんです。このままでは、(会社の)成長は非常に遅い歩みになるだろうと、1人で悩んでいました」

60歳を越えた頃、ワンマン経営で指揮をとってきた九州GGCの経営者・水本勝清(66)は、もやし生産会社と300人の従業員の未来を真剣に考えるようになった。一方、1620億ドル(約18兆円)以上の資産を運用する世界屈指の投資会社の米カーライルは、その地方企業に隠れた未来の可能性を見た。カーライルともやし。一見関係のない両者が結びついたことで、水本は「世界でもやしを売る」グローバル企業に変身するための戦いを始めた。

水本会長

「人材もいない中で、社長が何から何まで決めるというのは、体力的にも自信がなかった」と話す九州GGC創業者・水本勝清氏。

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2015年8月、カーライル・ジャパンのディレクター、渡辺雄介(43)は九州GGCが取引する銀行の会議室にいた。渡辺の前にはテーブルを挟んで、口数の少ない水本が座り、静かに渡辺の話を聞いていた。

対照的な2社の初会合が開かれた2年前の夏の日から、親子ほどの年齢差がある渡辺と水本は、週に一度のペースで会い、議論を進めてきた。

日本経済の背骨を成す中小企業において、事業承継の問題はこの10年、その深刻さを増してきている。少子高齢化が次世代の経営人材の不足を招いた結果、自らの会社を廃業しようと考える中小・零細企業の経営者は少なくない。

その一方、資本業務提携などの手法を用いて、新しい資本を入れ、経営を変え、企業価値と規模のさらなる向上を目指す経営者は増加している。九州GGCの水本もその1人だ。

「体力的にも自信がなかった」

「人材もいない中で、社長が何から何まで決めるというのは、体力的にも自信がなかった。新しい組織体に持っていかないと、ダメなんだろうなと切実に感じていました」と、水本は語る。

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西日本でもやしのマーケットシェア・トップを誇る九州GGCは、大分と岡山で4つの工場を稼働させ、年間約80億円を売り上げる。

九州GGC

1990年創業、従業員数333人。西日本でもやしのマーケットシェア・トップを誇る九州GGCは、大分と岡山で4つの工場を稼働させ、年間約80億円を売り上げる。過去3年間、同社は年率約10%のペースで売り上げを伸ばしてきた。

農作物であるもやしを工場で効率的に栽培し、多いときでは1日に100万パックを出荷する。九州GGCのもやしブランドである「名水美人」は、国内市場で10%のシェアを獲得した。

カーライルが日本のもやし会社に投資を決めた理由は、安全なもやしを安定的に生産できる体制を持つ九州GGCが、海外市場でそのブランドを形成し、販売を拡大できるポテンシャルが大きいと見込んだからだ。もちろん、国内売り上げのさらなる拡大を図るための施策も同時に講じている。

2016年2月末、約4カ月の協議を終えて、九州GGCとカーライルは資本業務提携に合意。大分の地方企業はカーライルとの協業を開始し、グローバル市場でもやしとカット野菜の生産を行うトップ企業への歩みを始めた。

渡辺はこう話す。

「オーナー経営から脱却させ、組織経営の体制を作り、従業員の意識を変え、企業がビジョンを共有しながら、新しい成長戦略をスピーディに実行させることが、新生・九州GGCの最初の課題でした」

カーライルが出資をした後、1年強の引き継ぎ期間を経て、水本は会長となり、社長にはゼンショーで常務取締役を務めた原俊之が就いた。成長戦略室も開設し、CFO、マーケティング、生産管理、物流等の人材を強化。九州GGCの製造・営業・管理の本流を支えている経営陣・従業員が、作る・売る・記録するという現業を超えて、さらなる成長を可能にするための武器を整えてきた。

ワンマン経営から組織経営へ

渡辺ディレクター

「経営陣の皆が10年後の会社の未来を考えて、作っていく雰囲気が重要だ」と語るカーライル・ジャパンの渡辺雄介ディレクター。

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「少ない人数だから、それぞれが『なんでもやる』という形から、製造本部や営業本部、経営管理本部の守備範囲を決めました。経営会議を設けて、きちんとした議論をする場を作っていく。足りない人材は社外から引っ張ってくる場合もあります」(渡辺)

渡辺が次に変革を促したのは、九州GGCのビジネスの「見える化」だ。企業活動における販売、製造、予算などの情報を社員がリアルタイムに共有し、何が起きているのかを知り、次に必要なアクションは何かを考え、実行させるPDCA(Plan-Do-Check-Act=計画、実行、評価、改善)体制を整えた。

