中国の大学は「ユニコーン養成所」、毎年22万人が大卒即起業

天安門の前を自転車で通る人たち

黄色い車体がトレードマークのシェア自転車Ofoは今やすっかり北京の街に溶け込んでいる。

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マーク・ザッカーバーグがハーバード大学の学生時代に、ルームメートたちとFacebookを立ち上げたのは有名な話だ。

しかし、中国の大学生もアメリカに負けていない。

中国のシンクタンク麦可思研究院が6月に発表した「就業青書:2016年中国大学生就業報告」によると、2016年6月に大学を卒業した人の3%が、進学したり企業に入社したりせず、直接起業したという。2016年の大学(短大含む)卒業生は765万人。つまり22万人が卒業即起業している計算になる。

その代表格は、日本でも名前が知られるようになったシェア自転車スタートアップのOfo。北京大学卒業後に辺境地域で教師になった戴威(ダイ・ウェイ)が、自然豊かなその地でサイクリングに魅了され、2014年に大学院生として北京大学に戻った後にOfoを創業した。同社は、配車サービスの滴滴出行(ディディ・チューシン)やアリババグループから出資を受け、企業価値10億ドル超のユニコーン企業の仲間入りを果たした。

フードデリバリーの三強の一角を占め、今年春に同じくアリババから12億5000万ドルの出資を受けた餓了麼( Ele.me )は、上海交通大学の大学院生たちが2009年に創業した。創業メンバーは海外留学やグローバル企業への就職という機会を捨て、当時の中国でまだ存在しなかった自分たちのビジネスモデルに賭けた。

創業者が在学中に立ち上げたFacebook、ofo、餓了麼には、共通点がある。当初のユーザーが、学内の大学生だった点だ。

中国の大学生の大半は、キャンパス内かその近くにある寮で共同生活を送る。1室に数人がベッドを並べ、3度の食事は学生食堂や近場の飲食店で連れだって食べるから、家族のように密接な関係になる。広いキャンパスにはスーパー、食堂、写真館、宅配便取次ぎ所、美容院と、生活に必要な機能も一通りそろっている。つまり、大学が一つの集落のような社会を形成している。

ユーザーは学生、労働者も学生

筆者の一人である趙雪辰(以下、私)が在籍していた大連の大学には、そんな寮暮らしの学生にとって非常に便利なサービスがあった。

買い物を「使い走り」に頼めるアプリ「小蜜蜂(シャオミーフォン)」が登場したのは2014年春。「創業」メンバーの1人で事業を発案した王宏(ワン・ホン、22)によると、きっかけはささいなことだった。

授業がないある日、1日中寮の自室にこもっていた王宏はついに空腹に耐えられなくなり、外出先のルームメートに電話をして、夕食を買って来てくれるよう頼んだ。その際、買ってきてくれたルームメートにお礼としてアイスをごちそうした。この時、「キャンパスで買い物代行業を始めれば、儲けられるかもしれない」とひらめいたという。

王宏は1年生と2年生の学生たちに声をかけ、自分のアイデアを提案。7人で計2000元を出資し、メッセージアプリ「微信(WeChat)」に「小蜜蜂」という名のアカウントを開設した。

ユーザーが「小蜜蜂」を通じて、学校の食堂や売店での買い物を依頼すると、メンバー7人は代わりに購入し、寮まで配達。手数料1元(約16円)を受け取る。

今の中国はモバイル決済アプリの支付宝(アリペイ)と微信支付(WeChatペイ)のおかげで、どんな小さな取引でもキャッシュレスで送金できるが、当時は決済アプリが普及しておらず、手数料は商品代と一緒に現金で受け取っていた。

学生食堂

筆者が在籍していた大学の食堂。寮にはキッチンがないので、3食とも学生食堂で食べる学生が多い。小蜜蜂の注文の多くも、食堂のごはんのテイクアウトだった。

qian xin

小蜜蜂は起業してすぐに人気になった。特に天気が悪い日には、利用者が増えた。注文のほとんどは昼食と夕食の購入だったが、1日に数十件の注文が入るようになると、サークルのメンバー7人だけでは対応できなくなった。

そこで小蜜蜂は、学内でアルバイトを募集し、応募してきた30人に「パシリ」のアルバイトを依頼した。学生が住む寮は複数の建物に分かれていたため、7人は各棟の連絡係を担当し、買い物を頼みたい人とパシリを仲介した。こうして小蜜蜂の利用者は順調に増え、使ったことのない学生がいないくらい人気サービスになった。

しかし、この人気のサービスは長くは続かなかった。同年9月に7人が進級すると他のことで忙しくなり、小蜜蜂のアカウントを管理する余裕がなくなっていった。メンバーは新たに入学してきた1年生に事業を引き継いだが、アカウントの管理や30人の「パシリバイト」との連携は次第におざなりになり、引き継ぎ後1カ月経つと、バイトを辞める人が出てきた。その後は次々とパシリが脱落し、結局2015年4月、微信アカウントの有効期限の終わりとともにサービスは打ち切られた。

生活の延長にある巨大起業実験場

私の大学での「使い走り」事業は破綻してしまったが、実はこの業態は今、モバイル決済の普及もあって中国全土で急成長し、大規模に手掛けている会社も登場している。アプリを通じて買い物だけでなく、光熱費の支払いや行列に並ぶことも頼める。

パシリ代金は10元の設定が多く、アルバイトで使い走りをしている数人に聞いたところ、皆1日10件以上の注文を受けていた。大連でファストフードやレストランでアルバイトをした場合、時給は9~10元だから、それに比べても悪くないアルバイトだ。

私の同級生たちが考えた小蜜蜂は、ユニコーン企業に育つことはなく、小さなまま終わった。あの時代にモバイル決済があれば、顧客を学生以外に広げられていたかもしれない。小蜜蜂の利用代金は1元で、それを全部使い走りの学生に還元していた。だから、創業メンバーから事業を引き継いだ後輩たちは「ただ働き」となり、アカウントを真面目に管理しなくなった。思い返せば、反省点はたくさんある。ただ、やってみないと分からないことも多い。

学生たちの集合写真

寝食を共にする学生たちは卒業まで密接な関係を続ける。

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私は小蜜蜂をよく知っていたが、当時なぜサービスを終了したか、どんな人たちがやっていたのか全く知らなかった。今回、取材を進める中で、同級生として毎日顔を合わせていた王宏が中心メンバーだったと初めて気づいた。

キャンパスは一つの集落だ。多くの学生が共同生活していることは、創業という面で見ればたくさんのメリットがある。まず、すぐ集まれるのでアイデアを形にしやすい。そして、学内イントラネットで宣伝もしやすいし、口コミでも情報が広まりやすい。何より学生たちは時間があり、お金はそんなにないから、貴重な労働力になる。そして、生活の機能は一応あるが、不便を感じることも多く、解決の取り組みは皆に歓迎される。

だから大学が、巨大な起業実験場になる。

スタートアップの中心はシリコンバレーだけではない。北京大学のような一流大学だけでもない。中国の大学生にとって、起業は生活の延長にある。津々浦々でユニコーン企業の卵が、絶えず産み落とされているのだ。


王夢夢(河北省出身。漢族)、包志紅(内モンゴル自治区出身。モンゴル族)、趙雪辰(吉林省出身、満族)、浦上早苗による共同執筆。中国人の3人は大連の大学で日本語を専攻、1年間の日本留学を経て、今年6月に卒業。

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