NASA/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran
7月12日(現地時間)、NASAが10億ドル(約1100億円)を投じ、開発した木星探査機「ジュノー(Juno)」が送信した木星の最新画像は、実に驚くべきものであった。史上最も近距離からその姿が捉えられた大赤斑(上の画像)は、地球の直径の2倍ほどの、巨大な嵐の渦である。
探査機の可視光カメラJunoCamで撮影された画像は、一般の人々が大はしゃぎでカラー画像に加工処理しているが、科学者たちは撮影された画像のかつてない精度に驚いているという。
「ここ2、3日で、何度開いた口がふさがらなかったことか」とジュノーのチーム・リーダーで、NASAのジェット推進研究所(JPL)の惑星科学者、グレン・オートン(Glenn Orton)氏はBusiness Insiderに語った。
オートン氏率いるチームが、最新画像からこれまでに得たいくつかの発見を紹介しよう。
7月10日、ジュノー(テニスコート1面分の大きさ)は、大赤斑の上空約5600マイル(約9000km)を通過、史上最接近を果たした。
大赤斑上空を通過するジュノー。
NASA JPL/YouTube
これは、ジュノーの木星周回7周目の様子。53.5日で一周、時速13万マイル(時速約21万km)ほどで周回する。至近距離での撮影が困難な所以だ。
JunoCamによる画像が、リンゴの芯のような形をしているのも、そのためだ。
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Ted Stryk
木星、土星、天王星、海王星の大気や雲を研究するオートン氏は、いくつかの点に着目した。
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Roman Tkachenko (CC BY)
この3D画像は、JunoCamの画像を一般人が加工したものだ。オートン氏は、この画像がどのように加工されたのかは分からないが、嵐のドーム状の形を捉えていると同氏は指摘する。「大赤斑は一般的に、他のどの雲系よりもはるか高い位置にある」
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Carlos N. Jiménez (CC BY)
「大赤斑の形は、少し潰れたドームの内側に、もう1つ小さなドームが入ったような形で、その周りが堀で囲われている」とオートン氏。「堀」は、嵐が周囲を覆う雲に食い込んでいく際にできる溝を例えたものだ。
こちらはオートン氏お気に入りの1枚。大赤斑の様子をかつてないほど鮮明に捉えている。
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran
画像から、嵐の中心部(コア)が濃い赤色であることがはっきり分かる。「ハリケーンの目と同じで、中心部はほとんど動かない」とオートン氏は言う。
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran; Business Insider
嵐が赤い色をしているのは、紫外線による日焼けのような状態だからだという。
「アンモニアガスと炭化水素が触れ合うことで、ラボでもこの赤色のポリマーが再現できた。接触時間は長いほど、赤みが増すことも分かった」と、木星の大気中に存在する2つの主なガスに関する最近のJPLの実験について、オートン氏は述べた。
これが、動きの少ない中心部では赤色がより濃くなる、とオートン氏を含む科学者たちが考える根拠だ。
オートン氏は中心部のへりにある、見覚えのある何かに気付いた。「この白い斑点は何だ? 白い、ふわふわの雲だ」
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran; Business Insider
雲の前線が、他の前線に向かって嵐の中を押し進む様子がはっきりと写っていることにも驚いた。嵐の壁(赤色が薄くなりかけている)では、風速は時速300マイル(約480km)にもなるとオートン氏は言う。
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran; Business Insider
その高速の風が大赤斑の外壁をせり上がると、上昇気流と引力の働きによって「重力波」と呼ばれる波紋ができる。
NASA-JPL/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran; Business Insider
「これを初めて見たときには『ワオ! 』だった。予想通りの位置で、この現象が起きていた。ウインド・シアの一種だ」
研究者は皆、これまでとは全く異なる大赤斑の姿に圧倒された。
1996年6月26日にNASAの木星探査機ガリレオが撮影した大赤斑は、このような色だった。
NASA/JPL/Cornell University
「ワオ! 20年前にガリレオ(Galileo)が撮影したクローズアップ画像とは本当に違う! 2つの探査機の画像を比較したら面白いことがいろいろとわかりそうね」とナショナルジオグラフィック(National Geographic)に語ったのは、NASAゴダード宇宙飛行センターのエイミー・サイモン(Amy Simon)氏だ。
今回、ジュノーが捉えたのは、大赤斑だけではない。オートン氏が注目するのは、「北北温帯(NNTZ)小赤斑」(コミカルな名前だが、その大きさはほぼ地球と同じ)だ。
NASA/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt/Seán Doran
「この直径8000kmの嵐は、1990年代後半以降、木星に存在しているが、この画像の鮮明さは抜群だ。嵐は定期的に赤くなる」とイギリスの天体写真家、ダミアン・ピーチ(Damian Peach)氏はFacebookに投稿している。
これらの画像は、ジュノーが記録したデータのほんの一部に過ぎない。可視光カメラJunoCamは、探査機が搭載している8つのツールのうちの1つだからだ。他のツールは現在、オーロラや内部構造、磁場、放射線レベルなどを観測している。
木星の放射線帯を通過するジュノー。
NASA/JPL-Caltech
しかし、ジュノーも永遠に飛び続けるわけではない。NASAは2018年か2019年には、探査機を木星の雲に突入させる計画だ。これにより、エウロパ(Europa)やガニメデ(Ganymede)といった氷の海で覆われた木星の衛星に、地球のバクテリアが移るのを防ぐ。
NASA/JPL-Caltech
(翻訳:Ito Yasuko)