「野球で言えば、1人が頑張っても、チームメイトをやる気にさせないと勝てないですよね。目標を共有して、勝つ文化をつくらないといけない」

三菱商事に10年勤務し、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した渡辺は、2006年にカーライルに入社。中学、高校時代は野球に打ち込み、慶応大学在学中は出身高校・野球部のコーチを務めた。

渡辺は、九州GGCの管理職を対象に経営合宿も開いた。繰り返し議論し、経営チームとしての当事者意識を高める雰囲気を作りたかったと言う。

大分工場

九州GGCの大分工場

「経営陣の皆が10年後の会社の未来を考えて、アクションを自発的に起こし、チームで連携していく雰囲気が重要だと思います。それまでは、社長がいろいろ決められていたけれど、これからは組織経営が形を作っていき、製造と営業の人が協力してやっていかないと、会社はうまく回っていかない」(渡辺)

中華圏の人口をターゲットに

グローバルネットワークを有するプライベート・エクイティ投資会社(未公開株、PE)のカーライルと言えども、九州GGCが目指すもやしの世界展開は容易なことではないだろう。

中国ではもやしを食べる食習慣がある。九州GGCは今後、主に中国、台湾を中心に空輸による販売を検討している。ヨーロッパやアメリカの中国系の人口をターゲットにした販売拡大も可能だと、水本は強気だ。

国内では、スーパーへの直販を伸ばしてきた九州GGCだが、今後はコンビニエンス・ストアなど販路を増やしていく必要があると渡辺は言う。海外市場においては、もやしの機能性、野菜としての使いやすさ、そして九州GGCが作る安心で安全なもやしというブランドを広く認知させなくてはならない。

今月7月にシンガポール出張から戻った水本は言う。

「腐りやすいもやしを、東南アジアで展開するのはハードルが高いかもしれません。一方、中国や台湾、ヨーロッパ、アメリカで、それなりの高価格でも、品質が高く安全で安心のもやしの販売が伸びれば、現地に工場を建てることができるかもしれない」

「モンクレール」からベビースターまで

カーライルは1987年にワシントンD.C.で設立され、世界で30以上の拠点を持ち、1550人以上の投資のプロフェッショナルを擁する投資会社だ。年金基金や富裕層の投資家、政府系投資ファンドなどから総額18兆円以上の資産を預かっている。カーライルの投資は、1000億円を超える大型案件から小型・中堅のものまで多様だ。

「深い知見を有するセクター(業界)に投資する」と説明するカーライルだが、投資領域は航空宇宙や防衛・行政サービス、消費財・小売、エネルギー、金融、ヘルスケア、製造業などと幅広い。

カーライルのロゴ

カーライルは高級ダウンジャケットのモンクレールや「ベビースターラーメン」のおやつカンパニーに投資してきた。

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最高級グースダウンを使用したダウンジャケットで有名なイタリアのモンクレール(Moncler)。カーライルは2008年に同社の株式48%を取得した。その後、店舗数を増やすなどしてアジアを中心とする海外展開を進めた。2013年には、イタリアのミラノ証券取引所での上場を果たしている。

「モンクレールは、我々が小売戦略を強化させ、ヨーロッパ市場から海外展開を拡大させた良い例です。ブランドや店の雰囲気を大切にしながら、海外市場での拡大を進めていきました」と渡辺は話す。

「ベビースターラーメン」で知られる、1948年設立のおやつカンパニーもカーライルが投資した企業の1つだ。三重県津市に本社を置くおやつカンパニーは1959年に、ベビースターを10円で発売。国内の販路を拡大する一方で、香港や台湾、タイ、シンガポール、メキシコなどへの輸出を伸ばしていった。もちろん、渡辺はおやつカンパニーへの投資実績についても、水本との初会合の席で触れている。

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九州GGCは今後、主に中国、台湾を中心に空輸による販売を検討している。

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「黙って聞く水本さんを見ていて、少し不安な気持ちもありました」と、渡辺は水本との初会合を思い出す。「(渡辺は)朗らかそうな人だと思った。今では少しほっとした気持ちです」と話す水本。

事業承継という選択に迫られる中小企業・経営者が多くいる日本で、カーライルの後ろ盾を持った九州GGCが今後、いかにして世界のもやし企業に変身していくのか、目が離せない。

(本文敬称略)



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